監修医師:
佐伯 信一朗(医師)
自然流産の概要
自然流産は、妊娠22週未満に胎児が子宮内で自然に死亡し、妊娠が終了する比較的高頻度の妊娠合併症です。臨床的に認識された妊娠の約8~20%で発生すると報告されていますが、実際の発生率はさらに高い可能性があります。多くの流産が妊娠初期に気づかれずに起こっているためです。
妊娠週数に基づいて、自然流産は以下のように分類されます。
- 早期流産:妊娠12週0日未満での流産
- 後期流産:妊娠12週0日以降22週0日未満での流産
自然流産の大多数(約80%以上)は早期流産に分類されます。これは胎児の主要な器官形成期と一致しており、この時期に染色体異常や重度の発生異常が検出されやすくなります。なお、妊娠22週以降の胎児死亡は流産ではなく、死産(stillbirth)として分類されます。
臨床的に認識されない極初期の流産(chemical pregnancy)を含めると、受精卵の約50%が着床前後に失われると推定されています。
自然流産の発生率は母体年齢と共に上昇し、35歳以上の妊婦ではリスクが有意に増加します。さらに、既往歴、母体の基礎疾患、環境因子なども流産リスクに影響を与える可能性があります。
自然流産は身体的にも精神的にも大きな影響を与える可能性がある出来事です。しかし、1回の流産を経験した後でも、多くの女性が次の妊娠で健康な赤ちゃんを出産しています。適切な医療ケアと心理的サポートが、自然流産を経験した女性とそのパートナーにとって重要です。
自然流産の原因
自然流産の原因は多岐にわたりますが、最も一般的な原因は胎児の染色体異常です。これは受精時に偶発的に発生することが多く、両親の年齢や健康状態とは必ずしも関連しません。染色体異常は胎児の正常な発育を妨げ、結果として流産に至ることがあります。
その他の原因としては、母体の健康状態や環境因子が挙げられます。例えば、母体の年齢が高いこと、甲状腺機能異常や糖尿病などの内分泌疾患、子宮の構造異常、感染症などが自然流産のリスクを高める可能性があります。
また、喫煙、過度のアルコール摂取、薬物使用、環境毒素への過度の曝露なども自然流産のリスクを増加させる要因として知られています。
ストレスや軽度の外傷が自然流産の直接的な原因となることは稀ですが、全体的な健康状態に影響を与える可能性があります。また、過度の運動や性行為が自然流産を引き起こすという科学的根拠はありません。重要なのは、多くの場合、自然流産は妊婦自身にはコントロールできない要因によって引き起こされるということです。そのため、自然流産を経験した女性が自責の念を抱くことは適切ではありません。
自然流産の前兆や初期症状について
自然流産の症状は個人によって異なりますが、一般的に以下のような症状が見られます。
- 性器出血:鮮血や褐色の出血がみられます。量は少量から多量まで様々です。
- 腹痛や腰痛:生理痛に似た痛みから強い痛みまで様々です。
- 妊娠症状の急激な消失:つわりや乳房の張りなどの妊娠症状が突然なくなることがあります。
しかし、これらの症状がすべて自然流産を意味するわけではありません。妊娠中の出血は比較的一般的で、多くの場合は問題なく妊娠が継続します。また、妊娠症状の変化も正常な妊娠経過の一部であることがあります。
一方で、症状がなくても自然流産が起こっている場合もあります。これは「稽留流産」と呼ばれ、胎児が亡くなっているにもかかわらず、体がそれを認識せず、妊娠症状が継続する状態です。この場合、超音波検査などで初めて流産が発見されることがあります。
自然流産の検査・診断
自然流産の診断は、主に以下の方法で行われます。
- 問診:症状の経過や妊娠歴などを詳しく聞き取ります。
- 内診:子宮口の開大の有無や出血の状況を確認します。
- 超音波検査:最も重要な検査で、胎嚢や胎児の有無、心拍の確認、子宮内の状態を評価します。
- 血液検査:妊娠の指標となるhCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)の値を測定します。正常妊娠では、hCGは一定の割合で増加しますが、自然流産の場合は増加が見られなかったり、減少したりします。
- 経時的観察:1回の検査で判断できない場合は、数日後に再検査を行い、妊娠の進行状況を確認します。
これらの検査結果を総合的に判断して、自然流産の診断が行われます。ただし、妊娠初期の場合、1回の検査では判断が難しいことがあるため、複数回の検査が必要になることもあります。
自然流産の治療
自然流産の治療方法は、流産の進行状況や個々の状況によって異なります。
主な選択肢は以下の通りです。
経過観察
自然流産が完全に進行し、子宮内容物が自然に排出されるのを待ちます。多くの場合、数日から2週間程度で自然に排出されます。
薬物療法
プロスタグランジン製剤などの薬剤を使用して、子宮収縮を促し、子宮内容物の排出を促進します。
子宮内容除去術
手術的に子宮内の組織を除去します。主に出血が多い場合や、自然排出が期待できない場合に選択されます。
妊娠12週以降22週未満に胎児の心拍停止が確認され、子宮内で胎児の死亡が生じた状態を「子宮内胎児死亡」と定義します。この診断がなされた場合、本邦における標準的な管理方針としては、入院管理下での処置が推奨されます。具体的な処置の流れとしては、まず子宮頸管の拡張処置を実施します。これは、後続の処置をより効果的に行うための準備段階となります。次に、経腟的にプロスタグランジン製剤などの腟錠を挿入し、分娩誘発を行います。
治療方法の選択は、患者の状態、希望、医学的な判断に基づいて決定されます。どの方法を選択しても、その後の経過観察や心理的サポートが重要です。
自然流産後は、次の月経まで約4-6週間かかることが一般的です。この間、性交渉を控えるなど、医師の指示に従うことが重要です。
自然流産になりやすい人・予防の方法
自然流産になりやすい人
自然流産のリスクが高まる要因としては、高齢妊娠、過去の流産歴、慢性疾患(甲状腺機能異常、糖尿病など)、子宮の構造異常、肥満などが挙げられます。特に、母体年齢は重要なリスク因子であり、35歳を過ぎると自然流産のリスクが徐々に上昇し、40歳以上ではさらに高くなります。
しかし、これらの要因があるからといって、必ず流産するわけではありません。また、多くの自然流産は染色体異常など、予防が難しい要因によって引き起こされます。
予防の方法
予防法としては、健康的なライフスタイルの維持が重要です。具体的には、バランスの取れた食事、適度な運動、十分な睡眠、ストレス管理などが挙げられます。また、妊娠前や妊娠初期の葉酸摂取、アルコールや喫煙の回避なども推奨されています。
慢性疾患がある場合は、妊娠前から適切な管理を行うことが重要です。例えば、糖尿病の場合は血糖コントロールを最適化し、甲状腺機能異常の場合は適切な治療を受けることで、自然流産のリスクを低減できる可能性があります。
また、妊娠が判明したら早めに産婦人科を受診し、適切な妊婦健診を受けることも重要です。初期の健診で潜在的な問題を発見し、適切な対応を取ることで、一部の自然流産を予防できる可能性があります。
しかし、多くの自然流産は予防が難しいことを理解することも重要です。自然流産を経験しても、それは多くの場合、母体の責任ではありません。心理的なサポートを受けながら、次の妊娠に向けて前向きに取り組むことが大切です。
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