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黄体嚢胞
中里 泉

監修医師
中里 泉(医師)

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2008年宮崎大学卒業後、東京都立大久保病院にて初期研修。東京大学医学部付属病院産婦人科に入局。東京大学医学部付属病院、東京北医療センター、JR東京総合病院などの勤務を経て、現在は生殖医療クリニックに勤務。日本産科婦人科学会専門医。

黄体嚢胞の概要

黄体嚢胞は、一時的に卵巣できる嚢胞です。 腫瘍ではありませんが、腫瘍に見える「類腫瘍(腫瘍様)病変」と呼ばれる病態で、機能性嚢胞やルテイン嚢胞とも呼ばれます。 排卵後に生じる黄体からできた良性の嚢胞で、思春期〜閉経前の生殖年齢の女性に生じます。5~7%に生じるとされており、決して珍しいものではありません。妊娠初期に認められることもありますが、妊娠16週頃までに90%以上が消失します。

黄体嚢胞は排卵した卵巣にできるため、基本的には片側・単発性に生じます。しかし、卵巣腫瘍と似たような形態を示す場合があり、鑑別するためには月経周期を考慮した経過観察が重要です。一般的に、黄体嚢胞であれば数日から数週間程度で消失します。

また、排卵時に出血して黄体に血液が溜まったものは出血性黄体嚢胞と呼ばれます。月経1週間前の時期に好発します。新生血管の増生によって出血を来たしやすい状態で、右側の方が60~80%卵巣出血の頻度が高いと言われています。多くは自然に吸収されるので、黄体嚢胞と同様に経過観察していると消失します。

黄体嚢胞と他の卵巣疾患との違い

黄体嚢胞は通常なら月経周期内で消失しますが、画像検査でもほかの卵巣疾患と見分けがつきにくいものもあります。

卵巣腫瘍 卵巣腫瘍は、良性・悪性問わず、固形部分が見られることが多く、超音波検査で内部構造が異なります。黄体嚢胞は通常、均一な液体が充満しており、形状も比較的滑らかです。 卵巣囊腫 卵巣囊腫は長期間にわたって増大する傾向があり、自然消失しにくいです。一方、黄体嚢胞は長くても数週間で消失するケースが一般的です。これらの違いは、月経周期を考慮した経過観察で鑑別します。 多嚢胞性卵巣症候群(PCOS) PCOSは、卵巣全体に小さな嚢胞が散在しているのが特徴で、ホルモンバランスの乱れを伴います。黄体嚢胞は基本的に単発性・片側性である点で区別されます。

黄体嚢胞の原因

黄体嚢胞は、月経周期中に自然と生じます。排卵期になると卵胞が破裂して排卵が起こり、卵胞は黄体となります。黄体に水が溜まって嚢胞となったものが黄体嚢胞です。 通常の排卵以外にも、以下の様な理由で発生する可能性があります。

妊娠 妊娠初期は、黄体が胎盤が形成されるまでホルモンを分泌し続けるため、一時的に黄体嚢胞が生じることがあります。 絨毛性疾患 異所性妊娠や胞状奇胎などの絨毛性疾患は、hCGが卵巣を過剰に刺激するため黄体嚢胞が生じる場合があります。 不妊治療 hCG投与や排卵誘発剤などによって黄体の細胞が過剰に刺激されて嚢胞が生じることがあります。OHSS(卵巣過剰刺激症候群)と呼ばれる状態で、この場合は両側・多数性に嚢胞が出ることがあります。

これらはhCGの過剰刺激によって黄体化莢膜細胞が過形成となり、内部に漿液性の分泌物が貯まって嚢胞化することで生じます。病的な変化ではありませんが、不妊治療中や妊娠中の場合は慎重な経過観察が必要です。

黄体嚢胞とホルモンバランスの関係

黄体嚢胞は、排卵後に黄体が形成されるにあたってのホルモンバランスと深く関係しています。 排卵後、卵胞は黄体に変化して黄体ホルモンのプロゲステロンを分泌します。プロゲステロンは、妊娠を維持するために子宮内膜の厚さを保つ役割を果たしますが、このホルモンから異常な刺激があると嚢胞が形成されることがあります。 また、黄体嚢胞ができたとしても月経周期の後半に消えることが多いですが、ホルモンバランスが崩れていると長い間残る可能性があります。

