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細菌性角膜炎
栗原 大智

監修医師
栗原 大智(医師)

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2017年、横浜市立大学医学部卒業。済生会横浜市南部病院にて初期研修修了。2019年、横浜市立大学眼科学教室に入局。日々の診察の傍らライターとしても活動しており、m3や日経メディカルなどでも連載中。「視界の質=Quality of vision(QOV)」を下げないため、診察はもちろん、SNSなどを通じて眼科関連の情報発信の重要性を感じ、日々情報発信にも努めている。日本眼科学会専門医。

細菌性角膜炎の概要

細菌性角膜炎を正しく理解するために、まず角膜(角膜)について知る必要があります。
角膜は、私たちの目の中央に位置する透明な膜です。角膜は直径11㎜ほどの円形の組織で、光を通すため血管を持たない透明な構造をしています。角膜は、目に入ってくる光を集めて、網膜にピントを合わせる働きをしています。
そこに炎症を生じるのが角膜炎です。角膜炎にはさまざまな原因があり、特に細菌が原因となるものを細菌性角膜炎といいます。コンタクトレンズ使用者の増加に伴い、細菌性角膜炎の患者さんはコンタクトレンズ普及前よりも増えています。

細菌性角膜炎の原因

細菌性角膜炎の原因の多くは、黄色ブドウ球菌連鎖球菌、および緑膿菌種によって引き起こされますが、その発生率は地域によって異なります。また、多菌性(複数の微生物による)感染が発生することもあり、ある研究では最大43%の症例で認められたという報告もあります。
細菌性角膜炎のリスク因子で最も多いのがコンタクトレンズの使用です。感染症例の約2~4割に関与しています。特に、夜間装用やレンズの消毒が不十分な場合、リスクが高まります。ほかにも次のようなリスク因子があります。

  • 外傷
  • ドライアイ
  • 顔面神経麻痺など眼瞼の動きの異常
  • 汚染された洗眼液や点眼液の使用

若い人の場合、外傷やコンタクトレンズの使用が主な原因ですが、高齢者ではドライアイや手術後のトラブルが関わることが多くなります。

細菌性角膜炎の前兆や初期症状について

細菌性角膜炎の症状は結膜炎やぶどう膜炎などと症状が似ているため、それら疾患と混同しないようにするのが重要です。

細菌性角膜炎の症状としては以下の症状が挙げられます。

  • 目の痛み(眼痛)
  • 目が赤い(充血)
  • 視力低下
  • 光に対する過敏症(まぶしさ、羞明羞明)
  • 涙が過剰に出る(流涙)
  • 目やに(眼脂)

自覚症状が結膜炎やぶどう膜炎などと見分けにくい場合もあるため、上記の症状が現れた場合はできるだけ早めに眼科を受診するようにしましょう。細菌性角膜炎は適切な治療を行わないと、角膜が白く濁ったままになり、見えにくさやまぶしさなどの症状が続いてしまいます。

細菌性角膜炎の検査・診断

細菌性角膜炎の診断のためには問診と細隙灯顕微鏡検査をはじめ、さまざまな検査を行います。

問診

細菌性角膜炎はコンタクトレンズ使用歴や外傷歴が重要となります。コンタクトレンズであれば、使用頻度や使用時間、管理の方法などを問診します。これは原因の推定だけでなく、再発防止のために重要な情報となります。

視力検査

視力の測定を行い、ほかの病気との鑑別や重症度などの判断に用います。細菌性角膜炎はできる場所によって視力を下げること、下げないことがあります。

眼圧検査

細菌性角膜炎では、感染が落ち着いたころに、角膜混濁防止のためステロイド点眼液を用いることがあります。このステロイド治療に伴って眼圧が上がる場合があります。そのため、疾患の鑑別や治療経過での副作用の有無などを確認する際に有効な検査となります。

細隙灯顕微鏡検査

細隙灯顕微鏡検査では目の各組織を細かく観察することができます。そして、細隙灯顕微鏡検査では、細菌性角膜炎以外のぶどう膜炎がないか、また炎症の程度、その他合併症の有無を確認します。細隙灯顕微鏡検査では、充血や角膜混濁だけでなく、前房蓄膿などの所見を認めることがあります。

角膜形状解析

角膜の乱視や角膜の厚さを評価することができる検査です。細菌性角膜炎が沈静化すれば正常になることが多いですが、不正乱視が残る場合があり、視力への影響の有無を判断することができます。

塗抹検鏡

角膜炎の部位の一部を取り、Giemsa染色Gram染色などの染色方法を用いて、原因となる細菌の推定を行います。塗抹検鏡で原因菌が予想できれば、より適切な点眼薬を選択することが可能となります。また、細菌によって病気の経過や予後が異なることがあり、その予測にも用いることができます。

