目次 -INDEX-

子宮外妊娠
西野 枝里菜

監修医師
西野 枝里菜(医師)

プロフィールをもっと見る
【経歴】
東京大学理学部生物学科卒
東京大学薬学部薬科学専攻修士課程卒
名古屋大学医学部医学科卒
JCHO東京新宿メディカルセンター初期研修
都立大塚病院産婦人科後期研修
久保田産婦人科病院
【保有資格】
産婦人科専門医
日本医師会認定産業医

子宮外妊娠の概要

子宮外妊娠とは、本来受精卵が着床すべき子宮内膜以外の部位に着床してしまう妊娠のことを言い、異所性妊娠とも言います。

子宮外妊娠は、妊娠初期の異常妊娠の代表的な疾患であり、女性の下腹痛の症状がある場合には必ず念頭に置かなければならないものの1つです。1950年の子宮外妊娠による死亡者数は300人を超えるほどでしたが、現代では診断技術が発達し、無症状の段階で診断・治療できるケースが増えてきました。それでもなお年間数名の死亡者が出ています。

子宮外妊娠は全妊娠の1-2%程度の頻度で発症します。
着床部位により、卵管妊娠、間質部妊娠、頸管妊娠、帝王切開瘢痕部妊娠、卵巣妊娠、腹膜妊娠、着床部位不明妊娠(さまざまな検査を行っても着床部位が特定できず、ヒト絨毛性ゴナドトロピン:hCGのみ陽性を示す)などがあります。このうち、卵管妊娠が90%を占めます。

子宮外妊娠と診断された場合の治療法の原則は手術療法ですが、場合により保存的手術療法や薬物療法、待機療法が考慮されることもあります。

子宮外妊娠の原因

子宮外妊娠の原因はさまざまですが、着床する部位により特徴や傾向があります。

卵管妊娠

クラミジアによる卵管炎などの骨盤内炎症性疾患や、体外受精による卵管性不妊症に対する治療が原因と考えられています。

卵管間質部妊娠

成因は不明ですが、経産婦に多く、人工妊娠中絶の既往や子宮内膜症、特に子宮腺筋症や子宮筋腫による卵管間質部の狭窄、子宮の先天奇形や発育不全が原因となる場合があります。

頸管妊娠

子宮腔内での正常な着床が妨げられている場合に起こりやすいと考えられています。子宮内膜の炎症子宮奇形子宮内膜症子宮筋腫子宮内異物が原因となり得ます。また、体外受精による妊娠では発症率が高くなると言われています。

子宮外妊娠の前兆や初期症状について

代表的な症状は無月経、それに続く下腹痛、不正出血が多いですが、子宮外妊娠のみに典型的な症状ではないため、初期症状だけで診断をするのは困難です。流産との鑑別も難しいため、場合により妊娠初期には厳密な管理、検査が必要となります。

また、妊娠週数が進み、卵管が破裂すると急激な下腹痛が起きます。出血量が多くなると貧血やショック症状(顔面蒼白、冷汗、あくび、悪心、嘔吐、めまい、四肢冷感、失神、脈拍の微弱・増加、血圧低下)を呈することがあります。

妊娠可能な年齢の女性における下腹痛は、必ず子宮外妊娠を考慮しなければなりません。妊娠を正しく診断するために、産婦人科を受診するようにしましょう。

子宮外妊娠の検査・診断

妊娠反応が陽性であるにもかかわらず、超音波などの画像検査で子宮内に胎嚢が見えない、あるいは明らかに子宮外に胎嚢が見えることで診断します。しかし、妊娠の時期や着床部位によりさまざまな可能性を考慮する必要があり、時間をかけて診断に至ることも往々にしてあります。

  • 妊娠反応が陽性であるにもかかわらず子宮内に胎嚢が確認されない場合は、ごく初期の正常妊娠、流産、子宮外妊娠のいずれの可能性もあります。体外受精で妊娠週数が確定している場合は鑑別がしやすくなりますが、自然妊娠(特に月経不順の方の場合)は週数の推定が困難であり、診断はより慎重に行う必要があります。

    一般的な妊娠検査薬は、尿中hCGが25IU/L程度で陽性となりますが、これは妊娠4週前後にあたり、月経周期が28日周期の方の場合の月経予定日頃です。ただし、この時期はまだ超音波で子宮内に胎嚢が見えないため、確定診断はできません。
    妊娠5-6週頃、あるいはhCGが1500-2500IU/L以上あれば超音波検査にて子宮内に胎嚢が確認できる可能性が高くなります。ただし、hCGが2000IU/Lを超えた正常妊娠であっても胎嚢が確認できない場合も低頻度ながらあるため、hCGの推移が重要であるとの報告があります。

