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軟産道強靭
馬場 敦志

監修医師
馬場 敦志(宮の沢スマイルレディースクリニック)

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筑波大学医学群医学類卒業 。その後、北海道内の病院に勤務。 2021年、北海道札幌市に「宮の沢スマイルレディースクリニック」を開院。 日本産科婦人科学会専門医。日本内視鏡外科学会、日本産科婦人科内視鏡学会の各会員。

軟産道強靭の概要

軟産道強靭(なんさんどうきょうじん)とは、妊娠や出産の進行にともなう軟産道の成熟が乏しく、伸展性が低い状態をいいます。

軟産道とは出産時の胎児の通り道であり、子宮下部や子宮頸部、膣、外陰部の一部を指します。

軟産道の伸展性や柔軟性には、子宮頸管熟化不全などの組機能的因子や、子宮頸管の瘢痕性硬縮や子宮頸部筋腫などの器質的因子が関係していると考えられています。

軟産道の組織は加齢によっても伸展性や柔軟性が低下するため、高齢で初めて出産する場合には、軟産道強靭が発生するリスクが高いとされています。

軟産道の柔軟性が低いと出産時に胎児が通過することができず、出産時間が長引き母体への負担が大きくなる可能性があります。

また、母体の負担増加のみでなく、胎児仮死につながるリスクもあります。

妊娠時の状況や分娩の進行状況、母体や胎児の状態を総合的に判断し、必要に応じて会陰切開や帝王切開が検討されます。

軟産道強靭

軟産道強靭の原因

軟産道強靭の主な原因は、機能的な原因と器質的な原因に大別されます。

機能的な原因として多いのは子宮頚管熟化不全で、これは妊娠や分娩の進行にともなう子宮頚管の伸展性が乏しい状態をさします。

子宮頚管が十分に伸展しない場合、子宮口が開きにくくなり、分娩が遷延するリスクが高まります。

ほかにも、精神的な不安やストレスにより子宮頚管周囲の筋がけいれんすることも軟産道強靭の一因です。

器質的な原因としては子宮頸部筋腫や子宮頸部浮腫、膣中隔などが挙げられますが、これらは比較的まれなケースです。

また、高年齢で初めて出産する場合も軟産道強靭のリスクが高まります。

軟産道強靭の前兆や初期症状について

軟産道強靭は、医師が確認するまでは妊婦自身が症状を感じとることは難しいです。

人によっては動いた際に通常よりも強い張りや違和感を感じることもあるかもしれませんが、これらの感覚だけを頼りに軟産道強靭を判断することはできません。

安全に出産を行うためにも、定期健診で医師による適切な診察を受けることが重要です。

また、ストレスを溜め込んだり不安な気持ちを抱えることは軟産道強靭のリスクが高まる可能性があるため、気になることがある場合は医師や周囲の人に相談し、ストレスの軽減に努めましょう。

軟産道強靭の検査・診断

軟産道強靭の診断において、子宮頸部筋腫の有無や浮腫などの器質的異常や、子宮頸部の熟化の程度を把握することが重要です。

診断には、子宮頚管の成熟度を判定する Bishop score(ビショップスコア)という指標が用いられることが一般的です。

具体的には、頸管開大度、頸管展退度、児頭下降度、頸管硬度、子宮口位置の5つの指標をスコア化して合計点を計算します。

13点で満点で、陣痛が発来していない状態において4点に満たない場合、子宮頚管の熟化が乏しいと判定されます。

出典:秋田大学大学院医学系研究科「産科で重要なスコア」
出典:杏林社 日産婦誌61巻10号「D.産科疾患の診断・治療・管理」

このような指標や膣壁や会陰部の硬さなどを総合的に判断し、出産に向けた母体の準備状態を確認します。

ほかにも、妊婦の年齢や子宮に関する既往歴、精神的なストレス状態などの把握も軟産道強靭性のリスクを推測する上での重要な要素となります。

診断結果に基づいて、個別性に応じた適切な対策や分娩方法などを提案します。

軟産道強靭の治療

軟産道強靭に対する治療は物理的方法と薬物的方法の2つに分けられます。

物理的な治療方法では、医師が手や専門の器具を使用して、子宮頸部を徐々に広げます。

これらの治療は医師による熟練された高い技術を要するほか、破水や出血、感染を引き起こす可能性もあるため、母体や胎児の状態を十分に観察しながら慎重に進めていくことが求められます。

薬物的方法では、子宮頚部を柔らかくする薬や子宮の筋肉の緊張をやわらげる薬など、さまざまな薬剤の使用を検討しながら実施します。

どの治療方法が適しているか、母体や胎児の状態などを総合的に判断して決定します。

軟産道強靭の状態が改善されない場合や、母体と胎児の健康状態を優先する必要がある場合には、会陰切開や帝王切開を選択することもあります。

軟産道強靭になりやすい人・予防の方法

軟産道強靭になりやすい人は、高齢で初めて出産する人や子宮頸部に器質的な問題がある人、子宮頸部の成熟が未熟な人です。

初産の年齢が高いと、加齢によって軟産道の組織の弾力性や柔軟性が低下し硬くなる可能性があります。

また、子宮頚管の手術や処置を受けたことによる瘢痕がある人や、腫瘍があるといった器質的な問題を抱えている人も軟産道強靭になりやすいといえます。

ほかにも過度なストレスや不安を抱えている場合、子宮頚管周囲の筋肉がけいれんを起こし、軟産道強靭を招く場合もあります。

加齢や器質的な問題、機能的な問題に対して、妊婦自身で備えることは難しいこともあることでしょう。

妊婦が自身でおこなえる予防の方法としては、十分な休息を取りリラックスできる時間を確保して、過度なストレスや不安をなるべく軽減するように努めましょう。

不安を感じる際は家族や友人など周囲の人に話を聞いてもらったり、主治医や助産師、看護師に相談したりすることをおすすめします。


関連する病気

  • 子宮頚管熟化不全
  • 子宮頸部筋腫
  • 子宮頸部浮腫
  • 膣中隔

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