監修医師:
佐伯 信一朗(医師)
子宮頸管ポリープの概要
子宮頸管ポリープは、子宮頸管の内膜から発生する良性の腫瘍性病変です。通常、柔らかく赤みがかった色をしており、大きさは数ミリメートルから数センチメートルまで様々です。多くの場合、茎(ポリープの根元部分)を持ち、子宮頸管内や外子宮口付近に存在します。
子宮頸管ポリープは比較的一般的な婦人科疾患で、全女性の約2-5%に発生すると報告されています。特に30歳から50歳の女性に多く見られ、閉経後の女性にも発生することがあります。多くの場合、単発性ですが、時に複数のポリープが同時に存在することもあります。
子宮頸管ポリープの多くは無症状ですが、不正性器出血や帯下の増加などの症状を引き起こすことがあります。また、まれに悪性化する可能性もあるため、適切な診断と管理が重要です。
子宮頸管ポリープの原因
子宮頸管ポリープの正確な原因は完全には解明されていませんが、いくつかの要因が関与していると考えられています。
ホルモンバランスの変化が主要な原因の一つとして挙げられます。特にエストロゲンの影響が大きいと考えられており、エストロゲンレベルが高い状態が続くと、子宮頸管の内膜細胞が過剰に増殖し、ポリープを形成する可能性が高まります。このため、妊娠中や経口避妊薬を使用している女性にポリープが見られることがあります。
また、慢性的な炎症も子宮頸管ポリープの形成に関与している可能性があります。子宮頸管や腟の感染、特に性感染症などによる持続的な炎症が、ポリープの発生を促進する可能性があります。
遺伝的要因も関与している可能性があります。一部の研究では、特定の遺伝子変異や多型が子宮頸管ポリープの発生リスクを高める可能性が示唆されていますが、まだわかっていないことも多いです。
加齢も重要な要因の一つです。年齢とともに子宮頸管の細胞に遺伝子変異が蓄積し、それが異常な細胞増殖を引き起こし、ポリープ形成につながる可能性があります。
これらの要因が単独で、あるいは複合的に作用することで、子宮頸管ポリープが形成されると考えられています。しかし、個々の症例でどの要因が最も重要であるかを特定することは難しく、多くの場合原因は特定できません。
子宮頸管ポリープの前兆や初期症状について
子宮頸管ポリープは、多くの場合無症状であり、定期的な婦人科検診や他の理由での診察時に偶然発見されることが少なくありません。
しかし、症状が現れる場合もあり、以下のような初期症状が報告されています。
- 不正性器出血:これは最も一般的な症状です。月経期間外の出血や、性交後の出血などが含まれます。出血量は通常少量ですが、ポリープの大きさや位置によっては、より多量の出血が見られることもあります。
- 帯下の増加:通常よりも多い帯下を経験することがあります。この帯下は時に血液が混じっていることもあります。
- 骨盤痛:大きなポリープの場合、軽度の骨盤痛や不快感を引き起こすことがあります。ただし、これはあまり一般的ではありません。
これらの症状は、他の婦人科疾患でも見られる可能性があるため、症状だけで子宮頸管ポリープを診断することは困難です。また、症状の有無や程度はポリープの大きさ、位置、数などによって異なります。
重要なのは、これらの症状、特に異常な出血を経験した場合は、速やかに婦人科医の診察を受けることです。早期発見と適切な管理は、合併症のリスクを減少させ、より良好な治療結果につながります。
子宮頸管ポリープの検査・診断
子宮頸管ポリープの診断は、主に以下の方法で行われます。
内診
医師が腟鏡を使用して子宮頸部を直接観察します。小さなポリープであっても、この方法で視認できることがあります。
コルポスコピー検査
特殊な拡大鏡(コルポスコープ)を用いて子宮頸部を詳細に観察します。この方法により、ポリープの形状や血管パターンなどの特徴をより詳細に確認することができます。
経腟超音波検査
超音波を用いて子宮頸部の状態を観察します。この方法は、子宮頸管内のポリープを検出するのに特に有用です。
子宮頸管細胞診(パップスメア)
子宮頸部から細胞を採取し、顕微鏡で観察します。この検査はポリープ自体の診断よりも、悪性細胞の有無を確認するために重要です。
生検
ポリープの一部または全体を採取し、顕微鏡で詳細に観察します。これは特に悪性の可能性が疑われる場合や、ポリープが大きい場合に行われます。
子宮鏡検査
細い内視鏡を子宮内に挿入し、子宮頸管や子宮内部を直接観察します。この方法は、ポリープの正確な位置や数を確認するのに有用です。
MRI(磁気共鳴画像)検査
大きなポリープや複雑な症例の場合、MRIを用いてより詳細な画像診断を行うことがあります。
