

監修医師:
佐伯 信一朗(医師)
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乳房肥大の概要
乳房肥大は、乳房組織の過剰な増大を特徴とする状態です。患者の体重に対して乳房組織が3%以上を占める場合を乳房肥大と定義することが提案されています。この状態は、患者の身体的・精神的な健康に大きな影響を及ぼす可能性があり、適切な治療介入が必要となります。発症時期は様々で、新生児期、思春期、妊娠期などで発症することが知られており、特に思春期での発症は患者の生活の質に重大な影響を及ぼす可能性があります。
乳房肥大の原因
乳房肥大は、主に女性ホルモンの働きによって引き起こされます。乳房は胎児期から発達が始まり、成長とともに徐々に大きくなっていきます。思春期に入ると、女性ホルモンの影響で乳腺が発達し、正常な乳房の成長が始まります。しかし、時にこの成長のバランスが崩れ、過剰な発育が起こることがあります。新生児期では母親からのホルモンの影響を受けることがあり、思春期では体内で作られるホルモンの変化、成人期では様々なホルモンバランスの変化が関係しています。
乳房肥大の前兆や初期症状について
乳房肥大の症状は、乳房の著しい増大に伴う身体的問題が主体となります。乳房の重さにより、姿勢の変化や背骨への負担が生じ、背中の痛みや肩こりの原因となります。皮膚が過度に伸びることで、つっぱり感や痛みが生じることがあります。また、乳房の下部で湿疹や皮膚の炎症が起きやすくなります。特に重症例では、各乳房が非常に重くなり、他者からの視線や背中の痛み、体を動かすことの制限など、より深刻な問題が生じます。症状が急速に進む場合には、皮膚の変化が起きることもあり、自然に良くなることは稀とされています。
乳房肥大の検査・診断
乳房肥大の診断は、年齢に応じて丁寧に行われます。赤ちゃんの場合は、乳房の大きさ、左右差、乳首の位置や分泌物の有無を確認します。子供の場合は、胸の触診を行い、しこりや痛み、早い時期からの乳房発育がないかを調べます。思春期以降は、立った状態で乳房の形や大きさの左右差、皮膚の状態などを観察します。横になった状態での診察も行い、乳房全体の状態を確認します。
乳房の大きさは定期的に測定され、記録されます。特に思春期の場合は、成長に伴う変化を確認するため、定期的な診察が重要です。また、乳房の発達が急に進んだ場合には、他の病気との区別も必要となることがあります。
乳房肥大の治療
治療は大きく分けて、手術をしない治療と手術による治療があります。
手術をしない治療
まず手術をしない治療として、適切なサイズの下着による支援が基本となります。特にスポーツをする際の支援は重要で、専用の下着の使用が勧められます。
手術による治療
手術による治療は、以下のような場合に検討されます。手術をしない治療で十分な改善が見られない場合や、症状が重く日常生活に大きな支障がある場合です。手術を行う時期については、特に思春期の患者さんでは、体の成長が落ち着いていることが重要です。通常、初めての月経から2年以上経過していることが目安となります。
手術後の経過も重要です。特に若い方の場合、傷跡が赤くなったり、硬くなったりすることがあり、1-2年程度かかって落ち着いていきます。傷跡の治りを良くするためのケア用品を使用することもあります。また、将来の授乳についても、適切な手術方法を選ぶことで可能となることが多いとされています。
医師は手術を検討する際、患者さんの体重や全身状態なども考慮します。特に体重が多い場合は、手術や麻酔による危険性が高くなる可能性があり、慎重な判断が必要です。また、傷の治りにも影響が出る可能性があります。
乳房肥大になりやすい人・予防の方法
乳房肥大になりやすい人
乳房肥大は、体内のホルモンバランスの変化が大きく関係しています。特に思春期、妊娠中、更年期など、ホルモンの変化が大きい時期には注意が必要です。また、甲状腺の働きが低下している場合や、卵巣の機能に問題がある場合なども、乳房肥大と関連があることが分かっています。
予防の方法
予防のためには、定期的な健康診断を受けることが大切です。特に思春期の方は、成長の様子を定期的に確認することが推奨されます。乳房の大きさや形に急な変化を感じた場合は、早めに医療機関を受診することが勧められます。
治療がうまくいくためには、患者さん本人はもちろん、家族の理解と協力も重要です。特に思春期の患者さんの場合は、心理的なサポートも大切な要素となります。学校や周囲の理解を得ることも、日常生活を送る上で重要となってきます。
関連する病気
- ホルモン異常
- 線維腺腫
- 乳房脂肪過形成
参考文献
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