監修医師:
馬場 敦志(宮の沢スマイルレディースクリニック)
子宮頸がんの概要
子宮は、子宮の入り口に近い子宮頚部と、子宮の奥の方にある子宮体部に分けられます。子宮頸がんは子宮頚部に発生するがんの総称で、日本国内では年間に1万人以上が子宮頸がんと診断されています。
子宮頸がんは子宮に発生するがんの7割程を占め、好発年齢は20〜40代と若年層にも罹患者が少なくないことが特徴です。多くの子宮頸がんは、前がん状態(がんになる前の状態)である子宮頚部異形成から、時間をかけてがんになっていくと考えられています。
子宮頚部異形成は、子宮頸がんの前がん病変であり、子宮頚部の組織が異常な状態になることを指し、CIN(子宮頸部上皮内腫瘍)やAIS(上皮内腺がん)などの種類があります。
子宮頸がんに至らない子宮頚部異形成のうちに経過観察を始め、適切な時期に治療を開始することが良好な予後につながるでしょう。
子宮頚部異形成を早期発見するためには、後述する検診を定期的に受けることが推奨されます。
なお、子宮頸がんが進行すると骨盤内にある臓器や周囲のリンパ節に転移し、やがてリンパや血液の流れに乗って離れた臓器にも転移がみられることがあるため注意が必要です。
子宮頸がんの原因
子宮頸がんの原因は、HPV(ヒトパピローマウイルス)の感染とされています。HPVは主に性交渉により感染するウイルスです。
ただし、HPVに感染してもすぐに子宮頚部異形成や子宮頸がんを発症するわけではありません。多くの場合はHPVに感染しても免疫作用などによりウイルスは自然に消失するといわれています。
一方、何らかの理由でHPVの感染が持続した場合に年単位の時間をかけて、子宮頚部異形成を経て子宮頸がんが発生すると考えられています。HPVにも複数のタイプがあり、なかでも子宮頸がんの原因になりやすいとされるのがハイリスクHPVです。
子宮頸がんの前兆や初期症状について
子宮頚部異形成の段階では、細胞に変化が起こっているだけで患者さんが自覚できる症状はないといわれています。
しかし、子宮頚部異形成が子宮頸がんに移行すると下記のような症状が現れる場合があります。
- 不正出血
- 性交時の出血
- 帯下(おりもの)の性状変化
不正出血とは、月経以外の時期に起こる出血のことです。また、性交時に出血がある場合にも子宮頸がんをはじめとする女性器の疾患の可能性があるでしょう。
その他、おりものの量が以前よりも増えたり膿のような色や強い臭いを感じたりした場合にも、子宮頸がんの可能性があります。なお、今回紹介した症状は子宮頸がん以外の婦人科疾患でもみられる可能性がある症状です。
子宮頸がんの早期発見だけでなく、その他の婦人科疾患の治療のためにも、上記のような症状に気付いたら早期に産婦人科を受診し検査などを受けることをおすすめします。
子宮頸がんの検査・診断
前述のとおり、子宮頸がんは初期症状に乏しい疾患です。しかし、自覚症状がない子宮頚部異形成の段階でも、検査によって病変を発見できる可能性があります。
なお、子宮頸がん検診は大腸がん・胃がん・肺がんなどとともに、検診を受けることががんによる死亡率減少に有効であると認められた検査です。そのため、ほとんどの市町村では子宮頸がん検診の一部を公費負担する取り組みを行っており、低額で検診を受けられます。
子宮頸がんを発見するための検査として代表的なものは、細胞診とコルポスコピー診・組織診です。それぞれどのような検査なのか、以下を確認しましょう。
細胞診
細胞診とは、子宮頚部の細胞を採取して顕微鏡で観察することで、細胞に異形成がないかを確認する検査です。現在、子宮がん検診として行われている検査の多くが細胞診です。細胞診を行う際にはブラシのような器具で子宮頚部をこするようにして細胞を採取します。そのため、多少の違和感をおぼえる可能性がありますが、強い痛みを感じることは少ない検査となります。なお、細胞診では異常な細胞の有無を確認できますが、子宮頚部の細胞に異形成がみられただけでは確定診断には至りません。細胞診で異常がみられた場合には、精密検査としてコルポスコピー診と組織診を受けることが推奨されます。医療機関によっては、同じく細胞を採取する検査としてハイリスクHPV検査を行う場合もあります。ハイリスクHPV検査とは、HPVのなかでも子宮頸がんの発生に関わる型のHPVに感染しているかどうかを調べる検査です。
