監修医師:
佐伯 信一朗(医師)
頻発月経の概要
頻発月経とは、月経周期が通常よりも短くなり、頻繁に月経が起こる状態を指します。頻発月経は、しばしば不正出血と混同されることがあります。わが国では、正常な月経周期は25〜38日と定義されており、それ以外は月経周期異常として分類されます。具体的には、24日以内の周期である場合を頻発月経と定義しています。
月経周期異常の分類は以下の通りです。
- 90日以上停止した場合:続発性無月経
- 39日以上の周期:希発月経
- 24日以内の周期:頻発月経
頻発月経は、必ずしも深刻な健康上の問題を示すわけではありませんが、ホルモンバランスの乱れや基礎疾患の存在を示唆する可能性があります。また、頻繁な出血は貧血や疲労感をもたらし、日常生活に支障をきたす可能性があります。
頻発月経の原因
頻発月経と不正出血は、しばしば混同されやすい状態ですが、その定義と特徴には明確な違いがあります。頻発月経は24日以内の間隔で規則的に月経が起こる状態を指し、周期は短いものの、ある程度の規則性が保たれています。一方、不正出血は月経周期に関係なく不規則に起こる出血で、周期性がなく、出血量や持続期間が不定です。両者は通常の月経周期よりも頻繁に出血が見られるという点で類似しており、患者自身が区別することが難しい場合があります。
また、頻発月経と不正出血は、しばしば同じ基礎疾患から生じることがあるため、原因の重複も混同の一因となっています。頻発月経の原因は多岐にわたりますが、主にホルモンバランスの乱れが挙げられます。排卵障害による黄体期の短縮、甲状腺機能異常(特に甲状腺機能亢進症)、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)などがこれに該当します。薬剤の影響も無視できず、低用量ピルの不適切な使用やホルモン補充療法、抗凝固薬などが頻発月経を引き起こす可能性があります。ストレスも重要な要因の一つで、精神的ストレスや過度の運動ストレスはホルモンバランスに影響を与え、月経周期を乱す可能性があります。また、思春期や更年期などのホルモンバランスが不安定な時期には、頻発月経が見られることがあります。さらに、体重の急激な変化、特に極端な減量や肥満もホルモンバランスに影響を与え、月経周期を乱す可能性があります。
これらの多様な要因が単独で、あるいは複合的に作用して頻発月経を引き起こすことがあるため、適切な診断と治療には総合的なアプローチが必要となります。
頻発月経の前兆や初期症状について
頻発月経の主な症状には以下のようなものがあります。
短い月経周期
24日以内の間隔で月経が起こります。
不規則な出血
月経以外の時期にも不規則な出血(点状出血)が見られることがあります。
月経量の変化
頻発月経に伴い、月経量が増加したり減少したりすることがあります。
貧血症状
頻繁な出血により貧血を引き起こすことがあります。症状には以下のようなものがあります
- 疲労感や倦怠感
- めまいや立ちくらみ
- 息切れや動悸
- 顔色の悪さ(蒼白)
月経痛
頻繁な月経に伴い、月経痛が増加することがあります。
ホルモンバランスの乱れに関連する症状
- 肌トラブル(ニキビなど)
- 体重変動
- 気分の変動
- 性欲の変化
不妊
排卵障害を伴う場合、妊娠が困難になることがあります。
頻発月経の検査・診断
頻発不正出血との鑑別が難しい場合もあり、 器質的婦人科疾患(子宮体癌や子宮筋腫など) の有無を検索することは重要です。
頻発月経の診断は、主に以下のような手順で行われます。
問診
医師は詳細な問診を行い、患者の月経歴、出血パターン、症状の程度、既往歴、家族歴、薬剤使用歴などを確認します。月経カレンダーや月経日誌の記録があれば、より正確な情報を提供できます。
身体診察
一般的な身体診察に加え、骨盤内診察を行います。子宮や卵巣の大きさ、硬さ、圧痛の有無などを確認します。
血液検査
- 貧血の有無を確認するための血算検査
- ホルモン検査(FSH、LH、エストラジオール、プロゲステロン、テストステロン、プロラクチン、甲状腺ホルモンなど)
