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血の道症
前田 佳宏

監修医師
前田 佳宏(医師)

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島根大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院精神神経科に入局後、東京警察病院、国立精神神経医療研究センター、都内クリニックにて薬物依存症、トラウマ、児童精神科の専門外来を経験。現在は和クリニック院長。愛着障害やトラウマケアを専門に講座や情報発信に努める。診療科目は精神神経科、心療内科、精神科、神経内科、脳神経内科。 精神保健指定医、認定産業医の資格を有する。

血の道症の概要

血の道症(ちのみちしょう)は、漢方医学で用いられる概念で、心身の不調が複合的にあらわれる症候群です。
漢方医学では、「気(気力)」「血(血の巡り)」「水(水分)」の3つのバランスが崩れることにより、体調不良が起こると考えられています。

一方、西洋医学では同じ症状を「月経前症候群(PMS)」「更年期障害」「マタニティブルーズ」「産後うつ病」など、一つひとつの病気として扱います。とくに、月経・妊娠・出産・更年期などによるホルモンバランスの乱れによって、症状があらわれたり悪化したりしやすいとされています。

血の道症であらわれる症状を、いくつか紹介します。

  • 頭痛
  • めまい
  • 耳鳴り
  • 肩こり
  • 顔の赤み
  • 月経異常
  • イライラ感
  • 動悸・息切れ
  • 疲労感・だるさ
  • のぼせ・ほてり

血の道症による体調不良は、程度の差はあれども多くの女性が悩まされているといわれています。西洋と漢方、どちらの概念で診断・治療を行うかは、症状や本人の希望、医師の専門性などを考慮して決定されます。

血の道症の原因

血の道症の原因を、漢方医学と西洋医学の両面から解説します。

【漢方医学】血の異常

漢方医学では、血の道症は気・血・水のうち、血の巡りが悪くなる「瘀血(おけつ)」と血が不足する「血虚」と呼ばれる症状が大きな原因とされています。

瘀血を引き起こす代表的な要因と理由は、以下のとおりです。

  • ストレス:気の流れが悪くなり、結果的に血液の循環も悪化するから
  • 冷え:血液の循環が悪くなり、身体に必要な栄養が届かなくなるから
  • 運動不足:血の流れが滞りやすくなるから

とくに女性に多い「冷え」は、血の道症を悪化させやすいといわれています。

血虚を引き起こす代表的な要因と理由は、以下のとおりです。

  • 月経過多:大量の出血により、体内の血液量が不足するから
  • 栄養不足:鉄分やタンパク質など、血液を作るために必要な栄養素が不足することで、血が十分に補充されないから
  • 過労や睡眠不足:身体の回復が追いつかず、血液の生成が滞るから

とくに女性に多い「月経過多」や「栄養不足」は、血虚を引き起こしやすく、貧血や冷え性などの症状を悪化させる要因となります。

【西洋医学】ホルモンバランスの乱れ

西洋医学では、血の道症の最も重要な原因は、女性ホルモンのバランスの変化とされています。
とくに、エストロゲンプロゲステロンの分泌量が変動することが、さまざまな症状を引き起こします。これらのホルモンは、月経周期や妊娠、出産、更年期などにおいて、重要な役割を果たしています。

ホルモンの変動が顕著になる時期とおもな理由は、以下のとおりです。

  • 月経:月経前にエストロゲンとプロゲステロンのバランスが崩れるから
  • 妊娠と出産:妊娠中や出産後はホルモンの分泌が大きく変化したり、不安定になったりするから
  • 更年期:エストロゲンの分泌が減少し、自律神経に大きな影響を与えるから

個人差はありますが、ホルモンバランスの変化が起こるさまざまな時期に体調不良が起こるのです。

血の道症の前兆や初期症状について

血の道症の前兆や初期症状は、以下のとおりです。

  • 月経異常:月経周期が不規則になったり経血の量が変わったりする
  • 精神的な症状:不安やイライラが強まったり、感情の起伏が激しくなったりする
  • 身体的な症状:頭痛、めまい、疲労感、のぼせ、ほてりなどが出る

これらの症状は、ホルモンバランスの変化や血の流れの滞りによって引き起こされることが多くみられます。
気になる症状がある場合は、産婦人科もしくは漢方専門医を受診しましょう。

血の道症の検査・診断

血の道症の診断は、おもに以下の方法で行われます。

  • 問診:患者さんの症状や生活習慣、ストレスの有無を詳しく聞き取る
  • 身体検査:血圧や脈拍、体温などの基本的な健康状態を確認する
  • 血液検査:血液検査をして貧血やホルモン値を確認する