黄体嚢胞の前兆や初期症状について

黄体嚢胞に特に決まった症状はなく、無症状の方も多いでしょう。そのため、一般的にはほかの理由で検査したり、検診を受けたりした時に偶然見つかることがほとんどです。 場合によっては月経不順無月経下腹部痛腹部のしこりなどの症状が現れることがあります。

また、出血性黄体嚢胞が破裂して腹腔内で大量に出血した場合、茎捻転が起きた場合は激しい腹痛を生じ、発熱、吐き気、排尿障害、ひどいとショック状態に陥る可能性があります。茎捻転を放置すると卵巣が壊死して機能を失う可能性もあるため、早急な処置が必要です。 黄体嚢胞が破裂して緊急手術を受けた女性でも、適切な管理で卵巣機能が維持される可能性が高いとされています。

下腹部の張りなど、黄体嚢胞に関わる症状があれば婦人科を受診しましょう。しかし、前述の通り気が付かずに過ごすことも多いと考えられます。 急に下腹部痛が生じたら、場合によっては救急の受診も検討しましょう。ひどい場合は命に関わる可能性もあります。

黄体嚢胞の検査・診断

黄体嚢胞の診断は、月経周期などの問診外診内診を行い、超音波検査を実施して行われます。必要であればCTやMRIなどを撮ることもあるでしょう。また、妊娠の有無も確認します。 妊娠の可能性が除外され、自然に消失すれば黄体嚢胞だと考えられます。もし消失せずに残存している場合は、月経周期を考慮して、1〜3ヵ月後に再診・経過観察を行います。

黄体嚢胞の治療

黄体嚢胞は、基本的に治療は必要なく、定期的な超音波検査で消失したことを確認します。しかし、以下のような場合は治療が必要になります。

自然破裂による出血 腹腔内出血や腹痛が生じても、軽度の場合は安静にしていれば改善します。自然と出血は吸収されると言われていますが、大量に出血した場合は緊急手術が必要です。 茎捻転 捻転によって卵巣への血流が遮断されると、卵巣切除などの処置が検討されます。 不妊治療 hCG投与に関連してOHSSが発生した場合、酷い場合は治療法の計画を見直す必要が生じる可能性があります。

これらは治療後も定期的な経過観察が推奨され、再発や他の疾患の可能性を排除するためのフォローアップを行うこともあるでしょう。

黄体嚢胞が破裂した場合の対処法や治療法

もし黄体嚢胞が破裂してしまった場合、腹腔内出血によって激しい下腹部痛や出血性ショックによる頻脈や低血圧が起こることがあります。その他、吐き気、冷や汗、排尿困難などの症状がおこり、重症になると輸血が必要になります。 その際は、腹腔鏡下手術などで止血や嚢胞の摘出が行われることがあります。適切な治療でほとんどは将来の妊娠や卵巣機能に問題なく回復しますが、しばらく経過観察が推奨されることがあるでしょう。

黄体嚢胞になりやすい人・予防の方法

黄体嚢胞は排卵に伴って生じるため、月経がある思春期~閉経前の女性に起こります。若い女性に多いという報告もありますが、前述の通り無症状で気付かれないことが多く、実際の発生率は不明です。また、不妊治療を行っている人は、hCG投与の影響で黄体嚢胞が生じやすいと言われています。

現時点では、特に予防法はありません。しかし、早期発見や合併症の予防として出来ることを挙げます。 定期的に婦人科検診を受診する:健診で黄体嚢胞を見つけ、適切に対処できます。 異常があれば早めに受診する:月経異常や腹痛などの症状が合ったら、軽く考えずに一度婦人科を受診しましょう。 不妊治療の際に注意する:担当医と話し合い、黄体嚢胞の発生リスクをなるべく抑えられるようにしましょう。

関連する病気

  • 多嚢胞性卵巣症候
  • 卵巣過剰刺激症候群

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