- 凝固機能検査(必要に応じて)
画像診断
- 経腟超音波検査:子宮や卵巣の状態、子宮内膜の厚さ、子宮筋腫や子宮内膜ポリープの有無などを確認します。
- 子宮卵管造影検査(HSG):子宮内腔や卵管の形状を評価します。
- MRI検査:子宮腺筋症や子宮内膜症の診断に有用です。
子宮内膜生検
子宮内膜の状態を詳細に調べるため、小さな組織片を採取して顕微鏡で観察します。子宮内膜増殖症や子宮体癌の診断に重要です。
子宮鏡検査
子宮内腔を直接観察し、子宮内膜ポリープや粘膜下筋腫などの診断に役立ちます。
染色体検査
原発性無月経の場合、染色体異常を含む先天性疾患の可能性を調べるために行われることがあります。
病的無月経の症例については、原発性無月経であるか、続発性無月経であるかを問診などによって鑑別します。
頻発月経の治療
頻発月経の治療は、原因や症状の程度、患者の年齢や妊娠希望の有無などを考慮して決定されます。主な治療法には以下のようなものがあります。
ホルモン療法
- 低用量ピル(経口避妊薬):エストロゲンとプロゲステロンの複合剤で、月経周期を調整します。
- GnRHアゴニスト:重症例で一時的に使用し、ホルモン分泌を抑制します。
- エストロゲン・プロゲスチン療法:器質的疾患が除外された場合に用いられ、エストロゲンとプロゲステロンを順次投与して人工的な月経周期を作ります。
- プロゲスチン療法:月経周期15日目からプロゲステロンを10日間投与し子宮内膜を安定化させ人工的な月経周期を作ります。
排卵誘発剤
- クロミフェン、フェマーラ:無排卵周期症の場合に使用し、排卵周期を誘導します。
漢方療法
体質改善や症状緩和のために用いられることがあります。
生活習慣の改善
適度な運動、ストレス管理、バランスの取れた食事などが推奨されます。
治療方針の決定には、まず器質的疾患の有無を確認することが重要です。器質的疾患が除外された場合、ホルモン療法を中心とした治療が選択されます。エストロゲン・プロゲスチン療法やプロゲスチン療法、低用量ピルなどを用いて人工的な周期を作ることで、頻発月経を改善することができます。
無排卵周期症が原因の場合は、クロミフェンなどの排卵誘発剤を用いて排卵周期を誘導する治療も考慮されます。これにより、正常な月経周期の回復を目指します。
患者の状態や希望に応じて、これらの治療法を単独または組み合わせて使用することで、頻発月経の症状改善と基礎疾患の管理を行います。治療効果や副作用を慎重に観察しながら、必要に応じて治療法の調整を行うことが重要です。また、長期的な健康管理の観点から、定期的な経過観察と生活習慣の改善も治療の一環として重要です。
頻発月経になりやすい人・予防の方法
頻発月経になりやすい人
頻発月経のリスク群には、ホルモンバランスが不安定な思春期や更年期の女性、ストレスを抱える人、不規則な生活習慣の人、体重異常のある人が含まれます。また、子宮筋腫、子宮内膜ポリープ、甲状腺機能異常、PCOSなどの特定疾患を持つ人や、ホルモン剤使用者もリスクが高くなります。
予防の方法
予防法としては、規則正しい生活習慣の維持が重要です。適切な睡眠、バランスの取れた食事、適度な運動を心がけ、ストレス管理も行います。適正体重の維持、定期的な婦人科検診の受診、月経の記録、適切な衛生管理も効果的です。これらの予防策を実践しつつ、異常を感じた場合は早めに医療機関を受診することが重要です。日常的な注意と定期的な健康チェックにより、症状の予防や早期発見が可能となります。
参考文献
- 日本産科婦人科学会(編):産科婦人科用語集・用語解説 集 改訂第4版.口本産科婦人科学会,2018;34
- Munro MG, et a1:FIGO classification system(PALM-COEIN)for causes of abnormal uterine bleeding in nongravid women of reproductive age. Int J Gynaecol Obstet 2011; 113:3-13