梅毒
馬場 敦志

監修医師
馬場 敦志(宮の沢スマイルレディースクリニック)

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筑波大学医学群医学類卒業 。その後、北海道内の病院に勤務。 2021年、北海道札幌市に「宮の沢スマイルレディースクリニック」を開院。 日本産科婦人科学会専門医。日本内視鏡外科学会、日本産科婦人科内視鏡学会の各会員。

梅毒の概要

梅毒は、梅毒トレポネーマという細菌によって引き起こされる感染症で、血液感染や性感染症(STD)として知られています。主に性行為を通じて感染し、感染者の粘膜を介して広がります。梅毒の症状は第1期から4期へと進行するため、放置すると深刻な健康問題を引き起こしかねません。初期症状は軽微であることが多く見過ごされやすいですが、治療を受けないままでいると心臓や神経系に深刻な障害を引き起こす可能性があります。

梅毒はペニシリンの普及により、第二次世界大戦後に激減しました。医学の進歩により、治療方法は大幅に改善され、適切な治療を受ければ完治する病気となりましたが、依然として感染率は高い状態が続いています。日本では2021年以降で急増しており、2022年の年間届出数が13,258例と過去最高水準になっています。新生児から高齢者まで幅広い世代で見られる疾患であり、2023年には妊娠症例で先天性梅毒が急増しています。

梅毒の原因

梅毒の原因となる梅毒トレポネーマは非常に感染力が強く、感染者との性的接触や粘膜・皮ふの微細な傷口の接触などで感染することが多いです。さらに、梅毒は母子感染も起こり得るため、妊婦さんが感染すると胎児にも感染が広がる可能性があります。このため、妊娠中の女性は妊娠初期に梅毒の検査を受けることが推奨されます。

梅毒トレポネーマは低酸素の環境でないと長期間生存できないため、、感染経路が限られるのが特徴です。性行為の際に接触する粘膜や傷口から侵入しやすいほか、血液を介しても感染するため、輸血や注射針の共用なども感染経路となり得ます。梅毒の感染は、性行為に限らず、感染者の体液に触れることで起こる可能性があるため、予防策を徹底することが重要です。

梅毒の前兆や初期症状について

梅毒の前兆や初期症状は、感染してから約3週間の潜伏期間を経て現れます。

第1期梅毒は、感染から約3週間程度経過すると梅毒トレポネーマの侵入部位にうみを出す無痛性硬結などが特徴です。また鼠径部などのリンパ節に腫れが発生し、約3〜6週間で自然に軽快します。しかし、梅毒そのものが治った訳ではないため、ペニシリン系の抗菌薬の内服によって治療が行われます。日本国内では、多くが第1期の段階で発見されるため、基本的には内服治療が行われ、2〜8週間にわたる治療で完治する方が多いです。

第2期梅毒は、感染から約3ヶ月後を目安として全身に様々な症状が現れます。この時期の治療も、ペニシリン系の抗菌薬の内服が基本です。第2期の症状には、発熱、頭痛、筋肉痛、倦怠感、のどの痛み、食欲の減退、体重の減少などが含まれます。また、全身に紅斑や丘疹、扁平コンジローマなどの皮膚症状が現れることもあります。これらの症状は、治療を行わなくても数週間から数ヶ月で自然に消えることがありますが、梅毒そのものが完治したわけでないため、適切な治療が必要です。内服治療では、ペニシリン系抗菌薬を定期的に服用し、体内の梅毒トレポネーマを完全に除去します。

第3期梅毒は、感染から数年後に進行し、皮膚や筋肉、骨、肝臓、腎臓などの臓器にゴム腫や硬いしこりが現れます。この時期の治療は、10〜14日ほどにわたる点滴治療が一般的です。点滴治療では、ペニシリン系抗菌薬を直接血液中に投与し、全身に広がった梅毒トレポネーマを効果的に除去します。また、第3期に移行し、心臓や神経に症状が生じる場合があり、その際はそれぞれの症状を改善するための対症療法が必要となります。治療が完了した後も、再感染を防ぐために予防策を徹底しましょう。

