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先天緑内障
栗原 大智

監修医師
栗原 大智(医師)

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2017年、横浜市立大学医学部卒業。済生会横浜市南部病院にて初期研修修了。2019年、横浜市立大学眼科学教室に入局。日々の診察の傍らライターとしても活動しており、m3や日経メディカルなどでも連載中。「視界の質=Quality of vision(QOV)」を下げないため、診察はもちろん、SNSなどを通じて眼科関連の情報発信の重要性を感じ、日々情報発信にも努めている。日本眼科学会専門医。

先天緑内障の概要

先天緑内障とは、生まれつき眼圧(がんあつ:眼球内の圧力)が異常に高くなることで起こる緑内障の一種です。胎児期における前房隅角(ぜんぼうぐうかく:眼の前方の房水が排出される角度部分)の発達がうまくいかず、房水(ぼうすい:眼球内を満たす液体)の排出路である線維柱帯がうまく機能しなくなる結果、眼圧が著しく上昇します。このような機序で生じる緑内障を原発先天緑内障と呼びます。一方、眼球のほかの先天異常(無虹彩症虹彩が先天的に欠如する疾患など)や全身の遺伝性疾患に伴って発症する場合は続発先天緑内障と分類されます。

先天緑内障は稀な疾患であり、発生頻度は欧米では新生児約1万〜2万2千人に1人程度と報告されています。男女比は地域により差がありますが、全体としてやや男児に多いとされています。発症時期は出生直後から乳幼児期が中心で、約80%は生後1年以内に症状が現れます。また多くのケースで両眼に発症し(両眼性)、特に生後3ヶ月以内に発見されたケースでは90%が両眼、3ヶ月〜3歳で発見されたケースでは約60%が両眼で発症することが報告されています。

先天緑内障の原因

先天緑内障の主な原因は、眼球の発生過程における隅角組織の発達異常です。その結果、房水の排出が障害され眼圧が上昇します。多くのケースは原因不明で、家族歴のない発症ですが、遺伝的要因が関与することもわかっています。約1〜2割の患者さんでは家族内発症がみられ、両親から受け継いだ変異が揃うと発症することが知られています。先天緑内障に関連する遺伝子として、CYP1B1遺伝子の変異が代表的です。この遺伝子は隅角の線維柱帯形成に重要であり、変異によって線維柱帯の機能不全が起こり房水の排出が阻害されます。CYP1B1変異は特に家族性の先天緑内障の主な原因で、世界的な症例の中で多く報告されています。

そのほかにもLTBP2、TEK、FOXC1、PITX2など複数の遺伝子変異が関与しうることが研究で示されています。ただし、遺伝子変異が特定できない散発性の例も多く、発症には複数の因子が関与すると考えられています。

先天緑内障の前兆や初期症状について

乳幼児における先天緑内障の症状は、大人の緑内障とは異なり、子ども自身が「見えにくい」と訴えることはできないため、目の見た目の異常や行動の変化として現れます。代表的な症状は以下の通りです。

牛眼(ぎゅうがん)

眼圧が高い状態が続くと眼球が大きく膨らみ、黒目(角膜)が通常より大きく見えます。保護者が「子どもの黒目が大きい」と感じる場合、先天緑内障の可能性があります。

角膜混濁

高い眼圧により角膜にむくみ(浮腫)が生じ、黒目が白く濁って見えます。

羞明(しゅうめい)

光に対して極端にまぶしがる状態です。部屋を暗がりに求めたり、明るい所で目を細めてしまうことがあります。

流涙

光が眩しかったり角膜が刺激されることで、涙が常にあふれるように出ます。

眼瞼けいれん

まぶしさや痛みのために乳児が絶えずまぶたをぎゅっと閉じてしまい、目を開けづらくなることがあります。

こうした症状から乳幼児期に診断されることが多いです。放置すれば高い眼圧によって視神経が圧迫され、視力低下や失明に至るおそれがあります。実際、未治療では不可逆的な視神経障害が進行し、最終的に失明に至ることがほぼ避けられないとされています。そのため、乳幼児の目に異常を感じた場合には早急に眼科を受診することが大切です。

