

監修医師:
栗原 大智(医師)
目次 -INDEX-
高血圧性網膜症の概要
高血圧とは、血圧が通常よりも高い状態を指します。ただし、一度だけ血圧が高く測定された場合、それだけで「高血圧症」と診断されるわけではありません。高血圧症とは、繰り返し測定しても血圧が正常値よりも高い状態が続く場合に診断される病気です。
具体的には、診察室で測定した血圧が収縮期血圧(いわゆる上の血圧)で140mmHg以上、または拡張期血圧(下の血圧)で90mmHg以上の場合、高血圧と診断されます。これらの基準は、単なる一度の測定結果ではなく、何度か測定した結果に基づいて判断されます。そして、高血圧症はさまざまな目の病気の原因になることがあり、網膜や視神経、脈絡膜などさまざまな組織に影響を及ぼします。
高血圧性網膜症は、高血圧が原因で目の奥にある網膜の血管に異常が生じることで発症します。特に、網膜の血管が狭くなったり、破れたり、さらには詰まったりすることで、視力が低下することがあります。また、高血圧が続くと、網膜以外にも目の主要な血管である網膜分枝動脈や中心動脈、静脈にも影響を及ぼす恐れがあります。
また、高血圧性網膜症は、急性の症状と慢性的な症状が見られます。急性の場合、血管が急激に収縮し、血流を調節しようとする過程で網膜を障害します。一方、慢性の高血圧では、血管の壁が硬くなり、動脈硬化が進行することで網膜の血管が狭くなり、視力低下のリスクを高めます。このような影響は、特に長期間にわたって高血圧が続く場合に顕著となります。
高血圧性網膜症の原因
高血圧性網膜症の原因は高血圧です。特に、日本人における高血圧の主な原因は、食塩の摂りすぎです。塩分を多く含む食事は、日本の食文化の特徴でもありますが、これが高血圧を引き起こす大きな要因となっています。
また、若い男性や中年男性では、肥満が原因となる高血圧も増加しています。さらに、飲酒や運動不足も高血圧を引き起こす原因とされています。そのほかにも、喫煙、心血管疾患の既往、高血糖、脂質異常症などが高血圧のリスクファクターになりえます。
高血圧性網膜症の前兆や初期症状について
高血圧性網膜症の症状はほとんど出ません。しかし、中には視力低下やゆがみなどの症状が出てくる場合があります。しかし、これら症状はほかの眼疾患でも認める症状ですので、上記の症状が現れた場合はできるだけ早めに眼科を受診するようにしましょう。
また、高血圧性網膜症は、それ自体が一つの病気であると同時に、他部位でも血流に問題がある可能性を示唆します。なぜなら、高血圧は目の血管だけを選んで障害するわけではなく、体全体の血管に影響を与えるからです。その中には、心臓や脳といった主要な臓器に血液を供給する動脈も含まれます。
高血圧があっても高血圧性網膜症の症状や所見が出るまでに何年もかかることがあります。中には、高血圧性網膜症がきっかけとなり、高血圧と診断される場合もあります。実際、高血圧性網膜症を持つ人々は、将来的に心血管疾患(心臓や血管の病気)を発症するリスクが高くなります。そのため、高血圧性網膜症があれば、内科や循環器内科の医師と連携して治療を行います。
高血圧性網膜症の検査・診断
高血圧性網膜症の診断のためには問診と細隙灯顕微鏡検査、眼底検査などの検査を行います。
問診
高血圧性網膜症の診断には高血圧症の有無が重要となります。特に、慢性的な高血圧症や高血圧管理が不良な場合はリスクが上がるため、罹病期間や内服薬などの確認のための問診を行います。
視力検査
視力の測定を行い、ほかの病気との鑑別や重症度などの判断に用います。高血圧性網膜症は視力を大きく下げない場合もありますが、現時点での目への影響と程度を把握するために、視力検査を行います。
細隙灯顕微鏡検査
細隙灯顕微鏡検査では目の各組織を細かく観察することができます。そして、細隙灯顕微鏡検査では、高血圧性網膜症以外の眼科疾患がないか、その他合併症の有無を確認します。
眼底検査
