

監修医師:
栗原 大智(医師)
目次 -INDEX-
眼窩腫瘍の概要
眼窩腫瘍(がんかしゅよう)を正しく理解するために、まずは眼窩(がんか)について知る必要があります。
眼窩は眼球が入っている顔面の骨のくぼみで、眼球とその付属構造を保護する役割があります。そして、眼窩は頭骨、上顎骨、頬骨、口蓋骨、蝶形骨、涙骨、篩骨という7つの骨で構成されています。また、眼窩には、眼球のほかにも、視神経や外眼筋、脂肪などが存在します。眼球は上を向いたり、下を向いたりすることができます。それは外眼筋と呼ばれる筋肉によって眼球が眼窩の壁と結びついており、その外眼筋が眼球の向きを変える運動を行っているからです。
この眼窩に生じた腫瘍を眼窩腫瘍(眼窩内腫瘍)といいます。眼窩腫瘍にはさまざまな種類がありますが、目の周囲にある組織に発生する異常な細胞の増殖を指します。この腫瘍は良性のものから悪性のものまであり、目の周りの組織から直接発生する場合も、身体の別の部位から転移してくる場合もあります。腫瘍の種類は、年齢や患者さんの状況によって異なりますが、のう胞、血管から発生する病変、リンパ腫、神経から発生する腫瘍、あるいは転移性の腫瘍などが挙げられます。眼窩原発の腫瘍のなかで、良性腫瘍で多いものは血管腫や涙腺多形腺腫など、悪性腫瘍で多いものは悪性リンパ腫とされています。また、続発性の眼窩腫瘍で多いものは、副鼻腔の嚢胞性疾患や扁平上皮がんです。そして、転移性の眼窩腫瘍では、悪性リンパ腫や肺癌、乳癌などの転移が多いとされています。
眼窩腫瘍の原因
眼窩腫瘍はその種類が多く、原因が明らかになっていないものも少なくありません。
内頸動脈-海綿静脈洞瘻
内頸動脈-海綿静脈洞瘻とは、頭部の海綿静脈洞という部分で、通常は分離されている動脈と静脈が異常につながってしまう状態を指します。内頸動脈-海綿静脈洞瘻の最も一般的な原因は外傷です。交通事故や転倒などによる頭部の強い衝撃が引き金となることが多く、この外傷が全症例の約75%を占めるとされています。
転移性腫瘍
眼窩に転移性腫瘍が発生する場合、その原因となる原発部位や腫瘍の種類は患者さんの年齢によって異なります。子どもの場合は、神経芽細胞腫、横紋筋肉腫などが多くみられ、大人では、乳がんや肺がん、前立腺がん、黒色腫(メラノーマ)などが原因となることが一般的です。転移が起こりやすい腫瘍の原発部位には、乳房、肺、前立腺、胃腸、腎臓、神経芽細胞腫、横紋筋肉腫などが含まれます。これらの腫瘍は、元々発生した部位から眼窩や目の周囲に転移することがあります。
IgG4関連疾患
IgG4関連疾患は、血液中のIgG4(免疫グロブリンG4)という抗体が増加し、体内の組織にIgG4陽性の細胞が集まることで炎症を引き起こす病気です。この病気は、目の周囲を含むさまざまな臓器に腫瘤のような病変を作ることがあります。
このように、眼窩腫瘍の原因がはっきりしているものもあれば、そうでない眼窩腫瘍もあります。
眼窩腫瘍の前兆や初期症状について
眼窩腫瘍の症状はさまざまで、時にはまったく症状がない場合もあります。一方で、急速に症状が現れるケースもあり、その発生部位や症状の性質によって良性か悪性かを判断する手がかりとなることがあります。
代表的な症状としては、目が腫瘍によって押し出されて前方に突出する「眼球突出」が挙げられます。この場合、まぶたが引っ込んで見えることもあります。
また、一部の腫瘍は視力に影響を及ぼし、視力低下や複視(物が二重に見える状態)を引き起こすことがあります。さらに、腫瘍が視診や触診で直接確認できることもあります。これらの症状があればまずは眼科を受診するようにしましょう。
眼窩腫瘍の検査・診断
