

監修医師:
佐伯 信一朗(医師)
目次 -INDEX-
外陰がんの概要
外陰部がんは、女性の外性器(外陰部)に発生する比較的まれな悪性腫瘍です。
婦人科がんの中では5〜8%を占め、年間約6,470人が診断されます。その大半は扁平上皮がんという種類で、主に高齢の女性に影響を与えます。
外陰部がんは早期に発見されれば治療の可能性が高くなりますが、初期症状が軽微であったり、恥ずかしさから受診が遅れたりすることで、進行してから見つかることもあります。そのため、定期的な検診と自己観察が非常に重要です。
外陰がんの原因
外陰部がんの発症には複数の要因が関与しています。最も重要なリスク因子の一つは、ヒトパピローマウイルス(HPV)感染です。特に16型と18型のHPVが外陰部がんと強く関連しています。
年齢も重要な因子で、特に閉経後の女性に多く見られます。また、慢性的な外陰部の炎症や皮膚疾患、喫煙、免疫機能の低下なども発症リスクを高める要因となります。
遺伝的要因も外陰部がんの発症に関与している可能性がありますが、その具体的な関連性については、現在のところ明確ではありません。大多数の症例では、環境要因や生活習慣がより重要な役割を果たしていると考えられています。
過去に骨盤領域への放射線治療を受けた経験がある場合も、長期的に外陰部がんのリスクが高まる可能性があります。
外陰がんの前兆や初期症状について
外陰部がんの初期症状は軽微であったり、他の良性疾患と似た症状を示したりすることがあるため、見逃されやすい傾向があります。
以下のような症状が持続する場合は、外陰部がんの可能性を考慮する必要があります。
- 皮膚の変化:
外陰部にしこりや腫れ、色の変化、治りにくい傷や潰瘍などが現れることがあります。 - かゆみや痛み:
持続的なかゆみや痛み、灼熱感を感じることがあります。 - 出血や異常な分泌物:
性交時や排尿時、あるいは自然に出血したり、異常な分泌物が見られたりすることがあります。 - 排尿や排便の問題:
排尿時の痛みや排便困難が生じることがあります。 - 外陰部の形の変化:
腫瘍の形成により、外陰部の形が変わることがあります。 - リンパ節の腫れ:
特に鼠径部(太ももの付け根)のリンパ節が腫れることがあります。
これらの症状は必ずしも外陰部がんを意味するものではありませんが、2週間以上持続する場合や、症状が悪化する場合は、速やかに医療機関を受診することが重要です。
外陰がんの検査・診断
外陰部がんの診断は、複数の検査を組み合わせて総合的に行われます。
主な検査方法は以下の通りです。
問診と視診
医師が症状や既往歴を詳しく聞き取り、外陰部を注意深く観察します。
触診
外陰部やその周辺のリンパ節を触って、異常がないか確認します。
コルポスコピー検査
拡大鏡を使って外陰部を詳しく観察します。
生検
疑わしい部位から小さな組織を採取し、顕微鏡で調べます。これが確定診断の決め手となります。
画像検査
CT、MRI、PET-CTなどを用いて、がんの広がりや転移の有無を確認します。
血液検査
全身状態の評価や特定のがんマーカーの測定を行います。
HPV検査
HPVの感染の有無を調べます。
これらの検査結果を総合的に評価し、がんの進行度(ステージ)を決定します。ステージは治療方針の決定に重要な役割を果たします。
外陰がんの治療
外陰部がんの治療は、がんの進行度、腫瘍の特性、患者の全身状態などを考慮して個別化されます。主な治療法には手術、放射線療法、化学療法があり、これらを単独または組み合わせて用います。
早期の外陰部がんでは、手術が主な治療法となります。がん組織とその周囲の正常組織を含めて切除する「広範囲外陰切除術」が一般的ですが、がんの大きさや位置によっては、より小さな範囲の切除で済むこともあります。また、がんの転移リスクに応じて、リンパ節の切除も行われます。
局所進行がんの場合、放射線療法と化学療法を組み合わせた治療(化学放射線療法)が選択されることがあります。この治療は、手術前に腫瘍を縮小させる目的や、手術後の再発リスクを減らす目的で行われます。
転移性または再発性の外陰部がんに対しては、全身療法として化学療法や免疫療法が用いられます。最近では、特定の遺伝子変異を持つがんに対する分子標的薬や、免疫チェックポイント阻害剤などの新しい治療法も開発されています。
治療後は定期的な経過観察が重要で、再発の早期発見や治療による副作用のケアが行われます。また、患者の生活の質(QOL)を維持・向上させるための支持療法も治療の重要な一部です。
外陰がんになりやすい人・予防の方法
外陰がんになりやすい人
外陰部がんは特定の要因を持つ人々により多く発症します。
主なリスク群には、60歳以上の高齢女性、HPV感染者、喫煙者、慢性的な外陰部の炎症や皮膚疾患がある人、免疫機能が低下している人が含まれます。また、過去に子宮頸がんや腟がんの治療歴がある人もリスクが高まる可能性があります。
予防の方法
予防には複数の効果的な方法があります。HPVワクチンは主に子宮頸がんの予防を目的として開発されましたが、HPV関連の他のがん、特に外陰部や腟、肛門のがんに対しても予防効果がある可能性が示唆されています。外陰部がんの一部(約40%)がHPV感染と関連していることから、HPVワクチンは外陰部がんのリスク低減に寄与する可能性があります。定期的な婦人科検診と自己検診も早期発見に重要です。禁煙、安全な性行為、適切な外陰部のケア、健康的な生活習慣の維持も予防に役立ちます。
これらの方法でリスクを低減できますが、完全な予防は難しいため、定期的な検診と自己観察が最も重要です。気になる症状があれば、速やかに医療機関を受診することが早期発見・早期治療につながります。
参考文献
- National Comprehensive Cancer Network (NCCN). Vulvar Cancer, Version 3.2024 (NCCN Clinical Practice Guidelines). NCCN Guidelines.
- European Society of Gynaecological Oncology (ESGO). Guidelines for the Management of Patients with Vulvar Cancer (2023 update). ESGO Guidelines.
- American Cancer Society. Vulvar Cancer.
- World Health Organization (WHO). Human papillomavirus (HPV) and cervical cancer.
- Centers for Disease Control and Prevention (CDC). Human Papillomavirus (HPV).




