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低置胎盤
佐伯 信一朗

監修医師
佐伯 信一朗(医師)

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兵庫医科大学卒業。兵庫医科大学病院産婦人科、兵庫医科大学ささやま医療センター、千船病院などで研鑽を積む。兵庫医科大学病院産婦人科 外来医長などを経て2024年3月より英ウィメンズクリニックに勤務。医学博士。日本産科婦人科学会専門医、日本医師会健康スポーツ医、母体保護法指定医。

低置胎盤の概要

低置胎盤は、胎盤が子宮の下部に位置する状態を指す産科的合併症です。通常、胎盤は子宮の上部または側面に付着しますが、低置胎盤では胎盤が子宮頸部の近くに位置します。具体的には、胎盤が正常な位置よりも低く(子宮口に近い位置に)形成されているものの、内子宮口を覆っていない状態でかつ内子宮口とそれに最も近い胎盤辺縁との距離が2cm以内の状態を低置胎盤と定義します。
低置胎盤を疑われる方は、妊娠20週頃では約5%程度ですが、妊娠が進むにつれて多くの場合は自然に改善し、出産時には1-2%程度になります。これは、子宮の成長に伴い胎盤の相対的な位置が変化するためです。
低置胎盤は、母体と胎児の両方にリスクをもたらす可能性があります。主な合併症としては、出血(特に妊娠後期や分娩時)、早産、胎盤早期剥離などがあります。低置胎盤の管理は、胎盤の位置、妊娠週数、出血の有無などによって異なります。多くの場合、慎重な経過観察が行われ、必要に応じて入院管理や帝王切開による分娩が選択されます。

低置胎盤の原因

低置胎盤の正確な原因は完全には解明されていませんが、いくつかの要因が関与していると考えられています。
子宮内膜の状態が重要な要因の一つです。子宮内膜が何らかの理由で損傷を受けている場合、胎盤が適切な位置に着床しにくくなる可能性があります。例えば、過去の帝王切開や子宮筋腫核出術などの子宮手術歴がある場合、手術痕の部分で子宮内膜の状態が変化し、低置胎盤のリスクが高まることがあります。
また、子宮の形態異常も低置胎盤の原因となる可能性があります。子宮奇形や子宮筋腫などにより子宮腔の形が変化している場合、胎盤が正常な位置に着床しにくくなることがあります。
多胎妊娠も低置胎盤のリスク因子として知られています。複数の胎児がいる場合、より広い面積の胎盤が必要となるため、子宮下部にまで及ぶ可能性が高くなります。
喫煙も低置胎盤のリスクを高める要因の一つです。喫煙による子宮血流の低下が、胎盤の位置異常に関与している可能性が指摘されています。
年齢も関連因子として挙げられます。高齢妊娠では低置胎盤のリスクが高まることが報告されていますが、これは年齢とともに子宮内膜の状態が変化することや、他のリスク因子(例えば、過去の子宮手術歴)を持つ確率が高くなることと関連していると考えられています。
これらの要因が単独で、あるいは複合的に作用することで、低置胎盤が発生すると考えられています。しかし、これらのリスク因子がなくても低置胎盤が発生することがあり、また、リスク因子があっても必ずしも低置胎盤にならないことに注意が必要です。

低置胎盤の前兆や初期症状について

低置胎盤は、多くの場合、特に妊娠初期から中期にかけては無症状であることが多く、定期的な妊婦健診での超音波検査で偶然発見されることがほとんどです。
しかし、妊娠後期になると、以下のような症状が現れることがあります。

  • 無痛性の性器出血:これは低置胎盤の最も一般的な症状です。突然の出血が見られることがあり、量は少量から多量まで様々です。出血は鮮紅色で、凝血を伴うことがあります。
  • 腹痛:通常、低置胎盤自体は痛みを引き起こしませんが、出血が多量の場合や胎盤剥離を伴う場合には腹痛を感じることがあります。
  • 早産兆候:低置胎盤は早産のリスク因子であるため、早産の兆候(規則的な子宮収縮、破水など)が現れることがあります。

