監修医師:
中里 泉(医師)
腟カンジダの概要
腟カンジダ症とは、酵母様真菌(カビの一つ)であるカンジダが引き起こす疾患です。
しばしば腟だけではなく外陰部にも発生し、カンジダ外陰腟炎(vulvovaginal candidiasis : VVC)とも呼ばれます。
症状を起こすカンジダ属で最も多いのはCandida. albicansですが、同じ属のCandida. glabrataも散見されます。
これらの真菌は消化管や皮膚の常在菌であり、直腸から肛門、会陰を介して腟に移行します。
女性生殖器感染症の中では罹患頻度は高く、75%の女性が生涯で最低でも1回は罹患すると言われています。
膣内のカンジダ保有率は、性成熟期の非妊娠女性で約15%とされていますが、このうちカンジダ症としての発症率は37%程度であり、カンジダ菌がいること=カンジダ症ではなく、何らかの症状が出現して初めて「カンジダ症」ということができます。
症状としては強いかゆみや帯下の増量、カッテージチーズ様・酒粕様の帯下が特徴的です。
原因として、抗生剤の内服や、糖尿病、免疫抑制剤投与、通気性の悪い下着の着用、不適切な自己洗浄などがあります。
治療は、抗真菌薬の膣内投与や内服、外陰部にはクリームや軟膏を用います。治療により自覚症状の消失と帯下の改善をみたものを治癒とします。
腟カンジダの原因
本来腟を含め、消化管や皮膚にいる常在菌ですが、以下を誘因として「腟カンジダ症」として症状が出現することがあります。
抗生剤内服後、妊娠、糖尿病、消耗性罹患疾患、免疫抑制剤投与、放射線療法、化学療法、通気性の悪い下着の着用、不適切な自己洗浄などです。
ただ、明らかな原因がないことも珍しくありません。
また、感染経路は、性交渉による感染、直腸や尿道からの感染、手指やタオルからの感染がありますが、先ほど述べた通り人体の常在菌であるため、性交渉未経験の方でも発症することがあります。
腟カンジダの前兆や初期症状について
帯下の増量、腟入口部に痛痒いほどの掻痒感、灼熱感、外陰部の痛みや排尿時痛などの自覚症状が出現します。
また、カッテージチーズ様、酒粕様といった特徴的な帯下が出現します。偽膜と呼ばれる薄い膜を作ることがあり、これをはがすと出血することがあります。
慢性化すると、徐々に外陰部は厚くなり、灰白色になり赤味は消失します。腟内も発赤・腫脹します。
外陰部にも発赤や、かゆみによるひっかき傷、むくみなどがみられます。
妊娠末期に発症すると、経腟分娩後に新生児に皮膚カンジダ症や鵞口瘡を発症することがあります。
ただし、他の原因菌でも似たような症状が出現したり、混合感染を起こしていることもあるため、症状だけで100%診断することは困難です。
上記のような症状が出現した場合は、産婦人科を受診し適切な検査を受けましょう。
腟カンジダの検査・診断
患者さんの症状(外陰部掻痒感)と、上記のような外陰部・腟・腟内容物の所見、菌の検出により診断します。
検査には、鏡検法と培養法があります。
いずれも帯下を採取して行う検査です。
①鏡検法
採取した帯下を生理食塩水と混ぜ、その場で顕微鏡で観察し、分芽胞子や偽菌糸を見つけます。
ただし、偽菌糸をつくらないものや、採取した帯下にうまく菌糸を認めない場合は偽陰性となることがあります。
②培養法
水野・高田培地(MT培地)、CA-TG培地、カンジダ培地Fなどを用いて培養します。
腟カンジダの治療
治療法については、抗真菌薬の局所投与、内服投与、外陰部に対する外用薬の使用などがあり、症状に応じて選択します。
培養検査の結果がでるまでは1週間程度かかるため、自覚症状や特有の帯下所見があれば、腟カンジダ症と臨床的に診断し、結果を待たずに治療を開始することもあります。
ただし、ほかの原因菌でも紛らわしい症状が出現したり、混合感染の場合もあるため、検査を行い結果を必ず確認することが重要です。
①抗真菌薬膣内投与
下記の抗真菌薬を、洗浄後に腟内に挿入します。
治療回数はまず概ね6回行った後に効果を確認し、治療が不十分である場合は追加治療を検討します。
自己処置の場合は、適切な位置に挿入できないと治癒が遅れる場合もあるため、使い方をしっかり確認するようにしましょう。
②内服薬
内服薬投与後4-7日くらいを目安に効果判定を行います。
妊婦は腟カンジダ症になりやすいですが、妊婦や授乳婦は内服薬は禁忌であることに注意が必要です。
③局所塗布剤
大陰唇より外側に炎症がある場合は、皮膚カンジダ症としての治療が必要となります。
外陰部を清潔に保つのは必要ですが、石鹸の使用は皮膚や粘膜を刺激し、かえって悪化させることもあります。
腟カンジダ症の約90%は初回治療で治癒しますが、少数は再発を繰り返します。
年間4回以上再発するものを再発性腟カンジダ症と呼びます。
再発を繰り返す場合や、中々よくならない場合は、最初の治療薬と異なる薬に変えるか、投与期間を長くします。
カンジダ属の中でも、種類(Candida. glabrata、Candida. kruseiなど)によっては、日本で保険適用となっている薬に抵抗性のものがあります。
再発例では、カンジダ属の中でも種類を調べ、薬剤感受性の結果を確認することがあります。
また、直腸や尿路からカンジダが検出された場合には、副作用に注意しつつフルシトシンやアムホテリシンBでの治療も考慮されます。
カンジダは皮膚や消化管の常在菌であるため、菌が少量残っていても治療により症状が改善していれば治癒と判断します。
そのため、効果判定として治療後の再度の培養検査は通常不要です。
腟カンジダになりやすい人・予防の方法
腟カンジダは、一般的に宿主側(患者さん)の全身状態、局所状態の変化に伴い異常に増加して発症します。
- ①局所の温度、湿度の変化(一般的に真菌は温度と湿度が高い環境を好むため、蒸れた状態は発症しやすい)
- ②妊娠中、ホルモン剤使用中など、エストロゲンが亢進している人(エストロゲンの産生が亢進すると腟上皮のグリコーゲンの増量と、過剰な乳酸産生がもたらす腟内pHの低下により、菌交代現象が起きやすい)
- ③抗菌薬投与後(②同様、菌交代現象が起きやすい)
- ④糖尿病、消耗性罹患疾患、免疫抑制剤投与、放射線療法、化学療法など、全身性の免疫が低下する疾患や既往のある人などがなりやすいと言えます。
なるべく通気性のよい下着をつけつつ、過剰な洗いすぎには注意しましょう。
石鹸は使用せず、軽くお湯で洗い流すだけで良いです。
また、「以前かゆみがあった時に処方された」などの理由で自己判断で漫然と外用ステロイドを使用することも症状悪化の一因となります。
外陰部のかゆみが出現した場合は、婦人科を受診して検査を受け、適切な治療を行うようにしましょう。