

監修医師:
馬場 敦志(宮の沢スマイルレディースクリニック)
目次 -INDEX-
稽留流産の概要
稽留流産とは、腹痛や出血といった流産の兆候がないにもかかわらず、妊娠22週未満で胎児の成長が止まってしまった状態です。超音波検査で初めて分かります。
臨床的に妊娠が確認された後で、稽留流産を含む流産となる確率は、およそ15%です。このうち8割以上が、12週までの妊娠初期に起きます。流産の要因には予防可能なものもありますが、多くは偶発的な胎児の染色体異常であり、誰に起きても不思議ではありません。
稽留流産と診断された後は、2週間以内に腹痛や出血が始まり、子宮内容が排出されることが多いようです。待たずに手術で取り出す方が一般的に治療期間が短く、子宮内容の検査ができるなどの利点もありますが、胎児の大きさなどの条件を満たせば自然排出を待つことも可能です。
稽留流産の原因
稽留流産を含む流産の原因は、分からない場合が多いのが現状です。大半は胎児の染色体異常とされますが、そのほかの要因が隠れている場合もあります。
胎児の染色体異常
胎児の染色体異常は、自然流産の50〜70%に見られ、多くは偶発的なものです。親の染色体が2等分されて精子・卵子ができ、組み合わさって受精卵となる過程で、エラーが起きる場合があるのです。エラーが起きた受精卵は多くの場合、うまく育つことができません。
抗リン脂質抗体症候群
抗リン脂質抗体という自己抗体を持つ方は、体質として血が固まりやすいです。普段の生活では問題とならない場合も多いですが、妊娠中には血流の遅い胎盤で血栓ができやすく、流産につながりやすいと考えられます。抗リン脂質抗体は、自己免疫疾患の方が併せ持つ場合も、特に持病のない方が持っている場合もあります。
子宮の形態異常
先天的な子宮の奇形が流産に関わる場合もあります。流産の要因となりやすいのは、子宮の内側に壁が出っ張っている中隔子宮と、子宮の形がY字型となっている双角子宮です。
親の染色体異常
均衡型転座という染色体異常を持つ方では、精子・卵子が作られる際に一定の割合で、染色体の組み合わせが異常となります。このような精子・卵子が受精すると、受精卵の染色体も異常となり、育つことができません。
稽留流産の前兆や初期症状について
稽留流産は、前兆や初期症状といった特別な症状がない流産です。
稽留流産では、その後腹痛や出血とともに、進行流産から子宮内容物が自然に流れる場合もありますが、症状がない場合もあります。心配な場合や症状が強い場合は産婦人科に相談し、必要に応じて受診するのが大切です。
稽留流産の検査・診断
稽留流産の検査と診断は、超音波検査で行います。診断の鍵となるのは、胎嚢・胎芽の大きさと、胎芽・胎児の心拍です。
胎嚢・胎芽の大きさ
妊娠して初めて診察を受けたときに、胎嚢や胎芽が、最終月経から推定されるサイズより小さい場合も珍しくありません。排卵が遅れる可能性は誰にでもあるからです。
胎嚢や胎芽が小さいときは、2週間ほどあけて再確認します。1週間では、測定誤差や見え方の違いによる誤差が否定できません。約2週間後、見合った大きさに育っていれば妊娠継続であり、成長が見られなければ稽留流産と考えます。
胎芽・胎児の心拍
胎児の心拍は、妊娠5週の終わり頃から確認され始め、8週までに全例で確認できます。この際の週数とは、最終月経からの週数ではなく、胎芽の大きさから判断した週数です。胎芽が8週相当より大きいにもかかわらず、心拍が見えない場合は稽留流産と診断されます。
また、胎芽が8週相当より小さくても、心拍が一度確認できたら消えることはありません。消えてしまった場合は稽留流産です。検査結果に間違いがないか、状況によっては日を改めて検査するなど、慎重に確認して診断します。
稽留流産の治療
妊娠初期における稽留流産の治療は、待機的管理と手術の2種類です。両者は感染リスクや次回の妊娠への影響に差がなく、どちらが優れているとは一概に言えません。メリットとデメリットを考慮し、状況に応じて選択します。
妊娠12週以降の後期流産では、病院での処置が必須となります。
待機的管理
待機的管理とは、子宮内容が自然に排出されるのを待つ方法です。胎芽の大きさが10mm未満で、出血傾向や感染症などがなく、身体の状態が落ち着いている場合に選択可能です。2週間程度待つのが通常ですが、なかなか出てこなければ4週間まで待つ場合もあります。
稽留流産を見守っていると、徐々に出血や腹痛が起き、子宮内容が排出されていきます。およそ75〜90%前後の患者さんが、2週間以内に排出に至り、すべて自然に出てくれば完全流産です。
