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淋菌性結膜炎
栗原 大智

監修医師
栗原 大智(医師)

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2017年、横浜市立大学医学部卒業。済生会横浜市南部病院にて初期研修修了。2019年、横浜市立大学眼科学教室に入局。日々の診察の傍らライターとしても活動しており、m3や日経メディカルなどでも連載中。「視界の質=Quality of vision(QOV)」を下げないため、診察はもちろん、SNSなどを通じて眼科関連の情報発信の重要性を感じ、日々情報発信にも努めている。日本眼科学会専門医。

淋菌性結膜炎の概要

淋菌性結膜炎は、淋菌(Neisseria gonorrhoeaeという細菌が目に感染して起こる病気です。この細菌は主に性行為を通じて感染しますが、感染した分泌物が目に触れることで発症することがあります。主な症状には、結膜の腫脹(結膜浮腫)、目やに(眼脂)、目の痛み(眼痛)、まぶたの腫れ(眼瞼腫脹)、耳の前のリンパ節の腫れ(耳前リンパ節腫脹)などがあります。新生児の淋菌性結膜炎の世界的な発生率は1%未満ですが、治療しない場合には失明や髄膜炎などの全身性の合併症を引き起こす可能性があります。適切な産前スクリーニングと予防的な治療により、多くが予防可能となっています。

淋菌性結膜炎の原因

淋菌性結膜炎の原因は、淋菌(Neisseria gonorrhoeae)という細菌が原因ですので、淋菌について詳しく解説します。

淋菌感染症とは

淋菌感染症は、Neisseria gonorrhoeae(淋菌)という細菌が引き起こす性感染症の一つです。この細菌はとても弱く、体外では長く生存できません。日光や乾燥、温度の変化、消毒剤などで簡単に死滅するため、性交や類似行為以外で感染することは稀です。

淋菌感染症は世界中で見られ、近年増加傾向にあります。アメリカでは、性感染症対策により1975年以降減少していましたが、1996年頃から減少が停滞し、一部地域では再び増加しています。日本でも1980年代以降、エイズ啓発活動によって感染者数が減少していましたが、1999年以降は増加に転じています。特に20代の若い世代で多く見られます。

淋菌感染症では、女性は自覚症状が乏しいことが多く、そのため医療機関を受診する機会が少ないことが感染者数が少なく報告される理由の一つです。

淋菌感染症の症状

淋菌感染症自体の症状は男女によって異なります。

男性の場合、淋菌感染症にかかると、主に尿道に炎症が起こり「淋菌性尿道炎」と呼ばれます。感染してから2~9日ほどで以下のような症状が現れることがあります。

  • 膿のような分泌物が尿道から出る
  • 排尿時に痛みを感じる
ただし、最近では症状が軽かったり、分泌物が透明や粘液状である場合もあり、場合によっては全く症状が出ないこともあります。 一方、女性は「子宮頚管炎」として症状が現れることが多いですが、症状が軽いため気づかないことがよくあります。感染が進行すると、炎症が骨盤内に広がり、以下のような健康リスクを引き起こすことがあります:

  • 骨盤炎症性疾患(PID)
  • 卵管の詰まりによる不妊症
  • 子宮外妊娠
  • 慢性的な骨盤の痛み
そして、淋菌は咽頭や直腸にも感染することがありますが、これらの部位では自覚症状がほとんどないことが多く、知らないうちに感染源となる可能性があります。症状がある場合は、むずむずしたかゆみや不快感、痛みなどがあり、直腸の場合は、加えて、下痢や血便、ねばりのある血便などの症状を認める場合があります。

淋菌性結膜炎の前兆や初期症状について

淋菌性結膜炎自体の前兆となる症状はなく、初期症状は以下の通りです。

  • 結膜の発赤や腫れ(結膜浮腫)
  • まぶたの腫れ(眼瞼腫脹)
  • 粘液膿性の目やに(眼脂)
  • 眼球の痛みや圧痛
  • 耳前リンパ節の腫れ(耳前リンパ節腫脹)
  • 視力低下

これら症状がある場合は眼科受診が必要です。しかし、目以外にも感染している恐れがあるため、その場合は泌尿器科や産婦人科の受診が必要となり、お互いの連携も重要となります。

