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栗原 大智

監修医師
栗原 大智(医師)

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2017年、横浜市立大学医学部卒業。済生会横浜市南部病院にて初期研修修了。2019年、横浜市立大学眼科学教室に入局。日々の診察の傍らライターとしても活動しており、m3や日経メディカルなどでも連載中。「視界の質=Quality of vision(QOV)」を下げないため、診察はもちろん、SNSなどを通じて眼科関連の情報発信の重要性を感じ、日々情報発信にも努めている。日本眼科学会専門医。

糖尿病性白内障の概要

糖尿病性白内障とは、糖尿病が原因で目の中のレンズである水晶体が白く濁ってしまう白内障のことです。
白内障自体は加齢による代表的な目の病気ですが、糖尿病がある方では若い30~50代のうちから白内障が進行し視力が低下することがあります。糖尿病性白内障は、糖尿病網膜症ほど失明に直結する深刻な状態ではありませんが、糖尿病患者さんの視力低下の大きな原因の一つです。そのため糖尿病の方は白内障にも注意し、目の定期検査を欠かさず受けることが大切です。

糖尿病性白内障の原因

糖尿病性白内障の直接の原因は、血糖値の高い状態(高血糖)が長く続くことによる水晶体の代謝異常です。
高血糖の環境では、水晶体の中でブドウ糖からソルビトール(糖アルコールの一種)が生成・蓄積されます。このソルビトールが水晶体内に水分を引き込み、レンズの透明性が損なわれて白く濁りやすくなります。また、水晶体を構成するクリスタリンというタンパク質が高血糖により糖化(タンパク質に糖が結び付いて変質すること)し、変性・凝集してしまうことも白内障の発症に深く関与しています。

加えて高血糖による酸化ストレスの増大や、糖尿病の罹病期間の長さも水晶体の劣化を促進します。以上のように糖尿病性白内障の発症メカニズムは一つではなく、複数の要因が重なって起こると考えられています。

糖尿病性白内障の前兆や初期症状について

糖尿病性白内障の初期症状は、一般的な白内障と同様に徐々に現れます。具体的には「物がかすんで見える」「全体的にぼやけてはっきりしない」といった症状が代表的です。明るい場所でまぶしさを強く感じたり、眼鏡の度数が急に合わなくなったり、細かい字が読みづらくなったりすることもあります。

進行すると、一つの物が二重三重にダブって見えること(複視)が起こる場合もあります。痛みは伴わずゆっくりと視力が低下していくため、自分では「年齢のせいかな」程度に感じて見過ごしてしまうこともあります。しかし、糖尿病の方でこのような見え方の異変に気付いた場合は、放置せず早めに眼科を受診することが大切です。

白内障以外にも糖尿病網膜症など目の合併症が隠れている可能性もあるため、自覚症状だけで自己判断せず、必ず医師に検査してもらいましょう。

糖尿病性白内障の検査・診断

糖尿病性白内障が疑われる場合、眼科ではさまざま検査が行われます。視力検査で視力低下の程度を確認した後、細隙灯顕微鏡という特殊な顕微鏡を使って目の状態を観察し、水晶体が濁っているかどうか直接調べます。
細いスリット状の光を当てて水晶体を拡大観察することで、透明なはずの水晶体のどの部分がどの程度白く濁っているかがある程度わかります。この検査はまぶしく感じることがありますが痛みはありません。

また、糖尿病性白内障の診断のためには、瞳孔を開く目薬を用いる眼底検査を行います。瞳孔を開く目薬を用いると、そのまぶしさや調節力の一時的な麻痺によって、運転や細かい作業が難しくなる場合があります。この眼底検査は白内障の程度や種類をより詳細に観察するためだけでなく、特に、糖尿病患者さんでは白内障以外の目の合併症も調べるために行います。例えば、眼底検査によって糖尿病網膜症の有無や程度を把握し、白内障以外に視力低下の原因がないか総合的に診断します。

