

監修医師:
栗原 大智(医師)
目次 -INDEX-
眼窩蜂窩織炎の概要
眼窩蜂窩織炎を正しく理解するために、まずは眼窩(がんか)について知る必要があります。眼窩は眼球が入っている顔面の骨のくぼみで、眼球とその付属構造を保護する役割があります。そして、眼窩は頭骨、上顎骨、頬骨、口蓋骨、蝶形骨、涙骨、篩骨という7つの骨で構成されています。また、眼窩には、眼球のほかにも、視神経や外眼筋、脂肪などが存在します。眼球は上を向いたり、下を向いたりすることができます。それは外眼筋と呼ばれる筋肉によって眼球が眼窩の壁と結びついており、その外眼筋が眼球の向きを変える運動を行っています。
この眼窩に生じた炎症性の疾患を、眼窩炎症疾患といいます。
そして、眼窩炎症疾患には、眼窩蜂窩織炎と特発性眼窩炎症があります。両者は似ている疾患で、鑑別が難しいことがあります。眼窩蜂窩織炎は、片眼に急性に生じる炎症性疾患で、幼児から成人まで罹患します。また、細菌感染が原因で、抗菌薬によって加療を行います。一方、特発性眼窩炎症も片眼性急性炎症性の疾患で、あらゆる年代の大人に発生します。しかし、原因が不明で、ステロイド薬によって加療を行います。この2つの鑑別は主にCT画像検査所見に基づいて行われます。さらに、眼窩蜂窩織炎と眼瞼蜂窩織炎も鑑別が必要で、眼窩中隔(眼窩と眼瞼を分ける薄い組織)より後方の眼窩内の軟部組織の感染症を指します。一方、中隔前に限定された感染は眼瞼蜂窩織炎と呼ばれます。
眼窩蜂窩織炎の原因
眼窩蜂窩織炎の原因は主に4つが原因となります。
- 眼周囲の構造からの感染拡大(例:隣接する篩骨洞や前頭洞からの感染が90%)
- 外傷、異物、手術後など外因性要因
- 眼窩内のほかの部位の感染(眼内炎や涙腺炎)
- 血流を通じた感染(菌血症など)
眼窩蜂窩織炎は、細菌感染が副鼻腔から眼窩に広がることで最も多いとされています。10歳未満の子どもでは、篩骨洞炎が薄い内側眼窩壁を通じて眼窩に広がってしまうことが主な原因とされています。また、眼窩の静脈系(上眼静脈および下眼静脈)は弁がないため、感染が静脈を介して広がる恐れがあります。
最も一般的な病原菌はグラム陽性の溶血性連鎖球菌およびブドウ球菌です。また、外傷が原因であったり、免疫が抑制された状態ではグラム陰性桿菌や嫌気性細菌も関与したりすることがあります。さらに、免疫抑制患者や糖尿病患者ではムコール菌症やアスペルギルス症といった真菌感染症も考慮する必要があります。
眼窩蜂窩織炎の前兆や初期症状について
眼窩蜂窩織炎では、下記のような症状が見られます。
- 急に目が赤くなる(充血)
- 瞼が腫れる(眼瞼腫脹)
- 瞼全体が腫れる(発赤)
- 目が痛い(眼痛)
- 二重に見える(複視)
これらは眼窩蜂窩織炎で一般的にみられる検査ですが、全ての症状が出るとは限りません。症状が強くなると、眼球内にも炎症が及んでしまい、眼内炎によって視力が大きく下がることもあります。また、眼球が圧迫されることで頭痛や吐き気、感染に伴う発熱などの症状を認めることがあります。
このような症状があれば、まずは眼科を受診しましょう。発熱や吐き気など、目以外の症状のみであれば、内科や救急診療科を受診すると良いと思います。
眼窩蜂窩織炎の検査・診断
眼窩蜂窩織炎の診断は問診や視診に加えて、眼窩蜂窩織炎自体の状態を観察することで診断されます。眼窩蜂窩織炎で行われる検査は以下の通りです。
視力検査
