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阿部 一也

監修医師
阿部 一也(医師)

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医師、日本産科婦人科学会専門医。東京慈恵会医科大学卒業。都内総合病院産婦人科医長として妊婦健診はもちろん、分娩の対応や新生児の対応、切迫流早産の管理などにも従事。婦人科では子宮筋腫、卵巣嚢腫、内膜症、骨盤内感染症などの良性疾患から、子宮癌や卵巣癌の手術や化学療法(抗癌剤治療)も行っている。PMS(月経前症候群)や更年期障害などのホルモン系の診療なども幅広く診療している。

子宮腺筋症の概要

子宮腺筋症とは、生理で剥がれ落ちたり受精卵が育つ場である子宮内膜が、本来あるべき子宮の内側ではなく子宮筋層内に発生する病気です。
筋層内に発生した内膜組織は、通常の生理周期のホルモンの変動にしたがって出血や修復を繰り返す過程で炎症や瘢痕ができるようになり、次第に子宮筋層が厚くなり、子宮自体が大きくなります。それにより、月経痛や過多月経などの症状が出現します。また、不妊と関連すると言われており、妊娠においては流早産のリスク上昇が報告されています。

好発年齢は性成熟期から更年期で、そのピークは40代にあり、経産婦に多いとされています。

経腟超音波検査MRIなどの画像検査で診断します。子宮全体の腫大や、子宮壁の一部が厚いなどの所見が見られます。

閉経すると自然に良くなりますが、それまでの間に症状が強くなる場合は治療の適応になります。鎮痛薬やホルモン剤の内服・注射、手術など、いくつかの選択肢があります。患者さんの症状の強さやライフステージに合わせて適切な治療法を選択します。

子宮腺筋症の原因

原因ははっきりとはわかっていませんが、「子宮内膜が何らかの原因で正常の筋層に入り込んでしまう」という説が有力視されています。そのきっかけは、妊娠・分娩・炎症や子宮内膜搔爬などの機械的刺激ではないかと考えられています。そのため、妊娠歴が多い方、帝王切開を受けたことがある方、人工妊娠中絶や流産などで子宮内膜搔爬術を受けた方、40代に多いとされています。

ほかにも、子宮内膜症病変が子宮の外側から筋層内に浸潤してできたという説があります。この場合、病変は子宮内膜症の好発部位である子宮後壁に多いとされています。

また、胎児の時期の発生の過程で、子宮内膜になるはずの細胞が子宮の内側に移動せず、一部筋層に残ってしまう「体腔上皮由来成分からの化生による発生」という説があります。この場合、子宮筋層内に孤発性に存在するタイプが多いとされています。

子宮腺筋症の前兆や初期症状について

子宮が大きくなることにより、過多月経や生理痛が出現します。また、なかなか生理が終わらない過長月経という症状が出る方もいます。特に、次第に強くなる生理痛(昔と比べてひどくなった)は子宮腺筋症の方に特徴的です。

生理のときには、子宮内膜からプロスタグランジンというホルモンが分泌されますが、子宮腺筋症がある方は過度に子宮が収縮するため痛みが増強すると考えられています。

最近では不妊との関連性が示唆されていますが、まだ直接的に結び付けるエビデンスは得られていません。また、妊娠においては流早産のリスクが上昇するという報告があります。

子宮腺筋症の前兆や初期症状が見られた場合に受診すべき診療科は、婦人科です。子宮腺筋症は婦人科で診断と治療が行われています。

子宮腺筋症の検査・診断

問診

過多月経や生理痛などの症状の有無、出産歴などを問診します。同様の症状を呈する病気は、ほかにも子宮筋腫や子宮内膜症などがあるため、これだけで断定はできませんが、医師が鑑別のひとつに入れる材料になります。

内診

腫大した子宮を触知します。子宮筋腫のような硬さや結節はなく、子宮自体の変形もないのがひとつの特徴です。ただし、子宮筋腫と合併していることも多いため、これだけで診断することはできません。