コルポスコピー診
コルポスコピー診は、コルポスコピー(腟拡大鏡)を使用して子宮頚部を観察する検査です。医師の観察により、正常か異常か、異常があった場合には浸潤がんかどうかなどの分類が行われます。
組織診
組織診は、コルポスコピー診を行った際に病変が疑われる部分の組織を採取して行う検査です。細胞診では子宮頚部の表面にある細胞のみを採取するため痛みが少ないのに対して、組織診では子宮頚部の組織を1mm四方程採取します。麻酔は使用せず外来で行える検査ですが、細胞診と比較すると採取する瞬間に痛みを感じる場合があり、また検査後の出血量はやや増える傾向にあるでしょう。組織診の結果には、主に下記のようなものがあります。
- 異常なし
- 軽度異形成(CIN1)
- 中等度異形成(CIN2)
- 高度異形成(CIN3)
- 上皮内がん(CIN3)
- 浸潤がん
ただし、子宮頚部異形成は自然に消退して異常のない状態に戻る可能性もあります。そのため、軽度~中等度異形成の場合には、すぐには治療を行わず定期的に組織診を繰り返して経過をみる場合がほとんどです。一方、中等度異形成が一定期間持続したり、高度異形成や上皮内がんがみられた場合には治療が推奨されます。
子宮頸がんの治療
子宮頸がんの主な治療方法は手術です。子宮頸がんの広がりや患者さんが今後子どもを持つ予定があるかによって、どのような手術を行うか方針を決めていきます。
子宮頚部円錐切除
子宮頚部円錐切除術は、子宮頚部全体を円錐形に切除する手術です。異形成がみられる部分を切除し治療することが子宮頚部円錐切除術の主な目的となります。また、検査としての面もあり、切除した断面に細胞の異形性がみられるかどうかにより病変の広がりを確認できます。子宮への影響が少ない術式のため、子どもを持つ予定のある方は円錐切除術が治療方法の第一選択となる可能性が高いでしょう。ただし、子宮頚部を切除するため、妊娠や出産に何らかの影響が出る可能性はあります。
子宮全摘
子宮全摘は、子宮頚部と子宮体部をすべて摘出する手術です。子宮頚部異形成や子宮頸がんを指摘された時点で、今後妊娠の予定がない方はこちらの術式を勧められる場合があります。また、子宮頚部円錐切除術の結果、切除の断面に高度異形成がみられた場合にも子宮全摘を勧められる可能性があるでしょう。がんが広がっている程広い範囲の切除が必要となり、子宮のみを摘出するほか、周囲の靱帯やリンパ節・卵巣を含めて摘出することもあります。切除する範囲を広げればがんを取りきれる可能性は高まりますが、靱帯や神経などへの影響は大きく周辺臓器の機能にも影響を及ぼす可能性があるため注意が必要です。さらに、転移があり切除だけでは再発のリスクがあると考えられる場合には、手術に加えて化学療法や放射線治療が選択される場合があります。
子宮頸がんになりやすい人・予防の方法
前述のとおり、子宮頸がんの原因となるHPVは主に性交渉によって感染します。そのため、性交渉歴がある方は子宮頸がんになる確率が高いといえるでしょう。また、子宮頸がん以外の多くのがんにもいえることですが、喫煙者ががんに罹患するリスクは喫煙習慣がない方と比較すると高いといわれています。
子宮頸がんの予防方法としては、性交渉を経験する前にHPVワクチンを接種することが有効です。HPVワクチンには、子宮頸がんに深く関与していると考えられる型のHPV感染を防ぐ効果が期待できます。
ただし、ワクチンは感染の確率を下げるものであり、HPVにまったく感染しなくなるとはいいきれません。そのため、ワクチンを接種した場合でも20歳を過ぎたら2年に1度は子宮頸がん検診を受けることをおすすめします。
参考文献