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監修医師:
中里 泉(医師)
目次 -INDEX-
骨盤位の概要
骨盤位の定義
赤ちゃんの子宮内での姿勢を胎位とよび、さまざまな胎位があります。赤ちゃんの縦軸が母体の縦軸と一致する場合を縦位といいます。縦位の中で、赤ちゃんの頭がお母さんの体の骨盤(足側)に向かうものを頭位、胎児の殿部、膝、足など骨盤以下のすべての部位が母体の骨盤に向かうものを骨盤位といいます。骨盤位は赤ちゃんの位置の中で約5%を占めます。
骨盤位の種類
- 単臀位:骨盤位の6〜8割は単臀位。子宮の中で赤ちゃんがおしりを下にして股関節を曲げ、膝を伸ばしています。Vの字のような姿勢をしている状態です。
- 複臀位:子宮の中で、赤ちゃんが股関節と膝を曲げてあぐらのような姿勢をとっている状態です。
- 膝位:子宮内でおなかの赤ちゃんがひざをついている状態です。両ひざをついた「全膝位」と、片ひざをついた「不全膝位」があります。
- 足位:子宮内でおなかの赤ちゃんが立っている状態です。両足で立った姿勢の「全足位」と、片足で立った姿勢の「不全足位」があります。
( 胎児が原因の難産 – 18. 婦人科および産科 – MSDマニュアル プロフェッショナル版 )
骨盤位の頻度
赤ちゃんが小さく子宮の中で動き回れる週数では、多くの方が骨盤位を経験します。週数を経過すると徐々に頭位の割合が増え、骨盤位の割合は減っていきます。
- 28週:25%
- 36週~:2~3%
妊娠30〜32週程度から医師の診断を受けますが、その後も十分頭位に回る可能性があります。
骨盤位の原因
先述のとおり、妊娠中期まで赤ちゃんはお母さんの子宮の中でくるくる回って姿勢を変えています。徐々に体が大きくなると重力に従って、重い頭が子宮の下向きになる可能性が高くなると考えられます。骨盤位は原因不明の場合がほとんどですが、赤ちゃんが下を向いたり動き回ったりするのを妨げるような素因が原因と考えられる場合もあるでしょう。赤ちゃんの胎位の変化を妨げる可能性のある素因は次のようなものがあげられます。
母体要因⇒狭骨盤、子宮奇形、子宮筋腫、卵巣嚢腫など
子宮頸部筋腫や卵巣嚢腫など、骨盤内を占めるような病変がある場合は子宮内のスペースが狭くなり、児の自由な胎位変化を妨げる可能性があります。子宮筋腫がある場合、骨盤位となるリスクが4倍という研究もあります。また、狭骨盤や子宮奇形でも赤ちゃんの動けるスペースが狭くなるためにとれる胎位が決まってしまう可能性が高くなります。
羊水・胎盤⇒羊水過多、羊水過少、前置胎盤など
これらの要素は骨盤位になりやすいという報告はあるものの、詳しい原因はわかっていません。
胎児⇒先天異常
水頭症で骨盤位になりやすいという報告はあるものの、詳しい原因はわかっていません。
骨盤位の前兆や初期症状について
骨盤位で特有の確実な症状はなく、産婦人科の妊婦検診で超音波や内診で判断されます。
骨盤位の検査・診断
骨盤位は、超音波検査にて、子宮底部に赤ちゃんの頭が見られたときに診断をされます。内診でも子宮口から胎児の足、ひざ、お尻などに触れます。妊娠30週程度までは赤ちゃんは子宮内でまわって骨盤位と頭位を繰り返している状態ですが、次第に重い頭が重力に従って下がり、頭位を維持する方が増えます。骨盤位という状態自体は通常、お母さんにも赤ちゃんにも悪い影響を与えるものではありません。ただし、骨盤位の患者で注意しなければいけない合併症もあります。そのひとつが、臍帯脱出です。
