監修医師:
馬場 敦志(宮の沢スマイルレディースクリニック)
乳腺炎の概要
乳腺炎は、乳房の乳腺に炎症が生じる病気です。女性のうち、産後からはじまる授乳期から発症率が高まります。
産後の約2〜3週間が、乳腺炎の発現が高まってしまう時期です。この期間の発生率は約2〜33%と高くなります。
乳腺炎は授乳中に発症することがほとんどです。しかし、妊娠出産以外の時期でも発症する可能性は十分にあります。
乳腺炎には大きく分けて4つの種類があり、症状が重症化すると敗血症に至る可能性も否定できません。
どの乳腺炎を発症しているか・症状の進行はどれくらいなのかを知ることが大切です。
また、適切な授乳方法や健康的な生活習慣を維持することで、乳腺炎の予防につながります。
乳腺炎の原因
乳腺炎の原因は、授乳期と非授乳期の2つに分けられます。
また、授乳期の有無に応じて発症する乳腺炎の種類が異なるため注意が必要です。その点についても、詳しく解説します。
授乳期
授乳期に発症しやすい乳腺炎には、うっ滞性乳腺炎と化膿性乳腺炎の2種類があります。うっ滞性乳腺炎は、初産婦・高齢産婦が発症しやすく、乳管という通り道に乳汁がうっ滞することで引き起こる乳腺炎です。母乳を赤ちゃんが上手く吸えなかったり、母乳を運ぶ乳管が十分に開いていなかったりして、母乳の流れが滞ることをうっ滞といいます。乳腺炎のケアをすると、24時間以内に症状の改善がみられることが多いです。もう1つの乳腺炎の原因は化膿性乳腺炎です。化膿性乳腺炎を起こしやすい細菌は黄色ブドウ球菌や連鎖球菌で、乳頭の傷口から乳房内に侵入することで発症します。授乳期には赤ちゃんの吸引によって乳頭が傷付きやすい状況になり、細菌感染しやすくなります。普段は無菌状態な乳管の中で、細菌が感染し増殖すると、化膿性乳腺炎を発症します。
非授乳期
非授乳期とは、妊娠や出産後の授乳をしていない時期を指します。非授乳期の乳腺炎には、乳輪下膿瘍と肉芽腫性乳腺炎の2種類があります。まず乳輪下膿瘍は、化膿性乳腺炎が悪化してできた膿が乳房内に溜まった状態です。化膿性乳腺炎は、乳頭が陥凹している方や、喫煙者、肥満の人、糖尿病の人などに多くみられる傾向があります。乳輪下膿瘍は膿瘍が発現した部位によって、表在性と深在性に分けられています。表在性は、皮膚の表面に見える形で存在する腫瘍です。暗紫色に乳房の皮膚が変色することがあります。一方の深在性は、皮膚の内側に腫瘍が存在するため見えません。深在性の場合には、腫瘍を確認するために乳房超音波検査が必要です。乳輪下膿瘍は再発リスクが高いため、なかなか完治しにくいといった特徴があります。もう1つの乳腺炎は、非授乳期に発生する肉芽腫性乳腺炎があります。これは、乳房に結節(けっせつ)ができる疾患です。結節とは、乳腺管内に直径1cm以上の肉芽組織が形成され、皮膚の表面が隆起する発疹の1つに分類されています。ですが、肉芽腫性乳腺炎の発症に影響している原因はいまだ解明されていません。また、乳腺炎の症状が発現してから72時間以上経過してもなお症状がみられることが特徴です。非授乳期の乳腺炎は腫瘍ができることから、乳がんと間違えやすい疾患でもあります。しかし、乳がんと乳腺炎とでは治療方法やリスクが大きく異なります。疑わしい症状を自覚した場合には、早めに病院を受診しましょう。
乳腺炎の前兆や初期症状について
乳腺炎の前兆や初期症状は乳腺炎の種類によって異なります。また、乳房にしこりや痛みが発現するため、乳がんと間違えるケースもあります。
乳腺炎の初期症状や、しこりを発見した場合には産婦人科や乳腺外科を受診しましょう。種類ごとにみられる初期症状をそれぞれ解説していきます。
うっ滞性乳腺炎
初期症状は、以下のとおりです。
- 乳房のしこり
- 皮膚が赤くなる
- 乳房が熱くなって炎症が感じられる(熱感)
