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乳がん
小坂 泰二郎

監修乳腺外科 部長
小坂 泰二郎(JA長野厚生連佐久総合病院・佐久医療センター)

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順天堂大学附属順天堂医院 卒業 (同大学で学位取得)/ 現在は佐久総合病院、佐久医療センター勤務 / 専門は乳腺外科、手術および薬物治療に従事 / 前職場であった愛媛県四国中央市HITO病院で外来業務に従事している

乳がんの概要

乳がんは、 乳腺にできる悪性の腫瘍です。乳房には乳汁の分泌を行う乳腺があり、乳腺は乳汁を作る小葉・乳汁を乳頭へ送る乳管で構成されています。乳がんの9割近くを占めているのが、乳管に発生するがんである乳管がんです。
進行すると皮膚に潰瘍を起こしたり、リンパ管に転移したりすることもあります。まれに乳腺が発達していない男性にも乳がんの発症が見られます。
近年の日本では乳がんの患者さんが増加傾向にあり、女性の場合は一生涯において9人に1人が乳がんにかかるという疾患です。
治療方法は、乳房切除などの手術治療のほか薬物治療・放射線治療などがあり、 早期発見すれば、完治する可能性の高いがんです。

乳がんの原因

乳がんの原因ははっきりとわかっていません。しかし、主な要因として考えられるのは、 女性ホルモンであるエストロゲンの影響です。
ほかにも 食生活や生活習慣・遺伝的な要因で乳がんに罹患すると考えられています。
近年の乳がん罹患率の増加の原因として考えられているのは、食生活やライフスタイルの変化です。生活習慣が変化したことで、女性ホルモンの分泌に影響を与え、それが乳がんの発生につながっているのではないかと考えられています。出産歴・授乳歴のほか遺伝的な要因の影響も低くありません。

乳がんの前兆や初期症状について

乳がんの主な初期症状は次のとおりです。

  • 乳房のしこり
  • 乳房のひきつれやくぼみ
  • 乳房の皮膚変化
  • 乳頭からの分泌物
  • 脇の下(リンパ節)の腫れ

乳がんの 初期症状としてよく見られるのが、乳房のしこりです。ただし、乳房のしこりがすべて乳がんとは限りません。
乳がんによるしこりは、 硬くて指で押しても動きにくく、あまり痛みを伴わないという特徴があります。
乳頭からの分泌物では血液が混じったような茶褐色のものが出ることがあります。すべてが乳がんの初期症状とは限りませんが、決して自己判断はしないでください。自己チェックで気になったときは必ず乳腺科や乳腺外科を受診してください。

乳がんの検査・診断

乳がんの 基本的な検査は、触診・マンモグラフィ検査・超音波検査です。
この2つの画像検査で乳がんと診断されると、確定診断のための組織検査(針生検など)、乳がんのステージ(病期)診断のためのCT、MRIなどを行います。

触診

触診では、乳房の形や皮膚の状態を確認した後、直接乳房を触ってしこりの状態などを検査します。 しこりの大きさ・場所・硬さ・しこりの境目・よく動くかどうかなどを調べるとともに、首や脇の下にあるリンパ節の腫れについても確認します。

マンモグラフィ検査

マンモグラフィとは、乳房をX線で撮影する検査のことです。乳房を圧迫板で挟み、できるだけ伸ばした状態で撮影するため、多少の痛みがあります。マンモグラフィ検査では、 しこりの形や石灰化の確認ができます。石灰化とは、乳房の中に沈着したカルシウムのことで、悪性でも良性でも起こる現象です。石灰化がどのような形か、またその分布の仕方で乳がんかどうかの診断をします。

超音波検査

乳がんの検査では、 マンモグラフィ検査だけでは見つからないしこりを確認するために超音波検査も同時に行うことが一般的です。乳房に超音波をあてて、しこりの形や大きさ・形態・境目部分・血流の有無などを確認することで、腫瘍が悪性か良性かを診断します。

MRI検査

マンモグラフィ検査と超音波検査でも診断がつかない場合や、乳がんになりやすい体質と診断された場合の評価(遺伝性など)、乳がんと診断された後に 腫瘍の広がりを確認するために行うのが、乳房MRI検査です。乳房MRI検査は造影剤を使用して行います。

組織検査

画像診断で 乳がんと診断された場合でも、確定診断のために行われるのが、針を使って病変部の細胞や組織を採取する細胞診や組織診(針生検)です。針生検でも診断がつかないときは、手術によって病変の一部・あるいはすべてを直接切除して病理検査を行います。