また、これら検査に加えて、目の圧力(眼圧)を測定する眼圧測定や光干渉断層計(OCT)などの検査も実施し、ほかの目の病気が併発していないか確認します。以上のような検査結果に基づいて、総合的に判断して糖尿病性白内障と診断されます。

糖尿病性白内障の治療

糖尿病性白内障の治療方針は、白内障の進行度合いや患者さんの生活への支障の程度によって決まります。初期で視力低下が軽度の場合は、すぐ手術をせず経過観察をしながら血糖コントロールの改善に努めることがあります。血糖値を適切に管理することで白内障の進行を遅らせる効果が期待できるためです。ただし、一度濁ってしまった水晶体を元の透明な状態に戻す薬はありません。日本ではピレノキシン(カタリン)やグルタチオン点眼薬など白内障の進行抑制を目的とした目薬が使用されることがありますが、あくまで進行を遅らせる補助的な手段に留まります。

根本的に白内障を治すには手術による治療が必要になります。手術では超音波乳化吸引術という方法で濁った水晶体を砕いて吸い出し、代わりに透明な人工のレンズ(眼内レンズ)を挿入します。
この白内障手術は現在とても安全性が高く、通常は局所麻酔で日帰り可能な短時間の手術です。糖尿病があるからといって手術が受けられないわけではありませんが、術前に血糖コントロールをしっかり行い、合併症のリスクを下げておくことが望ましいです。

例えば、血糖値が高すぎる状態だと、術後に傷の治りが遅れたり感染症を起こしやすくなったり、糖尿病網膜症が悪化する可能性が指摘されています。担当の眼科医と内科医が連携し、糖尿病の状態を見極めたうえで適切なタイミングで手術が行われます。手術後は基本的に視力の低下などの症状は改善しますが、糖尿病網膜症などほかの合併症が進行している場合には視力が十分に回復しないこともあります。そのため、白内障も含め糖尿病の目の合併症は早期発見・早期治療が重要です。

糖尿病性白内障になりやすい人・予防の方法

糖尿病性白内障は、その名のとおり糖尿病の方がなりやすい白内障です。特に血糖コントロール不良な状態が長年続いている方や、糖尿病を発症してからの期間が長い方ほど白内障のリスクが高まります。一般的に白内障は高齢になるほど発症しやすくなりますが、糖尿病を持っていると年齢が若くても白内障を併発するケースがあります。

実際、若年発症の1型糖尿病の患者さんが20代で白内障手術を受ける例も報告されています。また、2型糖尿病でも中高年以降で糖尿病歴が長くなると、ほぼすべての方に加齢性白内障が起こるため、糖尿病によってその進行がさらに早まる可能性があります。

予防方法として何より重要なのは、糖尿病そのものの管理です。血糖値を良好に保つことで、高血糖に伴うさまざまな合併症(網膜症、腎症、神経障害など)の予防になるのと同時に、白内障の発症・進行も遅らせることができます。具体的には主治医の指導のもとで食事療法や運動療法、必要に応じた薬物療法を継続し、HbA1cなど血糖コントロール指標を適正範囲に保つことが大切です。あわせて血圧や血中脂質の管理、禁煙など全身の健康管理に努めることも目の健康につながります。紫外線も白内障の発症要因の一つとされるため、日差しの強い環境では帽子や、UVカット機能のサングラスあるいはメガネを使用するなど目を保護する工夫も有効です。

完全に白内障の発症を防ぐ方法は残念ながらありませんが、糖尿病の方が適切な対策を行うことで白内障になる時期を遅らせ、進行を緩やかにできる可能性があります。また、仮に白内障が生じても、定期的に眼科検診を受けていれば重症な状態になる前に発見することができます。早期の白内障であれば視力への影響は少ないため、日常生活に大きな影響を与えず、また、手術後の合併症の軽減や早期視力回復に役立ちます。

糖尿病がある方は眼科の定期受診をしている方もいらっしゃいますが、見え方に少しでも違和感を覚えたら我慢せず眼科を受診しましょう。そして、医師の指導のもとで適切なタイミングの治療を受けることが、糖尿病性白内障による失明や生活質の低下を防ぐ予防策となります。

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