経腟超音波検査

子宮全体が大きく腫大したり、子宮の壁の一部が厚くなります。病巣部位の境界が不明瞭であることがひとつの特徴ですが、中には境界明瞭な場合もあり、子宮筋腫との鑑別が難しいことがあります。

MRI(magnetic responce imaging)

子宮腺筋症が認められる部位には、辺縁不明瞭な低信号病変として描出されます。経腟超音波検査とMRIでは、診断制度において感度特異度ともに同等であるものの、MRIは検査を行う観察者による差が少ないと言われています。
特に、子宮筋腫や子宮肉腫、子宮体癌との鑑別が必要な場合に有用なことがあります。

腫瘍マーカー(CA125)

卵巣がんの腫瘍マーカーであるCA125が高値を示すことがあり、治療の効果判定や経過観察に利用されていますが、特異的なものではありません。また、生理前後の期間では、病気がない方でも高値が出るので、検査はこの時期を避ける必要があります。

子宮腺筋症の治療

子宮腺筋症は、診断されたら必ず治療をしなければならないわけではありません。たまたま超音波などで見つかった子宮腺筋症があっても、症状がなければ経過観察となることもあります。
ただし、生理痛、下腹痛、性交痛などの痛みや、過多月経及びそれによる貧血、下腹部の圧迫感といった症状がある場合は治療をします。

治療法には症状に応じていくつかの選択肢があります。

1.鎮痛薬

生理痛や下腹痛が軽度で一時的なものであれば鎮痛薬を使って様子を見ることがあります。ただし、使用頻度が高くなったり、効きが悪いようであればそのほかの治療法を選択します。

2.低用量ピル

子宮内膜症と同様に、生理痛が強い場合に効果があります。周期投与法(28日ごとに生理を起こす)に加え、長期間連続投与法(約3ヶ月ほど連続して内服する)方法も保険適用で行えるようになりました。

3.黄体ホルモン製剤

低用量ピル同様内服のお薬です。低用量ピルの服用禁忌に外用し、内服できない方でも黄体ホルモン製剤は投与可能な場合もあり、低用量ピルの慎重投与である40歳以降でも使用ができるのは大きなメリットです。ただし、高度の子宮腫大および重度の貧血がある方は、出血症状の増悪の恐れがあるため、添付文書上では禁忌となっています。

4.GnRHアゴニスト

脳から分泌される、女性ホルモンを司る大元のホルモンを抑える作用のある薬です。子宮の体積が縮小する、症状が軽減するなどメリットも大きいですが、長期間続けると骨粗鬆症や更年期などの症状が出るため、原則6ヶ月までとされています。また、治療中は有効でも、効果の持続時間は短く簡単に再燃するというデメリットがあります。上記のような使用期間の制限の観点から、手術が決まっている方に一時的に使用することで、病巣を縮小させ、手術をしやすくする方法もあります。

5.レボノルゲステロル放出子宮内システム

子宮内にホルモン剤を放出する小さな器具を入れる治療法で、最長5年程度効果は継続します。有意な経血量の減少、腺筋症病巣の縮小、疼痛の改善が見られることが示されています。ただし、子宮筋層が厚い方の場合は十分に痛みがとれなかったり、子宮が大きいと自然に脱出してしまうことがあるため注意が必要です。

6.手術療法

根治的な治療としては子宮摘出術があります。子宮を残したいという希望がある方には、一部の施設で子宮腺筋症の病巣のみを切除する術式(子宮腺筋症病巣除去術、子宮腺筋症核出術)を試みている場合があります。症状の改善が見られ、手術後の妊娠例の報告もありますが、まだ十分な手術の有効性と安全性が確立されたとは言えず、保険適用にもなっていないため、第一に推奨する方法ではありません。また、手術後に妊娠した場合、子宮破裂が起き母児ともに命に関わることもあります。そのようなリスクを十分に知っておくことが必要です。

子宮腺筋症になりやすい人・予防の方法

子宮腺筋症は、妊娠、出産歴が多い人がなりやすいと言われています。
体質や遺伝子などが明らかになっているわけではないため、完全な予防は難しいですが、初期症状である生理痛や過多月経を放置せず、早めに婦人科に受診するようにしましょう。

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