

監修医師:
栗原 大智(医師)
単純近視の概要
単純近視とは、近視のうち視機能に障害を起こさず、眼鏡やコンタクトレンズで容易に視力を矯正できる一般的な近視を指します。目に入った光のピントが網膜の手前で合ってしまう状態が近視であり、その多くは眼球が前後に伸びることによって生じます。
単純近視には学童期から始まる学校近視も含まれ、多くの場合は強度近視に進行せずに済みます。近年、子どもの近視は増加傾向にあり、世界的な問題となっています。日本でも裸眼視力1.0未満の子どもの約8~9割が近視と推定されており、この40年ほど近視は増加しています。たとえ軽度の近視であっても、将来緑内障や網膜剥離などの目の病気リスクを高めることが明らかになっており、生涯にわたり良好な視力を保つには、子どもの頃から近視を発症させない、進行させないことが重要です。
単純近視の原因
単純近視の発症には遺伝的要因と環境要因の両方が関与します。遺伝的要因としては、親から受け継いだ体質が影響し、例えば両親のどちらかが近視の場合は子どもも近視になる確率が約2倍、両親とも近視であれば約5倍になると報告されています。環境要因として、幼少期から長時間読書やスマートフォンなど近くを見る作業(近業)を続けることや、屋外で遊ぶ時間が少ないことで近視を発症しやすくなると考えられています。
実際、現代の日本では屋外活動の減少やスマートフォンなどの時間の増加により、以前の世代よりも若い年代で近視が増えています。近視になる直接のメカニズムは、眼球の前後の長さ(眼軸長)が伸びすぎることです。眼軸長の伸展によって網膜より手前で焦点が結ばれてしまいます。一度伸びた眼球はもとに戻らないため、幼少期からの生活環境が近視の発症と進行に大きく影響すると言われています。
単純近視の前兆や初期症状について
近視では近くの物は問題なく見えますが、遠くのものほどピントが合わずぼやけて見えるようになります。初期には、黒板の文字や看板など遠方の文字が読みにくいといった症状が現れます。子どもの場合、テレビを見るときに画面に顔を近づけたり、細かいものを見る際に目を細めて焦点を合わせようとしたりすることも前兆の一つです。こうした様子が見られたら、早めに眼科を受診して近視かどうか確認することが大切です。
単純近視の場合、視力低下以外の自覚症状はあまりありませんが、放置すれば学業や日常生活に支障をきたす恐れがあります。まずは眼科で視力検査を受け、必要に応じてメガネなどによる視力の矯正を行いましょう。学校の視力検査で要受診とされた場合も、できるだけ早めに眼科で精密検査を受けてください。
単純近視の検査・診断
近視が疑われる場合、眼科ではまず視力検査を行い、どの程度遠くを見る力が低下しているかを調べます。視力検査で近視の疑いがあれば、屈折検査によって近視の度数を測定します。子どもの場合は調節する力が強いため、一時的にピント調節を麻痺させる点眼薬を用いて仮性近視か真性近視かを判別することがあります。
仮性近視とは、長時間近くを見続けた後などにピント調節を行う筋肉である毛様体筋が過度に緊張し、水晶体が厚くなった状態のために、一時的に近視のようになる現象です。この状態かどうかを判断し、真の近視の度数を正確に測るため、必要に応じて調節麻痺剤の点眼後に再度屈折検査を行います。
検査の結果、単純近視と診断された場合は、その程度によって適切な矯正方法や指導が行われます。
単純近視の治療
単純近視の基本的な治療は視力の矯正です。具体的には、眼鏡による矯正が一般的な方法です。黒板の字が見えにくいなど生活上支障が出てきたら、早めに眼鏡を作って常用することで、日常生活に支障のない視力を確保できます。眼鏡の処方にあたっては、眼科で精密検査を受け、現在の近視の度数に合ったレンズを選ぶことが重要です。
コンタクトレンズによる矯正も中学生~高校生以上で自己管理ができる場合には可能です。コンタクトレンズは直接目に装用する高度管理医療機器であり、取り扱いを誤ると角膜感染症など深刻なトラブルにつながるため、正しい使用方法の指導と眼科での定期検査が欠かせません。一般的には小学生など低年齢のうちは管理が難しいため、基本的には眼鏡で対応し、自己管理が可能になってからコンタクトレンズを検討するのが望ましいでしょう。
近視そのものを根本的に治す点眼薬や内服薬は存在しませんが、成長期における近視進行を抑制する治療がいくつかあります。例えば、夜間に専用のハードコンタクトレンズを装用して角膜の形を矯正するオルソケラトロジーや、低濃度アトロピン点眼による近視進行抑制治療が挙げられます。これらは最近実用化されてきている方法であり、すべての方に推奨できる標準治療という位置づけではありませんが、一部の子どもで近視の進行を遅らせる効果が報告されています。
いずれの方法も専門の眼科医の指導の下で行う必要があります。また、成人になり近視の度数が安定した後であれば、屈折矯正手術(レーシックなど)によって裸眼視力を改善させる選択肢もあります。手術適応があるかは眼科での検査と診断に基づいて判断します。
単純近視になりやすい人・予防の方法
一般的に近視になりやすいのは、遺伝的な素因を持つ方と、近くを見る作業が多い環境で育つ方です。前述したように、両親のどちらかが近視の場合は子どもも近視になる確率が約2倍、両親とも近視であれば約5倍になると報告されています。特に、幼児期からの強い近視は遺伝が環境よりも強く影響しており、目の病気を合併しやすい病的近視に進行することがあります。
一方、小学校入学後に発症する一般的な近視(単純近視)は環境要因の影響が大きく、近視は現代社会の生活習慣に伴って多くの子どもに起こるようになっています。
近視の予防策として最も効果が期待できるのは、幼少期から十分な屋外活動の時間を確保することです。日光の下で遊ぶ時間が少ない子どもほど近視になりやすく、逆に1日2時間程度を屋外で過ごす習慣をつけると近視の発症リスクを下げられることが科学的に証明されています。屋外は室内より明るく、たとえ木陰や曇りの日でも近視予防に十分な光環境を確保できます。そのため、夏場は熱中症や紫外線対策に注意しつつ、できるだけ毎日外で遊ぶ時間を作りましょう。
また、長時間近くを見続けない工夫も大切です。読書や勉強の際は本と目の距離を30cm以上離し、30~40分に一度は遠くを見て目を休ませる習慣をつけます。特にスマートフォンなど小さい画面を至近距離で長時間見るのは避け、必要に応じて大きな画面に映したり、画面の明るさを周囲に合わせて調整したりしましょう。子どもの場合は寝転がってスマートフォンや漫画を見たりしていると、成人よりも距離が近くなるため背筋を伸ばして座った姿勢で見ることも重要です。
こうした生活習慣の改善は近視の発症、進行予防に有効とされており、成長期の子どもほど生活環境の調整も重要になります。