- 乳房のハリや痛みが出る
上記の症状から状態が悪化すると、乳首からの分泌物・発熱・頭痛・関節痛など乳房以外にも症状が現れます。
化膿性乳腺炎
初期症状は、以下のとおりです。
- 乳房のしこり
- 悪寒や震えを伴う高熱
- 脇の下にあるリンパ節の腫れや痛み
痛みや発熱が続くようであれば、医師に相談しましょう。症状を緩和するための治療方法が考慮される場合もあります。
乳輪下膿瘍
初期症状は、以下のとおりです。
- 乳輪周囲が赤く腫れる
- 乳房が熱くなって炎症が感じられる(熱感)
- 乳房に痛みが出る
- 乳輪下の腺房から膿が出る
上記の症状が悪化すると、乳房の皮膚が暗紫色に変色したり皮膚の表面が隆起したりします。変色や隆起を自覚した場合には、速やかに病院へ受診することが大切です。
肉芽腫性乳腺炎
初期症状は、以下のとおりです。
- 皮膚が炎症して深くえぐれる
- 発赤
- 疼痛
- 片側性孤立性の腫瘤がある
- 脇の下にあるリンパ節が腫大化する
ほかの乳腺炎と比べると、乳がんに似た症状が現れます。痛みや出血を伴うケースもあるため、注意が必要です。
乳腺炎の検査・診断
乳腺炎の検査・診断は問診や触診が中心となります。うっ滞性乳腺炎であれば、問診と触診のみで診断されることもあります。
ですが、細菌感染や非授乳期での乳腺炎が疑われる場合には、超音波検査・血液検査・細菌検査が必要です。
これらの検査では、腫瘍の有無・腫瘍の広がり・炎症の重症度・原因となる細菌の特定を行います。ただし、細菌検査は培養する工程が必要なため、結果が出るまで数日を要します。
乳腺炎の治療
乳腺炎の治療方法は乳腺炎の種類によって大きく異なります。うっ滞性乳腺炎の場合は、入念な授乳後の搾乳やマッサージです。
痛みを緩和するために、消炎剤の使用や乳房を冷やす対症療法が考慮されます。これらは母乳の流れを改善することが目的です。
化膿性乳腺炎の場合は細菌感染を起こしているため、抗生物質の投与が必要になります。痛みや発熱が続く場合には、解熱剤で症状の軽減を図ることもあります。
乳輪下膿瘍の治療は、抗生物質の投与や手術療法です。手術療法では膿を排出する針刺しや切開術を施して、抗生物質で細菌感染の再発を予防します。
肉芽腫性乳腺炎の治療方法は、抗生物質やステロイド剤などの薬物治療です。薬物治療でも症状が改善されない場合には、外科治療が検討されることもあります。
乳腺炎になりやすい人・予防の方法
陥没乳頭は、うっ滞性乳腺炎と化膿性乳腺炎を発症しやすいとされています。陥没乳頭は、乳頭を支える組織が未発達になりやすいからです。陥没していない乳首よりも老廃物が溜まりやすかったり、細菌が繁殖しやすかったりするため、清潔に保つよう注意しましょう。
陥没乳頭以外にも、授乳期も乳頭に傷が付きやすく乳腺炎になりやすいため注意が必要です。
乳腺炎になりそうだと感じたら、マッサージや搾乳はもちろん赤ちゃんにしっかり母乳を吸わせて、母乳の流れを良くしましょう。
ほかにも乳腺炎の予防には、以下の方法がおすすめです。
- 乳頭を清潔に保つ
- 乳頭の保湿ケア
- 鉄・ビタミンC・葉酸を意識した食生活
- 授乳の方法や時間を見直す
上記以外にも、ストレスから乳腺炎を発症しやすくなることもあります。ストレスや睡眠不足は免疫力を低下させてしまいます。その結果、細菌感染のリスクを高めてしまうことに留意しましょう。乳腺炎の発症率リスクは、産後約2〜3週間に高まるとされています。ですが、妊娠・出産・授乳期はホルモンバランスの乱れや、育児による生活環境の大きな変化からストレスや睡眠不足に陥りがちです。家族やパートナーと助け合うことで乳腺炎のリスクを軽減させましょう。それでも「乳腺炎かもしれない」と感じたら、医師に相談することをおすすめします。