

監修医師:
佐伯 信一朗(医師)
膀胱瘤の概要
膀胱瘤とは、膀胱が正常な位置から下降し、腟の前壁を押し出す状態を指します。この疾患は骨盤底筋群や結合組織の支持機能が低下することによって発生し、特に女性に多くみられます。症状は軽度から重度まで幅広く、進行すると日常生活に影響を及ぼすことがあります。治療には保存的治療から外科的手術までさまざまな選択肢があり、患者の状態や希望に応じた管理が重要となります。
膀胱瘤の原因
膀胱瘤は主に骨盤底支持組織の損傷や機能低下が原因で発生します。加齢や出産、肥満などがリスク要因として挙げられ、これらが重なることで膀胱の支持機能が低下しやすくなります。加齢による骨盤底の筋肉や結合組織の弱化は、膀胱の支持力を低下させる一因となります。特に経腟分娩は骨盤底筋に大きな負担をかけ、膀胱瘤の発生リスクを高めることが知られています。鉗子分娩や吸引分娩を経験した場合、さらに影響を及ぼす可能性があります。
また、体重の増加による骨盤底への負担も膀胱瘤の原因となります。肥満の影響で腹圧が増し、膀胱の支持機能が低下しやすくなります。さらに、慢性的な咳や便秘、重いものを頻繁に持ち上げることが習慣化している場合も、膀胱瘤の発生に関与することがあります。家族歴のある人は、遺伝的な要因から膀胱瘤のリスクが高いと考えられます。加えて、子宮摘出術(子宮全摘術)などの骨盤手術は、骨盤底の支持構造に影響を与える可能性があります。
膀胱瘤の前兆や初期症状について
膀胱瘤の症状は軽度のうちは自覚されにくいものの、進行すると特徴的な症状が現れます。腟内の圧迫感や膨満感があり、膀胱が下降することで腟内に何かが詰まっているような感覚を覚えることがあります。尿失禁や排尿障害が生じ、特に運動時やくしゃみ、咳をした際に尿漏れが悪化することが見受けられます。性交時に違和感や痛みを感じることもあり、膀胱の下降による圧迫感が原因となる場合があります。
また、膀胱が圧迫されることで頻繁に尿意を感じる頻尿や夜間頻尿が起こることがあります。排尿後に膀胱の完全な排出が困難になり、残尿感を伴うケースも少なくありません。膀胱瘤が進行すると、膀胱の出口が屈曲し、排尿困難や尿の流れが弱くなることがあります。
膀胱瘤の検査・診断
膀胱瘤の診断には、患者の症状の評価と身体診察が不可欠です。まず骨盤内診を行い、腟壁の膨らみを確認します。尿流動態検査を実施し、排尿機能の異常がないかを評価します。超音波検査では、膀胱の位置や機能を詳細に把握することができます。
さらに、MRIやCTスキャンを用いて、重症例や手術前の詳細な評価が行われることがあります。また、Pelvic Organ Prolapse Quantification(POP-Q)システムが、膀胱瘤の重症度を分類する指標として使用されます。POP-Qシステムでは、膀胱の突出の程度を4段階に分類し、治療の指針とします。
膀胱瘤の治療
膀胱瘤の治療法は、患者の症状の程度や生活の質への影響を考慮して選択されます。保存的治療としては、骨盤底筋を強化するKegel体操があり、軽度の膀胱瘤の進行を防ぐ効果が期待できます。膣ペッサリーを用いることで、腟内に装着し膀胱を支えることも可能です。さらに、肥満の管理や便秘の予防、重い物を持つ機会を減らすといった生活習慣の改善も有効とされています。
外科的治療としては、前腟壁形成術があり、膀胱瘤の修復を目的とした手術で、膀胱を適切な位置に固定する方法です。仙骨腟固定術では、メッシュを使用して膀胱を支持し、腹腔鏡下で行われることが一般的です。また、経腟メッシュ手術も選択肢の一つですが、合併症のリスクが指摘されており、慎重な判断が求められます。
膀胱瘤になりやすい人・予防の方法
膀胱瘤のリスクが高い人には、加齢、経腟分娩の経験がある人、肥満、慢性的な腹圧上昇がある人などが挙げられます。予防のためには、骨盤底筋トレーニングを習慣化し、骨盤底の強化を図ることが推奨されます。適切な体重管理を行い、肥満を防ぐことも重要です。
便秘を予防し、排便時の過度な腹圧を避けることが膀胱瘤の発生リスクを低減させます。適度な運動を行い、全身の筋力を維持することも予防策の一環とされます。加えて、喫煙が骨盤底筋群の血流を低下させるため、禁煙も予防の一助となります。
参考文献
- Giri A, Hartmann KE, Hellwege JN, Velez Edwards DR, Edwards TL. "Obesity and pelvic organ prolapse: a systematic review and meta-analysis of observational studies." Am J Obstet Gynecol. 2017 Jul;217(1):11-26.e3.
- Nygaard I, Barber MD, Burgio KL, et al. "Prevalence of symptomatic pelvic floor disorders in US women." JAMA. 2008 Sep 17;300(11):1311-6.
- Mant J, Painter R, Vessey M. "Epidemiology of genital prolapse: observations from the Oxford Family Planning Association Study." Br J Obstet Gynaecol. 1997 May;104(5):579-85.
- Maher CF, Feiner B, DeCuyper EM, et al. "Laparoscopic sacral colpopexy versus total vaginal mesh for vaginal vault prolapse: a randomized trial." Am J Obstet Gynecol. 2011 Apr;204(4):360.e1-7.