先天緑内障の検査・診断

先天緑内障の診断の検査項目とその目的は以下の通りです。

眼圧測定

手持ちの眼圧計を用いて眼球内の圧力を測定します。正常児の眼圧は平均12±3mmHg程度ですが、先天緑内障では21mmHgを超える高い値がしばしば記録されます。乳幼児は検査に非協力的な場合が多いため、必要に応じて全身麻酔下で眼圧測定や詳細な検査を行います。

眼底検査

瞳孔を開く目薬(散瞳薬)を点眼することで、眼底にある網膜や視神経乳頭の状態を観察します。高眼圧が続くと視神経乳頭が陥凹(視神経のくぼみ拡大)する所見が現れることがあります。また網膜にほかの異常がないかも調べます。

隅角検査

隅角鏡というレンズを角膜に当て、前房隅角の発達状態を観察します。線維柱帯やシュレム管の形成異常の有無を確認し、ほかの隅角異常との鑑別を行います。

視野検査

小児が十分協力できる年齢になったら、視野の欠損がないかを確認します。乳幼児期の診断段階では難しいですが、視神経障害の進行評価に役立ちます。

遺伝子検査

先天緑内障が疑われる乳児で、家族歴がある場合や診断が不明確な場合には遺伝子検査を行うことがあります。例えばCYP1B1遺伝子などに病的変異が見つかれば診断の根拠となり、家族内のリスク評価にも役立ちます。特に、遺伝性が疑われる家系では、生後早期に兄弟へ遺伝子検査を行い、不要な検査(全身麻酔下の検査など)を避けることも推奨されています。

先天緑内障の治療

先天緑内障は進行性の疾患ですが、早期に適切な治療を受けることで視力や視野を維持することができる可能性があります。基本的には手術療法が中心となりますが、状況に応じて薬物療法も併用されます。

薬物療法

薬物療法では、眼圧降下薬を用いて眼圧を一時的に下げます。点眼薬や内服薬によって房水の産生を抑えたり、排出を促進したりすることで眼圧をコントロールします。ただし、新生児や乳幼児では全身への副作用(呼吸抑制や脈拍低下など)のリスクがある薬もあるため、β遮断薬の使用に関しては注意が必要です。薬物療法は根本治療ではなく一時的措置であり、多くの場合は手術までの眼圧コントロールや術後補助薬として用います。

手術療法

手術による治療が先天緑内障の治療の中心です。できるだけ早期(診断後できるだけ速やかに)に手術を行うことで、視神経へのダメージが蓄積する前に眼圧を十分下げることが期待できます。線維柱帯切開術(せんいちゅうたいせっかいじゅつ:トラベクロトミー)、隅角切開術(ぐうかくせっかいじゅつ:ゴニオトミー)などを行います。いずれの手術も、新生児〜1歳未満の乳児で角膜が透明なうちに行うと高い成功率となります。この隅角手術によって約80〜90%の症例で眼圧コントロールが得られると報告されています。しかし角膜の濁りが強い場合や隅角手術で効果不十分な場合、濾過手術(ろかしゅじゅつ)インプラント手術を行います。

手術後も定期的な経過観察が必要で、必要に応じて追加の手術や治療を行うことがあります。乳幼児の緑内障は成長とともに目の状態が変化するため、一度の手術で終わりとは限りません。しかし、早期の手術介入によって多くの症例で眼圧がコントロール可能であり、視力の発達が守られる可能性が高まります

先天緑内障になりやすい人・予防の方法

先天緑内障に関連する遺伝子は明らかになってきていますが、先天緑内障そのものを妊娠中や出生後の生活習慣で予防する方法は確立されていません。遺伝的要因が背景にある場合でも、親から子への遺伝を完全に避けることはできません。ただし、家族や近親者に先天緑内障の患者さんがいる場合には遺伝カウンセリングや出生前診断について産科・眼科に相談するのは一つの方法です。

また、生まれたお子さんが将来発症する可能性に備え、乳児期から目の異常サイン(前述の角膜の濁りや眩しがる様子など)に注意して早期発見・早期治療につなげることが何より重要です。お子さんの目の様子に気を配り、異変があればすぐ主治医に相談しましょう。先天緑内障は早期発見・早期治療が何より重要ですので、「おかしいかも?」と思ったら迷わず受診することが、お子さんの視力を守る一番のポイントとなります。

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