目次 -INDEX-

中隔視神経形成異常症
春日 武史

監修医師
春日 武史(医師)

プロフィールをもっと見る
練馬光が丘病院 総合救急診療科 集中治療部門

中隔視神経形成異常症の概要

中隔視神経形成異常症は、脳の構造異常をともなう先天性の疾患で、主に3つの特徴があります。一つ目は視神経の発育が不十分な「視神経低形成」、二つ目は脳の一部である「透明中隔」が欠けていること、三つ目は「下垂体機能低下症」によるホルモン分泌不全です。ただし、すべての患者に3つの症状がみられるわけではなく、あらわれる症状や程度には個人差があります。

中隔視神経形成異常症は非常にまれな疾患で、出生数約1万人あたり1人の割合で診断されると報告されています。日本国内の正確な統計はありませんが、患者数はおよそ500人と推定され、厚生労働省の指定難病となっています。
(出典:厚生労働省「134 中隔視神経形成異常症/ドモルシア症候群」

中隔視神経形成異常症では、主な症状として、視力の低下や目のゆれ(眼振)などの視覚障害がみられます。また、下垂体機能低下症をともなう場合には、低身長や低血糖、脈の遅れ(徐脈)、多尿など、ホルモン分泌の不全による症状があらわれます。さらに、知的障害や運動発達の遅れがみられることもあり、てんかん発作や脳性麻痺などを合併することもあります。

中隔視神経形成異常症の明確な原因はまだ解明されていません。一部の患者では遺伝子変異が確認されていますが、多くのケースで原因が特定されていません。また、若年出産や妊娠中の喫煙、飲酒、薬物の使用などの環境要因が影響する可能性も指摘されています。

現時点で、中隔視神経形成異常症の根本的な治療法はなく、症状に応じた治療が行われます。ホルモン分泌に問題がある場合は、必要なホルモンを補充する治療が行われます。また、視覚障害や知的障害がある場合は、それぞれの発達を支援する指導や適切なサポートが提供されます。

中隔視神経形成異常症の原因

中隔視神経形成異常症の正確な原因は、まだ完全には解明されていませんが、一部の患者では遺伝子の変異が関係していることが確認されています。しかし、必ずしも遺伝性とは限らず、多くの患者は家族に同じ疾患を持つ人がいない孤発例として報告されています。

胎児の視神経や下垂体、脳が形成される時期に、なんらかの遺伝的要因や環境要因が関与すると考えられています。とくに、若年出産や妊娠中の喫煙、飲酒、薬物の使用などが発症リスクを高める可能性があると指摘されています。

中隔視神経形成異常症の前兆や初期症状について

中隔視神経形成異常症の症状は人によって異なりますが、初期にあらわれることが多いのは、視力障害や目のゆれ(眼振)、発達の遅れなどです。とくに、視神経の発育が不十分な「視神経低形成」は片目または両目に生じ、全体の約75〜80%の患者にみられます。

また、下垂体機能の低下によりホルモン分泌が十分でなくなることがあります。これは患者の約44〜81%にみられ、思春期以降に症状があらわれることがあります。とくに多いのは、成長ホルモンの分泌不足による低身長です。ほかにも、甲状腺刺激ホルモンや副腎皮質刺激ホルモンの分泌が不十分になることがあり、低血糖や脈の遅れ(徐脈)、多尿などの症状がみられることがあります。なかでも、副腎皮質刺激ホルモンの分泌不全は、発熱時に急激な体調悪化や突然死のリスクを高めるため、注意が必要です。

脳の膜である「透明中隔」の欠損は、全体の約28〜60%の症例でみられます。脳の異常により、知的障害や運動発達の遅れが生じることがあり、症状の程度は軽度から重度までさまざまです。なかには、てんかん発作や脳性麻痺を合併するケースもあります。

中隔視神経形成異常症の検査・診断

中隔視神経形成異常症の診断は、症状と各種検査の結果をもとに行われます。

中隔視神経形成異常症では、脳の中心部にある透明中隔や脳梁(のうりょう)、視交叉(しこうさ)といった部位に異常がみられることがあります。これらの異常は、頭部のMRI検査によって確認できます。また、視神経の発育状態をくわしく調べるために、眼底検査を行うことがあります。

下垂体の機能の評価は、血液検査のホルモン値の測定によって行われ、これによりホルモンの分泌不全を確認することができます。

MRI検査で脳の異常が認められ、さらに目のゆれや視力障害、ホルモン分泌不全などの症状がみられる場合には、中隔視神経形成異常症と診断されます。

中隔視神経形成異常症の治療

現時点で、中隔視神経形成異常症の根本的な治療法はなく、症状に応じた治療が行われます。治療は小児眼科、小児内分泌科、小児神経科など複数の専門医が連携して進める必要があります。

ホルモンの分泌が不足している場合は、ホルモン補充療法を行い、成長や代謝のバランスを整えます。視覚障害がある場合には、眼科での管理や視覚補助具の使用が検討されます。また、てんかんを合併している場合には、抗てんかん薬による治療が必要になります。

知的障害や運動発達の遅れがある場合は、療育やリハビリテーションなど適切な支援を受けることにより、生活の質(QOL)の向上が期待できます。

中隔視神経形成異常症になりやすい人・予防の方法

中隔視神経形成異常症の正確な原因はまだ解明されていませんが、一部の患者では、遺伝的要因が関係していることが報告されています。そのため、家族に同じ病気をもつ人がいる場合は、発症リスクがやや高くなる可能性があります。ただし、多くの症例では、遺伝的な関連が明らかでない孤発例として発生しています。

また、母体の環境も影響をおよぼすと考えられています。とくに10代での若年出産や、妊娠中の喫煙、飲酒、薬物の摂取などは、中隔視神経形成異常症のリスクを高める要因としてきされています。

現時点で、中隔視神経形成異常症を予防する方法は確立されていませんが、妊娠中の生活習慣が胎児の発育に影響を与える可能性があるため、禁酒や禁煙を守ることが重要です。

関連する病気

  • 中隔視神経異形成症
  • 下垂体機能低下症
  • 視神経低形成
  • 全前脳胞症
  • 閉塞性水頭症
  • 水無脳症
  • 裂脳症
  • 孔脳症

この記事の監修医師