散瞳薬を用いて、瞳孔を開いて眼底を観察する検査です。高血圧性網膜症では下記のような所見を認めることがあります。
- 細い血管(細動脈)の狭窄
- 細動脈壁の肥厚
- 毛細血管瘤
- 脂肪やタンパク質が漏れ出したことによる黄色の斑点(硬性白斑)
- 視神経乳頭の腫れ(視神経乳頭浮腫)
散瞳薬を用いると、その後5-6時間は運転することができないため、症状があればご自身での運転は避けるようにしましょう。
光干渉断層計(OCT)
OCTでは網膜の状態が把握できます。高血圧性網膜症では黄斑浮腫や視神経乳頭浮腫を認めることがあります。OCTは簡便かつ非侵襲的な検査であるため有用な検査の一つです。
超広角眼底カメラ
超広角眼底カメラでは、通常の眼底カメラよりもより広い範囲で、眼底撮像が可能となります。散瞳検査が行えない場合などに代用されることもあります。
蛍光眼底造影検査
高血圧性網膜症は、血管への影響を見るため、蛍光眼底造影検査を行うことがあります。蛍光眼底造影検査では、腕の静脈に蛍光色素を含んだ造影剤を注射して、眼底の血管を撮影し、眼底の血流や血管の異常を調べます。動脈瘤などがあればその部位にレーザー治療を行うことがあります。
血液検査
高血圧性網膜症のリスク因子として、高血糖や脂質異常症などがあるため、それら項目の異常値がないかを判定します。もしもそれらに異常がある場合は、血圧管理と合わせて治療を行います。
高血圧性網膜症の治療
高血圧性網膜症の治療では、何よりもまず血圧を適切に下げることが重要です。高血圧性網膜症では、高血圧が原因で目の血管に影響を及ぼし、視力の低下やその他の合併症を引き起こす可能性があるため、早期に適切な管理を行う必要があります。
降圧薬としては、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、カルシウム拮抗薬、利尿薬などを用います。これらは血圧を効果的に下げ、目や他臓器を保護するのに役立ちます。もし血圧が高く緊急性がある場合は、注射薬を用いて血圧管理を行うことがあります。これら血圧管理は内科主治医に相談して行います。
高血圧性網膜症になりやすい人・予防の方法
高血圧の主な原因には、食塩の過剰摂取や肥満、運動不足、さらには糖尿病や脂質異常症などの生活習慣病が関連していることがわかっています。したがって、高血圧性網膜症を予防するためには、これらの要因を改善することが重要です。
まず、食生活の見直しです。特に日本人の食事は塩分が多い傾向にあるため、減塩を意識した食事を心がけることが重要です。例えば、外食や加工食品の利用を控え、自宅で調理する際には減塩タイプの調味料を使う工夫が効果的です。また、新鮮な野菜や果物を多く摂り入れることで、体に必要な栄養素をバランスよく補給することができます。カリウムが多く含まれる食品(例えばバナナやほうれん草)は、ナトリウムの排出を助ける働きがあるため、血圧の管理に役立つとされています。
さらに、適度な運動を生活に取り入れることも高血圧の予防には欠かせません。ウォーキングや軽いジョギング、ヨガなどの有酸素運動は、血圧を下げる効果があるだけでなく、心肺機能を高めることで全身の健康維持にもつながります。日常生活の中で階段を使う、通勤時に一駅分歩くなど、無理のない範囲で運動を増やすとよいでしょう。
ストレスの管理もまた、血圧コントロールにとって重要です。過剰なストレスは交感神経を刺激し、血圧を上昇させる原因となることもあります。自分なりのリラックス方法や趣味の時間を持つことで、ストレスを軽減するよう意識しましょう。
しかし、高血圧性網膜症は自覚症状が少ないまま進行することが多い病気です。そのため、定期的な健康診断を受けて高血圧がないかを確認し、異常があれば早めに対処することが重要です。このような健康的な生活を送ることで、高血圧性網膜症だけでなく、ほかの生活習慣病やその合併症の予防が期待できます。
参考文献