これらの症状、特に性器出血は、他の産科合併症(切迫流早産、前置胎盤など)でも見られる可能性があるため、症状だけで低置胎盤を診断することは困難です。
重要なのは、これらの症状、特に出血を経験した場合は、速やかに医療機関を受診することです。出血の量や色、腹痛の有無、胎動の状態などを医師に詳しく伝えることが重要です。
また、低置胎盤と診断された場合、症状がなくても定期的な経過観察が必要です。医師の指示に従い、安静や性交渉の制限など、必要な注意事項を守ることが重要です。
早期発見と適切な管理は、母体と胎児の両方にとって重要であり、合併症のリスクを減少させ、より良好な妊娠・出産の結果につながります。

低置胎盤の検査・診断

低置胎盤の診断は主に以下の方法で行われます。

超音波検査

  • 経腹的超音波検査:妊婦の腹部にプローブを当てて行う検査です。胎盤の位置を大まかに把握するのに役立ちます。
  • 経腟的超音波検査:腟内にプローブを挿入して行う検査です。胎盤と子宮内子宮口の位置関係をより正確に評価できます。

MRI(磁気共鳴画像)検査

超音波検査で詳細な評価が困難な場合や、胎盤の位置や状態をより詳細に把握する必要がある場合に行われます。特に、前置胎盤や癒着胎盤が疑われる場合に有用です。

内診

出血がある場合や、分娩が近い場合に行われることがありますが、低置胎盤の可能性がある場合は慎重に行う必要があります。

診断のタイミングとしては、通常、妊娜28-32週頃に詳細な評価が行われます。これは、この時期までに多くの低置胎盤が自然に改善することと、この時期以降に出血のリスクが高まることが関係しています。

低置胎盤の診断基準

低置胎盤の診断基準は以下の通りです。
胎盤が正常な位置よりも低く(子宮口に近い位置に)形成されているものの、内子宮口を覆っていない状態でかつ内子宮口 とそれに最も近い胎盤辺縁との距離が2cm以内の状態を低置胎盤と診断します。一方で胎盤が内子宮口を覆うかその辺縁が内子宮口にかかる状態は前置胎盤と診断されます。
診断後は、胎盤の位置、出血の有無、妊娠週数などに応じて、定期的な経過観察が行われます。多くの場合、妊娜36週頃に再評価が行われ、分娩方法(経腟分娩か帝王切開か)が検討されます。

低置胎盤の診断と管理には、超音波検査の技術と経験が重要です。また、胎盤の位置は妊娠の経過とともに変化する可能性があるため、継続的な評価が必要です。

低置胎盤の治療

低置胎盤の治療は、主に保存的管理と分娩方法の選択から成ります。治療方針は、胎盤の位置、妊娠週数、出血の有無と程度、母体と胎児の状態などを総合的に評価して決定されます。

保存的管理

  • 安静:出血がある場合や、胎盤の位置が子宮口に近い場合は、安静が指示されます。場合によっては入院管理が必要になることもあります。
  • 性交渉の制限:性交渉により出血のリスクが高まる可能性があるため、制限が必要となります。
  • 子宮収縮抑制剤の使用:早産のリスクがある場合に使用されることがあります。
  • ステロイド投与:早産のリスクが高い場合、胎児の肺成熟を促進するためにステロイドが投与されることがあります。

分娩方法の選択

  • 経腟分娩:妊娠36週の時点で胎盤下縁が子宮内子宮口から2cm以上離れている場合、経腟分娩が可能とされています。ただし、状況によっては帝王切開を選択される場合もあります。
  • 帝王切開:胎盤下縁が子宮内子宮口から2cm未満の場合、または出血が持続・増加する場合は、帝王切開が選択されます。