眼窩腫瘍の診断は問診に加えて、眼窩腫瘍自体の状態を観察することで診断されます。眼窩腫瘍で行われる検査は以下の通りです。
問診や視診
眼窩腫瘍は症状が出始めた時期、症状の進行具合などに関する問診を行う必要があります。また、遺伝や性行為などリスクファクターに関する問診も行うことがあります。そして、眼球突出の程度を視診にて確認します。
HESS赤緑検査
眼窩腫瘍では眼球運動障害をきたすことがあります。HESS赤緑検査はどの程度、どの筋肉が障害されているかが定量的に分かり、治療によってその改善を確認することができます。
ヘルテル眼球突出計
眼窩腫瘍では眼球突出がみられることがあります。視診でも左右差は分かりますが、定量的な測定にはヘルテル眼球突出計を用います。
細隙灯顕微鏡
眼科の基本的な検査で、直接、目の状態を確認します。眼窩腫瘍の広がり、その原因を精査するために必要です。
画像検査
眼窩腫瘍がどこまで広がるかを確認するため、CTやMRI、PETなどの画像検査を用います。眼窩腫瘍が眼窩のどこまで広がっているか、また、悪性腫瘍の場合、全身臓器の転移を確認します。これらは治療の適応を決める際に有用な情報となります。
病理組織学的検査
眼窩腫瘍の確定診断のためには病理組織学的検査が有効です。診断のために、一部あるいは全部を取り除き検査を行います。
血液検査
眼窩腫瘍の原因を特定するために血液検査を行うことがあります。項目としては、悪性リンパ腫を調べるために可溶性IL-2レセプター 、LDH、β2マイクログロブリン、IgG4関連疾患を調べるために血清IgG4値、甲状腺眼症の鑑別のために甲状腺機能検査などを調べます。
眼窩腫瘍の治療
眼窩腫瘍の治療は、患者さんの視力を守ることや見た目を整えることを目的に行われます。一方で、悪性腫瘍の場合は、何よりも命を救うことが最優先となります。ただし、眼窩腫瘍の治療は、腫瘍の種類や状態によって異なります。治療の基本は外科的手術で、腫瘍の大きさや位置、周囲の神経との関係を考慮しながら、腫瘍に最適なアプローチ方法を選びます。
悪性腫瘍の場合は、必要に応じて眼窩の内容を全て摘出し、その後に義眼を装着する手術が行われることがあります。近年では、頭蓋底外科の技術が進歩し、広い視野を確保しながら見た目への影響を最小限に抑えた、安全で効果的な手術が可能になっています。
手術以外の治療としては、腫瘍の種類や状態に応じて放射線治療や化学療法が行われることもあります。例えば、炎症性の病気や悪性リンパ腫の場合は、副腎皮質ステロイドという薬が効果的です。また、悪性腫瘍には放射線治療を組み合わせることも多く、良性腫瘍で再発を繰り返す場合には「γナイフ治療」という特殊な放射線治療が使われることもあります。
眼窩腫瘍になりやすい人・予防の方法
眼窩腫瘍にはさまざまな種類があり、一部を除いてその原因は明らかになっていません。例えば、内頸動脈-海綿静脈洞瘻(CCF)は外傷が原因とされています。特に、頭部外傷など内頸動脈や海綿静脈洞に衝撃が伝わる恐れがある場合はヘルメット着用などが必須です。そのほかにも、眼窩内リンパ腫には特定のウイルス(ヘルペスウイルス、HIVなど)が関与しているとされています。また、ウイルスに関しては性行為や血液などを介した感染症が考えられるため、性行為時のコンドームを使い、不特定数の性行為を避けるようにしましょう。また、遺伝する眼窩腫瘍も存在します。遺伝がありうる場合は、早期発見と治療を行うために、眼窩腫瘍の症状があれば速やかに眼科を受診するようにしましょう。眼窩腫瘍の範囲が狭いほど、治療の効果や合併症が少なくなることが期待できます。
関連する病気
- 眼窩リンパ腫
- 眼窩血管腫
- 涙腺腫瘍
- 皮様嚢胞
参考文献