視力検査は眼科検査の基本であり、改善の程度を推し量ることが可能です。眼窩蜂窩織炎は眼内に炎症が及ばなければ、視力に影響しない場合もあります。しかし、眼内に炎症が波及しているかどうか、また他の疾患との鑑別に有用です。
眼圧検査
眼圧は目の硬さを調べる検査です。眼窩蜂窩織炎は眼瞼腫脹などに伴い、眼圧が上昇する場合があります。
細隙灯顕微鏡
眼科の基本的な検査で、直接、目の状態を確認します。眼窩蜂窩織炎の影響が眼球に及んでいないか、また、眼窩蜂窩織炎の感染源がないかどうかを確認します。
眼底検査
眼窩蜂窩織炎が眼球内に影響していないかどうかを確認します。瞳孔を開く目薬(散瞳薬)を用いて瞳孔を開き、眼球内の炎症を評価します。眼底検査を行った場合、散瞳後は車の運転などが難しいため、症状があれば公共交通機関を使うようにしましょう。
血液検査
眼窩蜂窩織炎の原因を特定するために血液検査を行うことがあります。採血では、炎症反応上昇や白血球数増加などがないかを確認します。炎症反応の上昇や白血球数の増加を認める場合は感染源の確認のため画像検査などを追加します。
培養検査
眼窩蜂窩織炎の原因に対して適切な治療を行うため、簡便に採取できる眼脂や鼻腔粘膜の培養検査を行うことがあります。しかし、それらから同定できる可能性は50%未満とされています。
画像検査
眼窩蜂窩織炎が疑わしい場合、CT画像検査を行います。眼窩蜂窩織炎が眼窩内にどの程度広がっているか、原因として副鼻腔の状態などを確認します。特に、特発性眼窩炎症との鑑別が重要です。特発性眼窩炎症の場合、それぞれの涙腺や外眼筋に肥厚やびまん性陰影の所見がみられます。一方、眼窩蜂窩織炎の場合、副鼻腔炎や骨膜下膿瘍、眼球の形状の変化がみられます。このような所見の違いは画像検査を行わないと判別できないため、画像検査は有効な検査です。
眼窩蜂窩織炎の治療
眼窩蜂窩織炎の原因は感染症であることが多いため、原因となる菌が同定されるまでは広域抗菌薬の点滴静脈注射を行います。原因菌が特定できたら、その菌に感受性のある抗菌薬に変更して投与を行います。また、抗菌薬に反応せずに治癒しない場合、炎症所見が続いている場合は、膿を排出を促すような外科的処置が必要となることがあります。副鼻腔、歯周囲の化膿性炎症がベースにある場合は、耳鼻科や歯科で専門的な処置を受ける必要があります。原因が副鼻腔炎や歯の周囲のときは、それらに対する治療を行います。そのため、治療のために耳鼻咽喉科医や歯科医との協力が重要となります。
眼窩蜂窩織炎になりやすい人・予防の方法
眼窩蜂窩織炎になりやすい人は、下に挙げた原因に該当する人が挙げられます。
- 上気道感染
- 急性または慢性の細菌性副鼻腔炎
- 外傷
- 眼や眼周囲の感染
- 全身性感染症
このうち予防可能なものは上気道感染や外傷などが該当します。上気道感染症の対策としては手洗い、消毒、マスクなどの基本的な感染症対策が有効です。また、外傷であれば職業上、異物が飛んでくる恐れがある場合は保護メガネを着用するのが安心です。また、野球などのスポーツでボールなどが目に飛んでくる恐れがある場合も保護メガネをしている方が直接的な刺激を避けることができるため安心です。さらに、上気道感染や副鼻腔炎があれば早期に治療を行うことで、眼窩蜂窩織炎へ移行することを避けられます。発熱や咳、鼻汁などの症状があれば放置せず、早めに医療機関を受診して適切な治療を受けるようにしましょう。