  • 超音波検査で子宮腔外(卵管や頸管など)に胎嚢や卵黄嚢、胎芽が確認できれば子宮外妊娠の診断は確定します。

  • 超音波検査で子宮内に胎嚢が確認できず、卵管や頸管などにも明らかな所見がない場合は、子宮内容除去術を行うこともあります。手術が完了し、子宮内に遺残がないにもかかわらずhCGが低下しない場合は子宮外妊娠と診断できます。

子宮外妊娠の治療

子宮外妊娠の治療の原則は手術療法ですが、患者さんの全身状態や着床部位、hCG値、胎児心拍の有無、腫瘤の大きさ、今後の妊娠希望の有無などを参考にして薬物療法、待機療法を検討することがあります。

手術療法

母体の全身状態が悪化している場合(貧血、低血圧、頻脈、腹腔内出血など)は卵管摘出術による根治術が行われます。その際、開腹手術にするか、腹腔鏡手術にするかは状況に応じて判断となります。腹腔鏡による手術は、開腹手術に比べ、手術時間や入院期間の短縮、手術中の出血の減少と言った利点があるものの、挙児希望がある場合の次回の妊娠率には差を認めないとの報告があります。

母体の全身状態が良好である場合は、卵管摘出術と卵管切開術(卵管を温存する)の選択については術後の妊孕性に大きな差はなく、いずれを選択しても良いとされます。ただし、どちらの手術方法を選択しても、子宮外妊娠の反復が10-15%程度あると言われています。

卵管妊娠における保存的手術療法(卵管切開術、卵管温存)の適応基準について、日本産科婦人科内視鏡学会では、下記をすべて満たすものとしています。

  • 挙児希望あり
  • 病巣の大きさが5cm未満
  • 血中hCG値10000IU/L以下
  • 初回卵管妊娠
  • 胎児心拍のないもの
  • 未破裂卵管

また、上記は90%を占める卵管妊娠における手術療法ですが、頸管妊娠や卵管間質部妊娠など、着床部位と母体の全身状態によっては子宮全摘術が必要になる場合もあります。

薬物療法

母体の全身状態が良好であれば、薬物療法を選択可能な場合があります。
諸外国ではメトトレキサート(methotrexate:MTX)による薬物療法の有効性が確立され、第一選択とされていますが、現状日本では適応外使用となります。海外のガイドライン(Royal college of Obstetricians and Gynecologists)においては、MTXの良い適応として

  • 全身状態が安定していること
  • 血清β-hCGが1500IU/L未満(5000IU/Lまでは可能)
  • 胎児心拍が確認できないこと

などを挙げています。

また、着床部位(頸管妊娠や帝王切開瘢痕部妊娠など)によっては手術療法のリスク回避のために薬物療法を先行させることがあります。

待機療法

薬物療法と同様、母体の全身状態が良好であることを前提として、特に治療はせずにhCGの低下を自然に待つ方法です。
待機療法を選択する基準として

  • 胎児心拍がない
  • 腫瘤の大きさが30mm未満
  • 血清β-hCGが1000-1500IU/L未満

を推奨するガイドラインがあります。

卵管温存術、薬物療法、待機療法を選択した場合は、異所性妊娠存続症の可能性があるため、hCG値が非妊時と同等レベルになるまで経過観察が必要です。また、根治術を選択しない場合は卵管妊娠破裂などにより母体の状態が急激に悪化する可能性があるため、必ず緊急対応が可能な状態で経過観察を行うことが前提となります。

子宮外妊娠になりやすい人・予防の方法

子宮外妊娠は、クラミジアなどの性感染症による骨盤内炎症性疾患、人工中絶既往、高年齢、経産婦、体外受精妊娠に多いとされています。完全な予防は難しく、一定の確率で起こりますが、早期発見することで卵管や子宮を温存する選択肢がとれることがあります。生理の遅れや下腹痛、不正出血がある場合は早めに産婦人科を受診するようにしましょう。

関連する病気

  • 卵管妊娠
  • 卵巣妊娠
  • 腹膜妊娠
  • 頸管妊娠
  • 流産

この記事の監修医師