培養検査

培養検査は、検体から採取した細菌を増殖させて、病気の原因となる菌の種類を調べる際に用います。細菌性角膜炎は黄色ブドウ球菌、連鎖球菌などが多いとされていますが、緑膿菌など難治性の原因のことも考えて、培養検査を行うことがあります。

細菌性角膜炎の治療

細菌性角膜炎を治療するためには、できるだけ早期の対応が必要です。まず、コンタクトレンズを使っている場合は、コンタクトレンズの使用を中止してもらいます。その上で、抗菌薬の点眼薬を用いますが、培養検査の結果はすぐには出ないので、さまざまな細菌に効果のある広域抗菌薬の点眼薬を用います。培養検査を行い、細菌が同定できれば、その細菌により効果的な抗菌薬の点眼薬に変更します(デエスカレーション)

もし感染が角膜の深部に広がっている場合は、経口を使用することがあります。また、痛みが強い場合は、必要に応じて鎮痛薬も処方されます。これら治療は基本的に外来通院で行われますが、頻回の点眼が困難な高齢者や、角膜中央部に膿瘍を伴う角膜潰瘍で、前房蓄膿を伴う場合は入院による治療を行うことがあります。

細菌性角膜炎は感染が沈静化すれば元の状態に戻ることも多いですが、中には角膜が白く濁ったままになったり、不正乱視が残ったりすることもあります。その場合は角膜移植などの外科的な治療を行うことがあります。

細菌性角膜炎になりやすい人・予防の方法

細菌性角膜炎にはさまざまな原因がありますので、それぞれに対する予防を行うことが重要です。若い人であれば外傷やコンタクトレンズ、高齢者であればドライアイなどの慢性的な眼科疾患が原因となります。

外傷

外傷であれば職業上、異物が飛んでくる恐れがある場合は保護メガネを着用するのが安心です。また、野球などのスポーツでボールなどが目に飛んでくる恐れがある場合も保護メガネをしている方が直接的な刺激を避けることができます。

コンタクトレンズ

コンタクトレンズによる角膜炎が起こる主な原因は、不適切な洗浄や使用方法です。特に、コンタクトレンズの洗浄を怠ったり、使用期限を守らない場合にリスクが高まります。たとえば、2週間使い捨てのコンタクトレンズを1か月以上使用したり、使い捨てのワンデータイプを何度も再利用することは危険です。また、装用時間が長くなることで目が乾燥し、ドライアイによる角膜炎を引き起こす可能性もあります。

コンタクトレンズは使用するうちに細菌やタンパク質が付着しますが、正しい洗浄や消毒を行うことでこれらを除去することができます。しかし、「こすり洗い」を怠ったり、不潔な手でコンタクトレンズを付け外しすることは、細菌感染のリスクを大幅に高める原因となります。

また、インターネットや格安店でコンタクトレンズを購入することもトラブルの原因になりえます。コンタクトレンズは「高度管理医療機器」として厳しい基準が求められていますが、インターネットや格安店で販売される商品の中には、その基準を満たしていないものが混在している場合があります。これらの製品を使用すると、視力や目の健康に悪影響を及ぼす可能性があります。

コンタクトレンズによるトラブルを防ぐためには、以下の点に注意することが重要です。

洗浄・消毒の徹底
コンタクトレンズを使用するたびに、適切な方法で「こすり洗い」を行い、消毒液でしっかり洗浄することを習慣づけましょう。
使用期限を守る
使い捨てレンズは指定された期間を守って使用し、それを過ぎたら新しいものに交換してください。
清潔な手で操作
レンズを触る前には必ず手を洗い、清潔な状態で操作しましょう。
信頼できる販売店で購入
眼科併設の店舗やこれまで使用していた信頼できるメーカーの商品を購入するようにしてください。
定期検診を受ける
目の健康を維持するために、少なくとも半年に1回は眼科で検診を受けましょう。目の状態を把握し、トラブルの早期発見・対処につながります。

ドライアイ

ドライアイはコンタクトレンズだけでなく、加齢に伴って悪化することがあります。目が乾く、ゴロゴロするなどの症状がある場合は点眼薬による治療を行うのが一般的です。慢性的なドライアイがあると、それがきっかけとなり角膜炎を発症することがあります。高齢者の中には目の所見に比べて、ドライアイの症状が軽いこともあります。症状がないから治療をしないのではなく、角膜炎などそのほかの病気を合併しないよう治療を行うのが望ましいです。

関連する病気

  • コンタクトレンズ関連角膜炎
  • 外傷性角膜炎
  • 免疫抑制状態

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