臍帯脱出は胎児が出てくる前に臍帯が腟内に突出したり、もしくは腟の外に出てくることをいいます。特に足位や複臀位、臍帯下垂のある方、破水時におこります。骨盤位の方の分娩方法として、経腟分娩を選択するケースはまれで、帝王切開になることがほとんどです。したがって、妊娠34週程度を超えても骨盤位で変わらなければ、帝王切開の準備をすることが多いです。ただし、出産をする直前まで骨盤位から頭位に戻る可能性があります。骨盤位と診断を受け帝王切開の予定で入院している方も、出産予定の当日に超音波検査で確認をしたら頭位に戻っていたケースもあります。
骨盤位の治療
骨盤位の治療として、下記のような解決法があります。
- 骨盤位から頭位に戻す
- 骨盤位のまま安全に経腟分娩を目指す
- 骨盤位のまま帝王切開(ほとんどのケースで選択される)
骨盤位を頭位に戻すための処置として、いくつかの方法があります。
頭位に戻す方法
外回転術
外回転術の方法
- 妊婦があおむけに寝た状態で、頭を下げ、下半身を上げます。
- おなかの張り止め薬や麻酔を使用し、子宮筋や筋肉の緊張をとって赤ちゃんを回転させやすくします。
- 施術者が妊婦のおなかの上から手で赤ちゃんを回転させます。胎児のお尻を押し上げ、頭と尻を徐々に回転させて頭が骨盤の入り口に、お尻が子宮底に位置するまで行います。
成功率は40〜60%ほどといわれます。
外回転術のリスクと条件
日本産婦人科学会のガイドラインによれば、外回転術を施行する前に以下の要件を満たしていることを確認すべきとされています。
- 前置胎盤や胎児機能不全など、経腟分娩の禁忌がない
- 緊急帝王切開が可能である
- 児が成熟している
また、36週以降、37週未満に行うと頭位でない分娩や帝王切開が減少する、34〜36週の早産を増加させる、という報告があります。
ほかにも、出産前に胎盤が子宮の壁からはがれてしまう常位胎盤早期剥離や、胎児心拍数の悪化を引き起こすことがあり、1〜2%は緊急帝王切開になる危険性もあります。したがって、一般施設での実施時期は、児の対応ができる36週以降が推奨されます。ほかに、施設によって以下のような条件を満たさなければ行わないと決めている病院もあるようです。
- 今までに帝王切開をしたことがない
- 胎児が充分に成長をしている
- 児頭骨盤不均衡(物理的に母体の骨盤を児頭が通過することが不可能な状態)でない
- 胎盤付着部位が正常
- 羊水量が正常範囲内
経腟分娩を選択できる可能性のあるケース
骨盤位が戻らなかった場合、通常多くの場合で帝王切開が分娩方法として選択されます。ただし、一定の条件を満たす場合、限られた施設で経腟分娩にトライすることも不可能ではありません。それでも、デメリットやリスクを伴う手技であることを知っておく必要があり、多くの場合帝王切開の方が安全な選択と考えられていることを理解しましょう。ガイドラインにおいて、骨盤位経腟分娩にトライする際以下の条件を満たすことを確認するよう提言されています。
- 骨盤位娩出術への十分な技術を有するスタッフが常駐している
- 妊婦に経腟分娩の有益性と危険性について、文書による説明と同意が得られている
- 緊急帝王切開についても文書による説明と同意が得られている
- 分娩時は胎児心拍数陣痛図による連続モニタリングを行い、緊急帝王切開が行える体制である
骨盤位になりやすい人・予防の方法
骨盤位のはっきりした原因は不明であり、なりやすい人や予防の方法も明らかになっているデータはありません。上記のとおり、骨盤位自体に大きなリスクがあるという病態ではないため、対処法や治療法を理解したうえで穏やかに妊娠生活を過ごすのがよいでしょう。
関連する病気
- 早産
- 羊水過多症
参考文献