これらの検査を組み合わせることで、子宮頸管ポリープの存在を確認し、その特徴(大きさ、位置、数など)を詳細に把握することができます。また、悪性の可能性を評価することも重要です。
診断の過程では、他の婦人科疾患(子宮筋腫、子宮内膜ポリープ、子宮頸癌など)との鑑別も重要です。症状や検査結果が類似していることがあるため、総合的な評価が必要となります。
子宮頸管ポリープの治療
子宮頸管ポリープの治療方針は、ポリープの大きさ、位置、症状の有無、患者の年齢や妊娠希望などを考慮して決定されます。以下に主な治療オプションを示します。
経過観察
小さな無症状のポリープでは、定期的な経過観察のみを行うことがあります。特に閉経後の女性や、症状がない場合にこのアプローチが選択されることがあります。
ポリープ切除術
これは最も一般的な治療法です。以下のような方法で行われます。
- 捻除法:小さなポリープの場合、特殊な鉗子を用いてポリープを捻じ切る方法です。
- ループ電気切除術(LEEP):電気を通した細いワイヤーループを用いてポリープを切除します。
- 子宮鏡下切除術:子宮鏡を用いて直接観察しながらポリープを切除します。大きなポリープや子宮頸管深部のポリープに対して有効です。
薬物療法
効果は限定的で、主に症状の軽減に稀に用いられます。
子宮頸部円錐切除術
悪性が疑われる場合や、大きなポリープで他の方法では完全な切除が困難な場合に行われます。
治療後は、再発予防と早期発見のために定期的な経過観察が重要です。また、切除したポリープは病理検査に提出し、悪性の可能性を評価します。
治療の選択にあたっては、患者の希望や生活の質への影響も考慮されます。例えば、妊娠を希望する女性の場合、妊孕性を維持する治療法が選択されます。
なお、子宮頸管ポリープの多くは良性であり、適切な治療により良好な予後が期待できます。しかし、まれに悪性化する可能性もあるため、定期的な検診と迅速な治療が重要です。
子宮頸管ポリープになりやすい人・予防の方法
子宮頸管ポリープの発生リスクは、いくつかの要因によって影響を受けます。なりやすい人の特徴と予防方法について、以下に詳しく説明します。
子宮頸管ポリープになりやすい人
子宮頸管ポリープになりやすい人の特徴としては、まず年齢が挙げられます。
30歳から50歳の女性に最も多く見られ、特に40代にピークがあります。これは、この年齢層でホルモンバランスの変化が顕著になることと関連していると考えられています。
また、出産経験のある女性も子宮頸管ポリープのリスクが高いとされています。出産による子宮頸管の変化や、妊娠・出産に伴うホルモンの変動が影響している可能性があります。
慢性的な炎症性疾患を持つ女性もリスクが高くなる傾向があります。特に、子宮頸管炎や骨盤内炎症性疾患などの既往がある場合、ポリープ形成のリスクが上昇する可能性があります。
ホルモン補充療法を受けている閉経後の女性も、子宮頸管ポリープのリスクが高くなることがあります。これは、外因性のエストロゲンが子宮頸管の細胞増殖を促進する可能性があるためです。
肥満も子宮頸管ポリープのリスク因子の一つとして指摘されています。脂肪組織がエストロゲンを産生するため、体重過多の女性ではエストロゲンレベルが高くなり、ポリープ形成のリスクが上昇する可能性があります。
予防の方法
子宮頸管ポリープの完全な予防法は確立されていませんが、リスクを軽減するためのいくつかの方法があります。
まず、定期的な婦人科検診を受けることが重要です。早期発見と適切な管理により、ポリープの成長や合併症のリスクを減らすことができます。
健康的な生活習慣も重要です。適切な体重管理、バランスの取れた食事、定期的な運動は、全身の健康を維持するだけでなく、ホルモンバランスの安定にも寄与し、ポリープ形成のリスクを軽減する可能性があります。
性感染症の予防も重要です。安全な性行為を心がけ、必要に応じて検査を受けることで、子宮頸管の慢性炎症のリスクを減らすことができます。
ホルモン補充療法を受けている女性は、定期的に治療の必要性と利点・リスクについて医師と相談することが重要です。場合によっては、治療法の調整が必要になることもあります。
最後に、喫煙は多くの健康問題のリスク因子であり、子宮頸管ポリープの発生にも関連している可能性があります。禁煙することで、全体的な健康状態を改善し、ポリープ形成のリスクを軽減できる可能性があります。
これらの予防策を実践することで、子宮頸管ポリープの発生リスクを軽減できる可能性がありますが、完全に予防することは困難です。そのため、定期的な検診と早期発見・早期治療が最も重要な対策となります。
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