待機的管理のメリットは、体の負担が少なく済む可能性があることです。完全流産に至れば、手術の必要がありません。この場合、手術に伴う身体的・経済的負担がないこともメリットです。
待機的管理のデメリットは、いつ出てくるか予想が難しいことです。予定が立てにくいだけでなく、時間外に受診が必要となるケースもあります。特に子宮内容が完全に出てこない場合(不全流産)や、多量の出血が起きたりした場合は、速やかな外科的処置を検討します。また、子宮内感染や死産児症候群などの合併症が起こる可能性があり、重症化すると死に至るケースもあります。
手術
初期流産の手術は、以前は子宮内掻爬術が行われていましたが、今は吸引法も保険適用となりました。吸引法は、頚管拡張の必要がなく簡便な方法です。子宮腔内にカニューレを挿入し、数回に分けて内容物を吸引します。
手術のメリットは、治療期間の見通しが持てることです。子宮内容を検査しやすいことや、ハイリスクの患者さんにも行えることも利点です。
手術のデメリットは、手術に伴う心身の負担です。子宮穿孔・子宮頚管裂傷といった合併症のリスクも排除できません。
後期流産の処置
妊娠12 週以降の流産の処置は、頚管拡張の後に子宮収縮薬を投与し、出産と同じ形で行います。時間をかけて頚管拡張を行うことが、安全な流産処置のために重要です。
処置後は、感染の原因となる胎盤の遺残がないか、超音波検査でよく確認します。
稽留流産になりやすい人・予防の方法
流産の危険因子で重要なのは、女性の加齢です。20歳代の流産率は10%程度ですが、40歳代では40%以上と高くなります。
男性の加齢も、自然流産の確率が上がる要因です。45歳より高齢の男性では、25歳未満と比べて、自然流産の確率が2倍になるとの報告もあります。
不育症の可能性と予防方法
不育症とは、妊娠することはできるのに、流産や子宮内胎児死亡を繰り返す状態です。妊娠10週以降の流産を経験した方や、連続して2回以上流産した反復流産の方、3回以上流産した習慣流産の方は、予防可能な要因が見つかる場合があります。
以下に不育症の代表的な要因と、流産予防につながる治療方法を示します。複数の要因を持っている場合もあるため、網羅的に調べるのが理想です。
抗リン脂質抗体症候群の治療
血が固まりやすい抗リン脂質抗体症候群は、薬を使った治療法が確立しています。抗血小板薬の内服を行い、重症度に応じて抗凝固薬の自己注射を併用します。胎盤で血栓ができないようにコントロールすることで、流産の確率を下げられます。
子宮奇形の治療
子宮の奇形のうち中隔子宮は、出っ張った壁を子宮鏡手術で取ることで、出産率が改善したとの報告があります。一方で、手術をしなくても出産率に差はないとする報告もあり、実は効果ははっきりしていません。
親に染色体異常がある場合
反復・習慣流産の方の2〜6%は、カップルの片方に染色体の均衡型転座が見つかります。遺伝学的検査を受けて転座があると分かれば、着床前診断によって流産率を下げられます。
ただし、着床前診断を受けるには体外受精を行い、胚に侵襲を加えなければなりません。転座があっても、次回の自然妊娠で32〜63%が、累積では68〜83%が出産に至ることも考慮し、慎重に選択する必要があります。
また、転座自体の治療法はありません。検査の意義や、結果に対してどう考えるかなど、事前に十分な説明を受けることが大変重要です。カップルのどちらに転座があるのか聞かず「どちらかにある/どちらにもない」だけを明らかにする選択肢もあります。
予防可能な原因がない場合
不育症のスクリーニング検査をしても、半数以上の方は流産しやすい要因が見つかりません。この場合は、原因不明の特別な状態ではなく、胚の染色体異常が偶然続いただけの可能性が高いと考えられます。特別対策する方法がないため、このまま次の妊娠をトライするのが良いでしょう。
再掲になりますが、自然流産の50〜70%は、胎児の染色体異常による避けられないものです。20歳代の若い方でも、1回目の妊娠で10人に1人が流産となり、確率的に100人に1人は2回続けて流産してしまいます。
一方で、2回続けて流産した方の8割程度は、次の妊娠で問題なく出産に至ります。30歳代で3回流産を繰り返しても、次の妊娠で約70%の方が出産できたとのデータもあります。流産の確率は意外と高い反面、流産後に問題なく妊娠・出産できる確率も、意外と高いのです。
関連する病気
- 凝固異常
- 甲状腺機能異常
- 子宮形態異常
参考文献




