

監修医師:
西野 枝里菜(医師)
東京大学理学部生物学科卒
東京大学薬学部薬科学専攻修士課程卒
名古屋大学医学部医学科卒
JCHO東京新宿メディカルセンター初期研修
都立大塚病院産婦人科後期研修
久保田産婦人科病院
【保有資格】
産婦人科専門医
日本医師会認定産業医
目次 -INDEX-
月経前不快気分障害の概要
月経前不快気分障害(Premenstrual Dysphoric Disorder:PMDD)は、月経前1〜2週間の期間にあらわれる深刻な精神的および身体的な不快症状が特徴の病気です。
代表的な症状は、以下のとおりです。
- 強いイライラや不安
- 気分の落ち込み
- 疲労感
- 食欲の変化(おもに過食)
- 体重の増加
さまざまな不快症状は月経開始とともに軽減または解消するため、体調の良し悪しが月経周期と一致するのが月経前不快気分障害の特徴です。初経前、妊娠中、閉経後の女性には症状があらわれず、月経がある女性のみに症状があらわれます。
また、月経前不快気分障害と似た病気には、女性の月経前に起こるさまざまな症状を含む「月経前症候群(Premenstrual Syndrome : PMS)」があります。両者を比較すると、精神的な症状が生活に支障をきたすほど強くあらわれるため、月経前不快気分障害の方が症状が重い病気です。
月経前不快気分障害に悩む女性は、月経がある女性のうち約3~8%ほどとされています。全女性の75%程にあらわれるPMSに比べると頻度は少ないのですが、発症すると生活の質が著しく低下し、日常生活に支障をきたすケースは珍しくありません。
月経前不快気分障害の原因
月経前不快気分障害は、女性の月経周期に連動して症状があらわれます。具体的には、排卵後の女性ホルモン「エストロゲン」が減少する時期に症状があらわれるため、ホルモンの変動が大きく関わると考えられています。黄体期後期と呼ばれる月経直前に加えて、排卵後1~2日のエストロゲンが減少する時期も、月経前不快気分障害があらわれやすい時期です。
ただし、月経前不快気分障害の人とそうでない人の「エストロゲン」と「プロゲステロン」の濃度には差がなかったという報告もあるため、ホルモンの変動が月経前不快気分障害を引き起こす具体的なメカニズムは不明な部分もあるのです。実際にはホルモンの量自体の問題ではなく、「受容体」がどの程度ホルモンに対して反応するか(感受性)が関係するともいわれています。
また、一般的に「幸せホルモン」とも呼ばれるセロトニン濃度の低下も、月経前不快気分障害に関わりがあると考えられています。
月経前不快気分障害の前兆や初期症状について
月経前不快気分障害は、エストロゲンが低下する時期にあらわれやすい病気です。月経周期に伴って以下のような症状が出る際は、受診を検討してみましょう。
精神的な症状
月経前不快気分障害は、気分の落ち込みやうつ症状などの強い「精神症状」が特徴です。前兆・初期症状の例を以下に紹介します。
- 強いイライラや怒り
ちょっとしたことで怒りが込み上げ、人間関係に支障が出る - 不安感や緊張感
理由なく不安を感じ、常に緊張した状態が続く - 気分の落ち込み
無気力感や絶望感が強く、抑うつ状態に近い気分になる - 集中力の低下
集中が続かず、学業や仕事に支障が出る - 食欲の変化
食欲が止まらない、特定のものばかり食べたくなる - 睡眠障害
過眠(眠くてたまらない)や不眠(眠れない)などが起こる
身体的な症状
「月経前不快気分障害」は精神症状がメインなのですが、身体的な不調をともなう人も珍しくありません。
身体的な症状の具体例は以下のとおりです。
- 頭痛や腹痛
頭痛の悪化や消化不良など - むくみ
身体がむくみやすくなる - 疲労感
慢性的な疲労が続き、日常の活動が難しい - 乳房の張りや痛み
ホルモン変動により乳房が張って痛みが出る
もし、月経前から始まる気分の落ち込みや体調の悪化に悩んでいる場合は、産婦人科を受診しましょう。症状に応じて精神科と連携を取り、適切な治療をおこないます。また、月経周期と体調変化をメモしたものがあれば、持参すると診察の役に立つでしょう。