緊急時の対応

  • 大量出血や胎児機能不全などの緊急事態が発生した場合は、妊娜週数に関わらず緊急帝王切開が行われることがあります。
  • 輸血の準備:出血のリスクが高い場合は、事前に輸血の準備を行います。

産後の管理

  • 出血の観察:低置胎盤では産後出血のリスクも高いため、慎重な観察が必要です。
  • 癒着胎盤の確認:低置胎盤は癒着胎盤のリスクも高めるため、胎盤娩出時に注意深い確認が必要です。

治療の過程では、母体と胎児の状態を慎重にモニタリングします。胎児の成長、羊水量、胎児心拍数などを定期的に評価し、必要に応じて治療方針を修正します。
低置胎盤の多くは妊娠の経過とともに改善しますが、改善しない場合や合併症が生じた場合にも、適切な管理により良好な妊娠・出産の結果を得ることが可能です。ただし、個々の症例に応じた慎重な管理が必要であり、患者と医療者の密接なコミュニケーションが重要です。

低置胎盤になりやすい人・予防の方法

低置胎盤になりやすい人

低置胎盤のリスクは、いくつかの要因によって高まることが知られています。しかし、完全な予防は難しく、むしろリスク因子の管理と早期発見・適切な管理が重要となります。
低置胎盤になりやすい人の特徴としては、まず年齢が挙げられます。35歳以上の高齢妊娠では、低置胎盤のリスクが高まることが報告されています。これは、年齢とともに子宮内膜の状態が変化することや、他のリスク因子(例えば、過去の子宮手術歴)を持つ確率が高くなることと関連していると考えられています。
過去の帝王切開や子宮筋腫核出術などの子宮手術歴がある女性も、低置胎盤のリスクが高くなります。手術による子宮内膜の瘢痕化が、胎盤の正常な位置への着床を妨げる可能性があるためです。特に、複数回の帝王切開歴がある場合、リスクはさらに高まります。
多産婦も低置胎盤のリスクが高いとされています。これは、出産を重ねるごとに子宮内膜の状態が変化することと関連していると考えられています。
喫煙も重要なリスク因子の一つです。喫煙は子宮血流を低下させ、胎盤の形成や位置に影響を与える可能性があります。そのため、妊娠中はもちろん、妊娠を計画している段階から禁煙することが推奨されます。
多胎妊娠も低置胎盤のリスクを高めることが知られています。これは、複数の胎児に対応するためにより大きな胎盤が必要となり、子宮下部にまで及ぶ可能性が高くなるためです。
子宮の形態異常(子宮奇形や子宮筋腫など)も低置胎盤のリスク因子となる可能性があります。これらの状態が胎盤の正常な位置への着床を妨げる可能性があるためです。

予防の方法

低置胎盤の完全な予防法は確立されていませんが、リスクを軽減するためのいくつかの方法があります。
まず、計画的な妊娠が重要です。適切な間隔を置いて妊娠することで、子宮内膜が十分に回復する時間を確保できます。また、可能な限り若年での妊娜を心がけることも、リスク低減につながる可能性があります。
禁煙も重要な予防策の一つです。喫煙は多くの妊娜合併症のリスクを高めるため、妊娜中はもちろん、妊娜を計画している段階から禁煙することが推奨されます。
健康的な生活習慣も重要です。適切な栄養摂取、適度な運動、ストレス管理などが、全体的な妊娜の健康維持に寄与し、間接的に低置胎盤のリスクを低減する可能性があります。
定期的な妊婦健診を受けることも重要です。低置胎盤の早期発見と適切な管理により、合併症のリスクを最小限に抑えることができます。
低置胎盤と診断された場合は、医師の指示に従い、安静や性行為の制限などの注意事項を守ることが重要です。また、出血などの症状が現れた場合は、速やかに医療機関を受診することが必要です。
これらの予防策や管理方法を実践することで、低置胎盤のリスクや合併症のリスクを軽減できる可能性がありますが、完全に予防することは困難です。そのため、定期的な検診と早期発見・早期対応が最も重要な対策となります。


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