また、東洋医学に精通した医師の場合、以下の「四診」をもとに診断するケースもあります。

  • 望診(ぼうしん):顔や皮膚の色、舌の様子など、「視覚」を用いた診察
  • 聞診(ぶんしん):声の大きさやにおいなど「聴覚」「嗅覚」を用いた診察
  • 問診(もんしん):病歴や自覚症状、本人の体質(熱がり・寒がりなど)を聞き取る質問
  • 切診(せっしん):脈やお腹を触り、張りの強さや触って痛がるかなどの「触覚」を用いた診察

東洋医学では医師の「五感」を用いて診断するのが、「数値」で判断する西洋医学との大きな違いです。

血の道症の治療

血の道症の治療法を、順番に解説します。

漢方薬の服用

血の道症には、症状や体質に合わせた漢方薬がおもに処方されます。

  • 加味逍遙散:疲れやすさ、便秘、精神不安などがある中等度以下の体力の人
  • 当帰芍薬散:腰や足が冷えやすく、筋肉が弱くて疲れやすい人
  • 桂枝茯苓丸:体格がしっかりしており、赤ら顔のある人

どの漢方も、気・血・水のバランスを整えて体調を改善する効果があります。「血の道症」に適応があるのは3つのうち加味逍遙散のみですが、具体的な症状に合わせて柔軟な処方が行われます。

そのほかに、血の道症に適応がある漢方薬は「柴胡桂枝乾姜湯」「女神散」「四物湯」などです。体質や症状に合わせて、医師は処方を決定しています。

女性ホルモン剤による治療

血の道症は東洋医学に基づいた考え方の病気ですが、 必要に応じて、西洋医学的なホルモン剤の投与を行うケースもあります。血の道症は、おもにエストロゲンの減少によって起こるため、女性ホルモンの投与で症状が改善するケースは珍しくありません。

女性ホルモン剤とは、「エストロゲン」や「プロゲステロン」といった女性ホルモンを補充する薬です。更年期症状に対しては「ホルモン補充療法のホルモン剤(ホルモン補充療法)」、月経に関するトラブルには「低用量ピル」など、症状に応じてさまざまなホルモン剤から適したものが選ばれます。

ホルモン補充療法で補充する女性ホルモンは、以下のとおりです。

エストロゲン ・月経周期の調整や骨密度の維持、心血管系の健康に関係する
・減少するとほてりや不安感、抑うつ症状などが出るケースがある
プロゲステロン ・エストロゲンの作用を調整し、子宮内膜を健康に保つ
・子宮のある女性に対しては、エストロゲンと併用して投与される

飲み薬や貼り薬、膣剤など、さまざまなタイプの薬があり、症状や希望に応じて処方が行われます。

しかし、女性ホルモン剤には「血栓症」「不正出血」「乳房の張り」「乳がん」などのリスクを上げる可能性がある薬もあります。そのため、持病や薬の制限がある人は必ず医師へ伝えるようにしましょう。

精神的な症状が強い場合は、女性ホルモン剤に加えて抗不安薬や抗うつ薬などを使うケースもあります。

生活習慣の改善

薬の処方に加えて、ストレス管理適度な運動バランスの取れた食事なども血の道症の改善には欠かせません。

食生活の改善 ・血液の循環やホルモンバランスの改善によい
・脂質や塩分の摂りすぎを控え、タンパク質や鉄分も不足しないように心がける
・過度の飲酒は避ける
定期的な運動 ・血流を良くしたり、ストレスを軽減したりする効果が期待できる
・有酸素運動と筋肉を鍛える運動を組み合わせるとよい
十分な休息 ・質の良い睡眠は、ホルモンバランスを整え、ストレス軽減にも効果的

無理のないように、少しずつ始めるとよいでしょう。

血の道症になりやすい人・予防の方法

血の道症になりやすい人は、以下のような特徴を持つことが多いとされています。

  • ホルモンバランスが不安定な人
  • 月経不順や妊娠中、出産後の人
  • ストレスを多く抱える人

血の道症を予防するには、以下の方法を検討してみましょう。

  • 趣味や運動により、ストレスをためすぎないようにする
  • 睡眠や食事内容を見直し、生活習慣をととのえる
  • 体調維持や血行促進のために適度な運動を取り入れる
  • 体調が悪くなる周期を記録して分析してみる

セルフケアで体調が改善しない場合産婦人科医もしくは漢方専門医を受診し、適切な治療を受けることをおすすめします。

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