乳がんステージの診断

検査によって乳がんの進行具合や乳がんの悪性度・転移の有無などが診断され、ステージが決まります。乳がんのステージには次の5期があります。

  • 0期:非湿潤がん(がんが乳房・小葉に留まっている)
  • 1期:しこりが2cm以下でリンパ節転移なし
  • 2A期・2B期:しこりが2〜5cmで脇のリンパ節転移なし・しこりが2cm以下で脇のリンパ節転移あり・しこりが2〜5cmで脇のリンパ節転移あり
  • 3A期・3B期・3C期:しこりが5cm以下で脇のリンパ節転移あり・しこりが5cm以上で脇か内胸リンパ節転移あり・しこりの大きさを問わず、胸壁に固定・がんが皮膚に出たり皮膚が崩れたりしている(炎症性乳がんも含む)・しこりの大きさを問わず、脇のリンパ節と内胸リンパ節に転移あり、または鎖骨の上下リンパ節に転移あり
  • 4期:しこりの大きさやリンパ節の転移の有無を問わず、ほかの臓器への転移あり

乳がんの治療

乳がんの治療は、ステージと患者さんの状況などにより、手術療法・放射線療法・薬物療法を組み合わせて行われます。

手術療法

手術療法には、乳房部分切除(乳房温存手術)・乳房切除・センチネルリンパ節生検・腋窩リンパ節郭清・乳房再建手術などがあります。乳房部分切除とは、 腫瘍を含めて乳房を部分的に切除して乳房のふくらみや乳頭を残す方法です。乳房切除は腫瘍が乳腺内で広く進展している場合や、病変を切除することにより整容性(元の形)を維持できない場合などに選択します。また、患者さんの希望や状況に応じて 乳房切除と同時に乳房再建の手術を行うことは可能です。腫瘍の状態によって乳房部分切除・乳房切除と組み合わせて行われるのが、センチネルリンパ節生検や腋窩リンパ節郭清です。

放射線療法

乳房部分切除を行った場合は、残った乳腺に見えない腫瘍が残っている可能性を考え、また再発リスクを減らすために放射線を照射します。(リンパ節転移が4個以上あるなど、一部の乳房切除後にも胸壁に照射する場合があります。)術後の放射線療法は、通常は 外来通院で1日に1回(照射時間は数分)、週に5回で25〜30回行う治療が一般的です。

薬物療法

薬物療法には、ホルモン療法や化学療法(抗がん剤治療)・分子標的治療があります。女性ホルモンのエストロゲンの作用を受けて腫瘍が増殖する エストロゲン受容体陽性乳がんにはホルモン療法が, HER2陽性乳がんと判定された患者さんには分子表的治療が適応となります。乳がんの治療方法は、腫瘍の大きさや転移の有無・腫瘍の性質などにより、総合的に判断し選択するものです。

乳がんになりやすい人・予防の方法

乳がんのリスクが高いと考えられる人は、次のとおりです。

  • 初潮が早い
  • 閉経が遅い
  • 出産経験がない、もしくは少ない
  • 授乳経験がない、もしくは少ない
  • 高齢出産をしている
  • 家族に乳がんになった人がいる
  • 良性の腫瘤がある・あった
  • 肥満傾向である
  • アルコール・喫煙の習慣がある
  • 糖尿病である
  • エストロゲン・プロゲスチン併用のホルモン補充療法の経験者
  • 経口避妊薬の使用経験がある

これらに該当する人は、乳がんになりやすいと考えられていますが、あくまで傾向であるにすぎません。
当てはまらない人のなかでも、乳がんにかかる場合もありますので、 定期的な自己チェックと検診を受けることをおすすめします。

正しい自己検診の方法

検診は 月経が終わって1週間以内の乳房のやわらかい時期、閉経後は毎月1回日を決めて、入浴時に脱衣所や浴室の鏡の前で行いましょう。健診の方法は次のとおりです。

  • 鏡の前で乳房の形をチェック
  • 乳房を触診してしこりがないかをチェック
  • 乳頭から異常な分泌物がないかチェック

乳房を触る際には手に石けんをつけて中心から円を描くように、そして左右にとまんべんなく丁寧に触ってください。もししこりを見つけたり、気になることがあったりしても、乳がんであるとは限りません。しかし、早期発見につなげるため、または乳がんではなかったと安心するために、早目に医療機関(乳腺外科、乳腺科)への受診をおすすめします。


この記事の監修乳腺外科 部長