梅毒進行機分類

第1期 (3週間〜3か月) トレポネーマの侵入部位(陰部、口唇部、口腔内)に膿を出す無痛性硬結が生じる。また、鼠径部のリンパ節に腫脹が見られる。6週間を超えれば、梅毒検査(ワッセルマン)が陽性になる
第2期 (3か月〜3年) 全身のリンパ節腫脹、発熱、倦怠感、関節痛などが出現し、全身に特徴的な赤いバラ疹が出現する
潜伏期 前期潜伏期:第2期の症状が消えるとともに始まる(2~3年間)
後期潜伏期:感染力を持たない不顕性感染の期間(数年~数十年)
第3期 (3〜10年) 皮膚や筋肉、骨にゴムのような腫瘍「ゴム腫」ができる
第4期 (10年以上) 多くの臓器に腫瘍が発生、脳や脊髄、神経を傷害し麻痺性認知症や進行麻痺、脊髄癆を生じ、脳梅毒で死に至る

これらの症状がみられた場合、 泌尿器科、性感染症内科、皮膚科を受診して適切な検査・治療を受けることをおすすめします。

梅毒の検査・診断

梅毒の診断には主に血液検査が用いられます。顕微鏡による病原体の検出も行われますが、第1期と皮ふ病変のある第2期以外では菌の検出は困難なため、血清抗体価測定(血中に含まれる抗体量を測定する)も併せて行います。

血清学的診断

梅毒の血液検査は、初期の感染を確認するために非常に有効です。初期硬結や硬性下疳が見られる場合、医師はこれらの症状を基にして検査を実施します。血液検査の結果に基づいて、治療方針が決定されます。また、梅毒は他の性感染症と併発することが多いため、総合的な性感染症検査を受けることも推奨されます。

感染後、カルジオリピンに対する抗体価(VDRL、RPR、自動化法)の上昇を見て、次にトレポネーマに対する抗体価(FTA-ABS、TPHA、TPLA)の上昇を見ます。カルジオリピンの抗体量は治療によって低下するため、治療効果の判定にも有用です。特に初期段階の症状では梅毒を患っていると判断しづらいため、リスクの高い行為を行った後は検査を受けることをおすすめします。

梅毒の治療

服薬での治療(第1〜第2期、潜伏期)

梅毒の治療には、持続性ペニシリン製剤などのペニシリン系抗菌薬が使用されます。ペニシリンに対するアレルギー(アナフィラキシーや気管支攣縮、蕁麻疹など)がある場合は、代替薬として経口薬のドキシサイクリン100mgや筋肉注射もしくは静脈注射にて注射薬セフトリアキソン1gの投与などで治療が必要です。

病期別の治療(第1〜第2期、潜伏期)

治療内容は病期によって異なり、第1期から第2期、1年未満の前期潜伏期の治療には持続性ペニシリン製剤を1回の投与で2週間持続させます。1回の投与では梅毒トレポネーマが残っている可能性があるため、後期潜伏期では追加投与を7日後と14日後に行うと効果的です。

服薬での治療(第3期とそれ以降)

良性または心血管系の第3期であれば、後期潜伏期と同様の治療を行います。ペニシリンアレルギーがある方は筋肉注射または静脈注射にて注射薬のセフトリアキソン2gを1日1回のペースで14日間投与しましょう。ただし、グラム陽性細菌やメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)に対する治療薬であるセファロスポリン系薬剤との併用で、アナフィラキシー反応がみられる危険性があるため注意が必要です。

梅毒になりやすい人・予防の方法

梅毒になりやすい人の特徴

梅毒に感染しやすい人の特徴として、不特定多数との性的接触がある人や、オーラルセックス・アナルセックスをする人などが挙げられます。もし、パートナーが梅毒に感染していることが判明した場合は、梅毒が疑われる症状が自然に消えていたとしても検査を受けることをおすすめします。症状の悪化や新たな感染者を増やさないためにも、早期発見・早期治療を心がけるようにしましょう。

梅毒の予防方法(コンドームの使用)

梅毒の予防には、性交渉の際にコンドームを使用するとよいとされています。コンドームの使用は、梅毒に侵されている粘膜や皮ふとの接触を防げるだけでなく、多くの性感染症の予防に非常に効果的です。ただし、コンドームに覆われていない部分から感染するリスクはあるため、完全には予防できないことを覚えておきましょう。

梅毒の予防方法(定期的な検査)

梅毒に感染しやすいリスクグループに属している方は特に注意が必要です。例えば、性的に活発な若年層や、複数の性パートナーを持つ方で初期症状(しこりや潰瘍、リンパ節の腫れなど)がみられる場合、血液検査(抗体検査)を受けることが推奨されます。医療機関での早期受診、パートナーへ受診を勧めるなどが梅毒の早期治療につながります。


参考文献

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