淋菌性結膜炎の検査・診断

淋菌性結膜炎の診断は問診に加えて、淋菌性結膜炎自体を観察することで診断されます。淋菌性結膜炎で行われる検査は以下の通りです。

視力検査

視力検査は眼科検査の基本であり、改善の程度を推し量ることが可能です。淋菌性結膜炎は視力に影響しない場合もありますが、角膜穿孔によって視力を大きく下げることがあります。

眼圧検査

眼圧は目の硬さを調べる検査です。淋菌性結膜炎で角膜穿孔がある場合は眼圧が下がってしまうことがあります。

細隙灯顕微鏡

眼科の基本的な検査で、直接目の状態を確認します。淋菌性結膜炎は膿性眼脂と言って、粘性の強い化膿性の眼脂を認めることが特徴とされています。さらに、結膜充血や眼瞼浮腫など結膜炎による所見の有無を確認します。

感染症に関する検査

グラム染色

グラム染色は、特殊な染色液を用いて、細胞の種類を同定する検査方法です。淋菌が疑われる場合、グラム染色を用いると、グラム陰性双球菌が確認されることがあります。

培養検査

培養検査は、検体から採取した細菌を増殖させて、病気の原因となる菌の種類を調べる際に用います。Neisseria gonorrhoeaeを特定するため、Thayer-Martin培地チョコレート寒天培地を用います。

PCR検査

PCR検査は、検査したいウイルスの遺伝子を専用の薬液を用いて増幅させ検出する検査方法です。淋菌やクラミジアの検出時に用いられます。

ほかの性感染症のスクリーニング

子どもの淋菌性結膜炎の場合は、母親や患者さんのリスクに応じてHIVなども含めた感染症の評価が行われます。

淋菌性結膜炎の治療

淋菌性結膜炎に対しては、主にセフメノキシムなど抗菌薬の点眼液抗菌薬の全身投与を行います。 淋菌感染症の全身投与に使われる主な抗菌薬には以下のものがあります。

  • スペクチノマイシン(注射)
  • セフィキシム(経口薬)
  • オフロキサシン(経口薬)
  • ビブラマイシン(経口薬)
また、セフトリアキソンという注射薬も有効とされていますが、日本では現在保険適用外です。 そして、淋菌感染症の治療に使われる抗菌薬に対して、近年耐性菌が増えていることが問題となっています。これは、抗菌薬の使用頻度や投与方法が国や地域によって異なるため、それに応じて耐性菌の出現率にも違いが生じるからです。特に「ニューキノロン系抗菌薬」と呼ばれる薬に対して、淋菌が効きにくくなるケースが増えています。これは、薬を頻繁に使用したり、正しく使われなかった場合に耐性菌が発生しやすくなるためです。

淋菌性結膜炎になりやすい人・予防の方法

感染リスクが高い人の特徴は 1.性的に活動的な20代前半の人  この年代は性行為の頻度が高い傾向があり、感染リスクも高まります。 2.過去に性感染症にかかったことがある人  一度性感染症にかかったことがある場合、その後も感染しやすい傾向があります。 3.リスクの高い性行為をしている人
  • セックスパートナーが複数いる場合
  • コンドームを使用しない場合
  • 性風俗関連の仕事に従事している場合
4.リスクの高い行為を行うセックスパートナーがいる人  自分自身が注意していても、パートナーの行動によって感染リスクが高まることがあります。

このような場合は淋菌性結膜炎にかかりやすくなります。

淋菌感染症には、予防接種がありません。また、一度感染して治療しても免疫ができないため、再び感染する可能性があります。そのため、以下の予防策がとても重要です。 1.コンドームの使用  性行為や類似の行為を行う際には、必ずコンドームを使用することで感染を防ぎます。 2.定期的な検査  淋菌感染症は無症状のまま感染している場合もあります。不特定多数の相手と接触したり、複数の性的パートナーがいる場合は、定期的に検査を受けることが重要です。早期発見と治療が、感染拡大を防ぐ際に重要です。 3.信頼できるパートナーとの関係  感染リスクを減らすために、性的パートナーとの関係を一貫することが重要です。

もし感染が疑われる場合や症状がある場合は、速やかに医療機関を受診してください。淋菌感染症は早期に治療を受ければ完治が期待できます。また、パートナーも併せて検査を行うことで、再発防止や重症化を防ぐことができます。

関連する病気

  • 淋病
  • クラミジア感染症
  • 新生児淋菌性結膜炎
  • 新生児敗血症
  • 眼内炎
  • 淋菌性関節炎
  • HIV感染症

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