月経前不快気分障害の検査・診断
月経前不快気分障害の診断は、アメリカ精神医学会の診断基準「DSM-5」に基づいて行われます。
大まかな内容を、以下に紹介します。
【症状の悪化が月経前にあらわれ、月経終了後に軽快または消失するか】
【以下の症状のうち、1つ以上の症状があらわれているか】
- 著しい気分変動(突然悲しくなる・涙もろくなるなど)
- 著しいいらただしさ・怒り・対人関係の摩擦の増加
- 著しい抑うつ気分・絶望感・自己批判的思考
- 著しい不安・緊張・「高ぶっている」「いらだっている」という感覚
【以下の症状のうち1つ以上が存在し、上の精神的な症状と合わせて5つ以上になるか】
- 通常の活動(仕事・学校・友人・趣味など)への興味の減退
- 集中できないことの自覚
- だるさ・疲れやすさ・著しい気力低下
- 食欲の著しい変化・過食または特定の食物への渇望
- 過眠または不眠
- 圧倒されるまたは制御不能という感じ
- 他の身体症状(胸の張り・関節痛・筋肉痛・体重増加など)
上記の症状が生活に支障が出るほど強く、苦痛をもたらしていることや、今まで1年間の月経周期に共通して起きていることも月経前不快気分障害と診断される要件です。
また、気分の落ち込みや不安、睡眠障害などは「うつ病」「パニック症」「パーソナリティ障害」などの人にあらわれるケースもあるため、つらい症状がこれらの病気の悪化によるものでないかも重要な観察ポイントです。ただし、月経前不快気分障害と併発するケースもあるため、月経周期との関係や症状などを総合的にみて診断します。
月経前不快気分障害の治療
月経前不快気分障害の代表的な治療法は「抗うつ薬(SSRI)」による薬物治療です。SSRIは「選択的セロトニン再取り込み阻害薬」の略称で、脳内のセロトニン濃度を増やして抑うつ気分や不安、情緒不安定などを和らげる効果があります。
なお、日本では「月経前不快気分障害」という病名ではSSRIに健康保険が適用されないため、「うつ病・うつ状態」などの病名による処方が一般的です。
月経前不快気分障害に使用される代表的なSSRIを、以下に紹介します。
- セルトラリン
- パロキセチン
- エスシタロプラム
- フルボキサミン
- クロミプラミン
- デュロキセチン
- ミルナシプラン
24歳以下の患者さんはSSRIで自殺企図が増加したり、攻撃性が高まったりする恐れがあるという報告があるため、危険性と有益性を考慮しながら薬を決定します。
また、以下のような治療を行うケースもあります。
- 光療法
明るい光を1分ごとに数秒見るのを1日1時間~2時間、1週間~3週間行う方法 - 行動認知療法
自分がストレスを感じる状況を分析し、悪循環に陥らないように調整する心理療法 - 漢方薬
「血」と「気」の異常をととのえる加味逍遙散、当帰芍薬散、桂枝茯苓丸などがよく使われる - 経口避妊薬
排卵を抑制し、ホルモンのバランスを調整する
また、エビデンスは少ないのですが、食事療法、生活改善、運動などが月経前気分障害に効果的な人もいます。食事に気を付ける際は、ビタミンやミネラルをしっかりとる、脂肪をとりすぎない、精製された糖や塩分、アルコール・カフェインを控えるなどを心がけてみましょう。
月経前不快気分障害になりやすい人・予防の方法
以下に当てはまる人は、月経前不快気分障害になりやすい傾向があります。
- うつ病の傾向がある人
- ストレスの強い生活を送っている人
月経前不快気分障害は、ストレスが強い人に多く見られ、うつ病の併発例が多くみられます。ストレス以外にも、季節の変化や「女性」としての生き方を求められる社会的背景、マタニティブルーなども月経前気分障害と関連があるとされています。
つらい症状は我慢しすぎず、早めに医師へ相談してみてください。
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