

監修医師:
馬場 敦志(宮の沢スマイルレディースクリニック)
切迫流産の概要
切迫流産は、妊娠22週未満の時期において胎児の心拍が確認できるものの、流産の危険性が高い状態を指します。切迫流産は妊娠の一歩手前である状態であり、よく言われる流産とは異なり、妊娠の継続がまだ可能である点が特徴です。流産とは妊娠22週未満に妊娠が終了することで、妊娠12週未満での流産を早期流産、妊娠12週から22週未満での流産を後期流産と呼びます。
切迫流産のほか、自然流産は、母体保護法に基づく人工流産以外のすべての自然に発生する流産を指します。稽留流産は、胎児が子宮内で死亡しているものの、出血や腹痛などの症状がまだ現れていない状態です。
進行流産は出血が始まり、子宮内容物が外に出始めている状態です。進行流産はさらに完全流産と不全流産に分類されます。完全流産は、子宮内容物がすべて自然に排出された状態を指し、不全流産は一部の内容物が子宮内に残っている状態です。
反復流産は、流産を2回繰り返す場合を指します。3回以上繰り返す場合は習慣流産と呼ばれます。
生化学的流産は、妊娠反応が陽性であったものの、超音波検査で妊娠が確認される前に流産してしまう早期の流産です。
切迫流産の原因
切迫流産の原因は、胎児側と母体側の双方に分けて考えられます。まず、胎児側の原因として多く見られるのは染色体異常です。これは受精の瞬間に決まるもので、自然発生的に起こるため避けにくいとされています。また、多胎妊娠も切迫流産のリスクを高める可能性があります。多胎妊娠では、胎児が共有する子宮内のスペースが限られているため、妊娠維持が難しいとされているからです。
母体側の異常も切迫流産の主要な原因となります。例えば、絨毛膜羊膜炎は子宮内膜の感染症であり、進行すると胎児の生育環境が悪化し、流産のリスクが高まる可能性があります。頸管無力症も母体側の異常の一つで、これは子宮頸部が十分な力を持たず、妊娠を維持できない状態です。また、子宮の形状や構造に異常があると、胎児が正常に成長できない場合があります。
さらに、これまでの妊娠で早産や流産を経験した女性は、次の妊娠でも同様のリスクが高まるとされています。特に、子宮頸部の手術歴(例えば、子宮頸癌や異形成のための円錐切除術)は、子宮の支える力を弱めるため、切迫流産のリスク要因になるとされています。また、細菌性腟症などの腟内感染も子宮内環境を悪化させ、流産を引き起こす可能性があります。
これらの原因は複合的に作用する場合もあり、一つの要因だけでなく、複数の要因が重なり合って切迫流産をはじめとする流産が発生する可能性があります。
切迫流産の前兆や初期症状について
切迫流産は自覚症状がない場合もありますが、症状の一つに性器出血があります。少量の出血から始まり、時には褐色のおりものとして現れる場合もあります。下着に血がつく程度の軽い出血でも注意が必要です。
下腹部の痛みや張りも重要な症状です。軽い腹痛から始まり、持続的な痛みや強い痛みがある場合は、異所性妊娠の可能性も考慮し、医療機関の受診が推奨されます。
子宮の収縮も切迫流産の初期症状であり、頻繁に起こるとお腹が硬くなる感じや痛みを伴う場合があります。
妊娠初期に症状が見られる場合でも、必ずしも流産や切迫流産に結びつくわけではありません。正常な妊娠でも軽い出血や腹痛が起こる可能性があります。しかし、切迫流産の症状は個々の妊婦さんによって異なり、症状の程度もさまざまです。そのため、少しでも異常を感じた場合は、定期的な健診を欠かさず、医師の指示に従うことが重要です。
切迫流産の検査・診断
切迫流産の診断には、まず問診が行われ、自覚症状が詳細に確認されます。次に、身体診察が行われます。医師は子宮筋の収縮状態や性器出血の有無を確認し、頸管ポリープの有無もチェックします。これにより、切迫流産の可能性があるかどうかを初期段階で評価します。
超音波検査は、切迫流産の診断において重要な役割を果たします。経膣超音波を使用して、胎児の心拍の有無を確認します。胎児の心拍が確認できる場合、妊娠は継続可能である確率が高まります。また、絨毛膜下血腫の有無も超音波で確認します。絨毛膜下血腫が見つかった場合は、妊娠のリスクが高まるため、さらに注意が必要です。
加えて、子宮頸管の長さも超音波検査で測定されます。子宮頸管が短くなっている場合は、流産や早産のリスクが高まります。子宮頸管の長さを評価することで、切迫流産や切迫早産の程度を判断し、適切な治療方針を決定するための重要な情報が得られます。
これらの診断手順を通じて、医師は切迫流産のリスクを総合的に評価します。診断結果に基づき、必要に応じて治療や安静の指示が出されます。例えば、絨毛膜下血腫が見つかった場合は安静が推奨される場合があります。また、子宮頸管が短くなっている際は、入院や投薬が検討される場合もあります。
このように、切迫流産の診断には、問診、身体診察、超音波検査など複数の方法が組み合わせて用いられます。症状がひどい場合や不安が強い場合は、早めに産婦人科などの医療機関を受診しましょう。
切迫流産の治療
切迫流産の治療には、安静、薬物療法、手術などが含まれますが、その治療方針は症状や妊娠週数によって異なります。妊娠12週未満の場合、切迫流産に対して有効な治療法は現時点では存在しないとされています。この時期には安静が重要であり、絨毛膜下血腫が認められた場合も同様です。症状が見られた際も、出血が通常の月経時と同等以下であり、腹痛が軽度である場合は、自宅で安静にすることが推奨されます。
薬物療法も切迫流産の治療に用いられ、黄体ホルモン療法や、hCGの投与が行われる場合があります。子宮収縮の自覚がある場合には、子宮収縮抑制薬が使用されます。さらに、絨毛膜羊膜炎などの感染が疑われる場合には、抗生物質(抗菌薬)の投与が行われます。
手術療法としては、子宮頸管無力症や切迫流産の既往がある場合に、子宮頸管縫縮術が妊娠12週以降に行われることがあります。この手術は、子宮頸管が十分な力を持たず、妊娠を維持できない場合に実施されます。
切迫流産の治療は個々のケースに応じて異なります。根本的に治す治療法は存在しないため、安静にして経過を観察することが主な治療方針となります。入院が必要な場合や、内服薬や点滴による治療が必要な場合もありますが、症状が軽度であれば自宅での安静がよく選択される治療法となります。
切迫流産のなりやすい人・予防の方法
流産の中でも妊娠12週未満の妊娠初期流産が全体の8割以上を占めており、この時期に切迫流産のリスクが高まるとされています。また、胎児の染色体異常がある場合も、切迫流産につながる可能性が高いとされています。
妊娠歴がある女性の約40%が流産を経験しており、なかでも過去に流産を経験した女性や早産の経験がある女性は、切迫流産になりやすい傾向があります。また、子宮の構造異常や子宮頸管無力症、絨毛膜羊膜炎などの母体側の異常も切迫流産のリスクを高めるとされています。子宮頸部の手術歴がある場合や、双子や三つ子などの多胎妊娠もリスク要因となります。
切迫流産の根本的な予防方法はないとされており、安静にすることが大切です。定期的な健診を欠かさず、医師による適切なケアを受けると、切迫流産のリスクを抑えられる可能性があります。また、妊娠中はなるべくストレスを避け、十分な休息を取り、健康的な生活を心がけることも重要です。
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参考文献




