

監修医師:
大坂 貴史(医師)
乳腺繊維腺腫の概要
乳腺繊維腺腫(にゅうせんせんいせんしゅ)は、乳房の中にできる良性のしこり(腫瘍)のひとつで、特に10代後半から30代の若い女性に多く見られる病気です。乳房には「乳腺」と呼ばれる母乳を作る組織がありますが、そこにある線維組織と腺組織が一緒になって増殖することで、コリコリとしたしこりができるのが繊維腺腫です。
このしこりは多くの場合、指で触っても痛みがなく、丸くて境界がはっきりしており、触ると皮膚の下でころころと動くのが特徴です。大きさは数ミリから数センチまでさまざまで、急に大きくなることもあれば、長い間変化しないこともあります。
良性であるため、すぐに命にかかわるようなものではありませんが、不安や不快感を覚える人も多く、またまれに悪性の病気と区別が難しい場合もあるため、適切な検査と判断が大切です。
乳腺繊維腺腫の原因
乳腺繊維腺腫のはっきりとした原因はまだ解明されていませんが、女性ホルモン、とくにエストロゲンの影響が関与していると考えられています。エストロゲンは思春期以降の女性の体内で増加し、乳腺の発達を促す働きがあります。このホルモンの働きにより、乳腺組織が過剰に反応して腫瘍ができるのではないかと推測されています。
そのため、繊維腺腫は思春期や妊娠中など、ホルモンの変化が大きい時期に発症しやすい傾向があります。また、閉経後にはホルモンの分泌が減るため、新たに繊維腺腫ができることは少なく、すでにあるしこりも小さくなっていくことがあります。
一方で、食生活やストレス、遺伝的な体質などが関係している可能性も指摘されていますが、明確な因果関係はまだ証明されていません。
乳腺繊維腺腫の前兆や初期症状について
乳腺繊維腺腫は、多くの場合、症状を自覚せずに見つかります。入浴中や着替えのとき、あるいは乳がん検診や婦人科健診の際に偶然しこりを触れて気づくケースが多いです。
典型的な症状は、乳房に触れるとしこりのような塊が感じられることです。このしこりは弾力があってゴムのような硬さがあり、丸く、境界がはっきりしていて、皮膚の下で動かせるのが特徴です。大きさは通常1〜3センチ程度ですが、まれに5センチ以上に成長する「巨大線維腺腫」と呼ばれるタイプもあります。
痛みを伴うことはほとんどありませんが、生理の前に乳房が張ったり、軽い痛みを感じたりすることもあり、その際にしこりが目立って気づくこともあります。左右どちらか一方の乳房にできることが多く、まれに複数のしこりが同時に存在することもあります。
このようなしこりがあると、「乳がんではないか」と心配される方も少なくありませんが、繊維腺腫は良性の腫瘍であるため、正しく診断された場合には過度に恐れる必要はありません。
乳腺繊維腺腫の検査・診断
乳腺繊維腺腫の診断は、まず視診と触診によって、しこりの大きさや硬さ、動きや形を確認することから始まります。しかし、見た目や触った感じだけでは、乳がんなどの悪性腫瘍との区別がつかないこともあるため、画像検査が重要になります。
最もよく用いられるのが「乳腺超音波(エコー)検査」です。エコー検査では、しこりの大きさや形、内部の構造などが詳しくわかります。繊維腺腫では、しこりが均一で、明瞭な輪郭を持っており、エコー上で比較的典型的な所見を示すことが多いです。
場合によっては、40歳以上の方では「マンモグラフィ(乳房X線撮影)」も行われますが、若い方では乳腺が発達していて画像が見えにくいため、エコーの方が有用です。
さらに、診断を確定するために「針生検」という検査が行われることもあります。これは、細い針をしこりに刺して細胞や組織の一部を採取し、顕微鏡で調べる方法です。乳がんと区別がつきにくい場合や、しこりの大きさが急に変化している場合には、この検査によって正確な診断が可能になります。
乳腺繊維腺腫の治療
乳腺繊維腺腫は良性の腫瘍であり、多くの場合は経過観察が基本となります。しこりの大きさが小さく、症状がなく、検査結果からも悪性の可能性が低いと判断された場合には、手術をせずに定期的な検査で様子を見るという選択が一般的です。定期的に乳腺エコーを受けて、しこりの変化がないかを確認していきます。
ただし、しこりが大きくなっている場合、痛みや違和感がある場合、あるいは見た目の変化が気になる場合には、手術によってしこりを取り除くこともあります。手術は局所麻酔で行われることが多く、比較的短時間で終わります。美容面にも配慮した切開が行われるため、傷跡は目立ちにくくなるように工夫されています。
また、針生検の結果で悪性の可能性が否定できない場合や、他の病気との区別が難しい場合も、確定診断と治療を兼ねて手術が選ばれることがあります。手術後は、摘出した組織を詳しく検査し、確実に良性であることを確認します。
治療にあたっては、患者さんの年齢、症状、生活への影響などを総合的に考慮し、本人と医師がよく相談して方針を決めていくことが大切です。
乳腺繊維腺腫になりやすい人・予防の方法
乳腺繊維腺腫は、思春期から30代の女性に多く見られます。特に、ホルモンバランスが不安定な思春期や妊娠・出産を経験する時期には、乳腺の変化が大きく、しこりができやすいとされています。また、家族に乳腺の病気が多い場合には、体質的にできやすい傾向があるともいわれています。
明確な予防法は確立されていませんが、ホルモンバランスを保つために、規則正しい生活習慣を心がけることが大切です。睡眠不足や過度のストレス、偏った食事などは、ホルモンのリズムを乱す原因になります。特に過度なダイエットや栄養不足は、女性ホルモンの分泌に影響を与えることがあるため注意が必要です。
また、乳房に異変を感じたときには自己判断せず、早めに医療機関を受診することが予防の第一歩です。自分で乳房を触ってみて、左右差やしこりに気づいた場合、月経周期によって変化するような違和感がある場合などは、専門の医師に相談しましょう。
乳がんとの区別をつけるためにも、20代以降の女性は定期的に乳腺エコー検査を受ける習慣を持つことが望ましいとされています。特に家族に乳がんの人がいる場合は、早めの検診が勧められます。




