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機能性子宮出血
佐伯 信一朗

監修医師
佐伯 信一朗(医師)

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兵庫医科大学卒業。兵庫医科大学病院産婦人科、兵庫医科大学ささやま医療センター、千船病院などで研鑽を積む。兵庫医科大学病院産婦人科 外来医長などを経て2024年3月より英ウィメンズクリニックに勤務。医学博士。日本産科婦人科学会専門医、日本医師会健康スポーツ医、母体保護法指定医。

機能性子宮出血の概要

機能性子宮出血は、月経以外の子宮からの出血のうち、妊娠に関係した出血や器質的な病気(腫瘍・炎症・血液疾患など)による出血を除いたものを指します。この病気は主に女性ホルモンの分泌の乱れによって起こると考えられています。思春期更年期に多く見られ、全体の約20%は思春期に、50%以上は45歳以上の方に発生します。 子宮内膜は女性ホルモンのエストロゲンによって厚くなり、さらにプロゲステロンというホルモンが加わることで分泌活性を示します。通常の月経では、これらのホルモンが規則正しく変動することで、約28日周期で出血が起こります。しかし、これらのホルモンバランスが崩れると、不規則な出血が起こることがあります。

機能性子宮出血の原因

思春期では、脳からのホルモン分泌を調節する視床下部-下垂体系が未熟なために、排卵のきっかけとなるLHホルモンの急激な上昇(LHサージ)が起こらず、卵胞が破裂せずに残ってエストロゲンを出し続けることがあります。これにより不規則な出血が起こります。 更年期では、卵子の質が低下することで卵胞が破裂せずに残り、同様にエストロゲンが長く作用し続けることで不正出血を引き起こすことがあります。このように、プロゲステロンが不足した状態でエストロゲンだけが長期に作用すると、子宮内膜が過剰に増殖することがあります。

機能性子宮出血の前兆や初期症状について

機能性子宮出血の特徴は、月経とは異なる不規則な出血パターンを示すことです。出血の量や期間は様々で、時には少量の出血が長く続いたり、逆に大量の出血が突然起こったりすることがあります。排卵を伴わない出血の場合は、通常の月経で見られる下腹部痛などの症状をほとんど伴わないことが特徴です。 また、エストロゲンが長期間続いた場合や、ホルモン治療を長く続けた場合には、ホルモン濃度がわずかに変動しただけでも、厚くなった子宮内膜の一部が剥がれ落ちることがあります。これを破綻性出血と呼び、不定量の出血が不規則に繰り返されたり、持続したりします。

機能性子宮出血の検査・診断

診断の基本は、他の病気を除外していくことです。まず妊娠による出血でないことを確認し、次に器質的な病気による出血を除外していきます。経腟超音波検査は最も基本的な検査方法で、子宮や卵巣の器質的な病気を調べる上で重要です。この検査では、子宮筋腫は正常な筋層より低い輝度の腫瘤として観察され、周囲への圧迫による変形が特徴的に見られます。子宮内膜ポリープは、子宮内膜と同程度の明るさを持つ部分として観察され、内膜の動きを注意深く観察することで発見できることがあります。 より詳しい検査が必要な場合、生理食塩水を子宮内に注入して超音波で確認を行う検査を行います。この検査では、子宮内腔の形状をより明確に観察することができ、特にポリープや粘膜下筋腫などの内膜病変の診断に有効です。内膜が厚い場合でも、これらの病変を見つけやすいという利点があります。 子宮鏡検査は、細い内視鏡で直接子宮内を観察する検査です。ポリープは表面が平滑で硬く、血管の少ない腫瘍として観察され、色調は正常内膜とほぼ同じです。粘膜下筋腫は広い基部を持って内腔に突出する硬い腫瘤として観察されます。 内分泌検査は症状から必要性が疑われる場合にのみ行います。例えば、無排卵を疑う場合は血中プロゲステロン値を測定します。また、甲状腺の異常が疑われる場合はTSH検査を、乳汁分泌がある場合はプロラクチン値の測定を行います。これらがまとめて行われることもあります。

機能性子宮出血の治療

機能性子宮出血の治療は、出血の状態によって大きく二つの方法に分かれます。一つは「急に大量の出血が起こる場合の治療」、もう一つは「少量の出血が長く続く場合の治療」です。 急に大量の出血が起こる場合は、すぐに止血することが重要です。この場合、女性ホルモンの一種であるエストロゲンと、もう一つの女性ホルモンであるプロゲステロンを組み合わせた薬を使います。これらの薬は錠剤で服用することが多く、通常10日間から28日間続けます。出血が特に多い場合は、より早く効果が現れる注射による治療を行うこともあります。また、出血を抑える作用のある薬を追加することもあります。 慢性的に少量の出血が続く場合は、年齢に応じて異なる治療を行います。若い方の場合は、女性ホルモンを低用量で含む薬を使用します。この薬は通常、3週間服用して1週間休む方法や、最長4か月間連続で服用して4日間休む方法があります。この治療は月経痛を和らげる効果もあります。 一方、閉経に近い年齢の方の場合は、女性ホルモンの分泌を調整する別タイプの薬を使用します。これらの薬は、錠剤で毎日服用するタイプと、4週間に1回注射するタイプがあります。どちらも最長6か月まで使用可能です。 薬の選択は、出血の程度、年齢、他の病気の有無、患者さんの希望などを考慮して、医師と相談しながら決めていきます。また、治療開始後も定期的に診察を受け、薬の効果や副作用の有無を確認することが大切です。 治療を始めても3か月以上出血が続く場合は、別の病気の可能性も考えられるため、もう一度詳しい検査を行うことがあります。特に不正出血が続く場合は、がんなどの重大な病気の可能性も考えられるため、医師に相談することが重要です。

機能性子宮出血になりやすい人・予防の方法

機能性子宮出血になりやすい人

思春期の女性更年期に近づいている女性は、ホルモンバランスが不安定になりやすいため、機能性子宮出血を起こしやすいといえます。また、強いストレスや極端な体重変動、不規則な生活リズムなども、ホルモンバランスに影響を与える可能性があります。

予防の方法

予防としては、規則正しい生活リズムを保ち、適度な運動を行い、バランスの取れた食事を心がけることが重要です。また、定期的な婦人科検診を受けることで、早期発見・早期治療につながります。特に不規則な出血が続く場合は、がんなどの重大な病気の可能性も考えられるため、医師に相談することが大切です。

参考文献

  • Pitkin J: Dysfunctional uterine bleeding. BMJ 2007; 334: 1110-1111.
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  • Munro MG, et al: Int J Gynaecol Obstet 2018; 143(3): 393-408.
  • 本邦における月経異常診断の標準化と実態調査に関する小委員会: 日産婦会誌 2020; 72(6): 667-75.

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