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眼内悪性リンパ腫
栗原 大智

監修医師
栗原 大智(医師)

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2017年、横浜市立大学医学部卒業。済生会横浜市南部病院にて初期研修修了。2019年、横浜市立大学眼科学教室に入局。日々の診察の傍らライターとしても活動しており、m3や日経メディカルなどでも連載中。「視界の質=Quality of vision(QOV)」を下げないため、診察はもちろん、SNSなどを通じて眼科関連の情報発信の重要性を感じ、日々情報発信にも努めている。日本眼科学会専門医。

眼内悪性リンパ腫の概要

眼内悪性リンパ腫は、結膜や眼窩などの眼球周辺組織や眼球内のリンパ球ががん化し、異常増殖することで発生します。眼内でリンパ腫が生じることで眼内を満たすゼリー状の組織である硝子体が混濁したり、光を感じる網膜に白い病変が出現したりする血液のがんです。脳へと転移しやすく、眼科疾患の中でも予後が悪い病気とされています。

発症率は低く、年間100万人あたり4人程度と言われています。しかしながら、炎症性疾患であるぶどう膜炎との鑑別が難しい疾患として有名な眼内悪性リンパ腫は硝子体の細胞診をはじめとしたさまざまな検査が必要となります。

標準治療は確率されていませんが、治療法としては放射線療法、硝子体注射が有効とされています。また、再発や難治の場合には化学療法も行われており、治療成績の向上が期待されています。

眼内悪性リンパ腫の原因

眼内悪性リンパ腫は、リンパ球ががん化して異常に増殖することで発症する疾患です。リンパ球は体の免疫を担う細胞であり、本来は感染や異物から体を守る役割を果たします。しかし、何らかの原因でこれらの細胞が制御を失い、腫瘍化することでリンパ腫が引き起こされます。高齢の方の発症が多いため、加齢と関連している可能性があります。

眼内リンパ腫はほとんどがびまん性大細胞型B細胞リンパ腫というタイプに分類されますが、リンパ節のような組織の存在しない眼内や中枢神経系になぜ発生するのか、原因は今でも不明です。

3つの病型があり、1つ目は「原発性」で、病変が眼の中だけに留まるものです。2つ目は「中枢神経系」で、脳や脊髄のリンパ腫も発生し眼に進展する場合です。そして、3つ目は「二次性眼内悪性リンパ腫」で、中枢神経系以外の臓器原発の悪性リンパ腫が眼球内に進展する場合です。眼内だけでなく、中枢神経、他臓器にも注意が必要となります。

眼内悪性リンパ腫の前兆や初期症状について

眼内悪性リンパ腫は初期段階ではぶどう膜炎と似た自覚症状として「視力低下、霧がかった視界(霧視)、目の痛み、光に対する過敏症(羞明)、および目の充血」などがあります。その他の医師が確認できる所見として「硝子体の混濁、網膜下の滲出性病変」があります。

まず、視力低下や目のかすみ、霧視、充血などの症状を感じた場合には眼科を受診してください。眼科では、問診や視力検査、眼底検査、OCT(光干渉断層計)などの基本的な検査を行い、症状の原因を探ります。

症状が軽度であっても放置せず、早めに眼科を受診することが、適切な診断と早期治療への第一歩です。特に、ぶどう膜炎と診断され、治療を継続しているもののなかなか改善しない場合は眼内悪性リンパ腫が疑われるため、治療放棄せずに相談してみてください。

眼内悪性リンパ腫の検査・診断

眼内悪性リンパ腫の診断は困難で、特に初期段階ではほかの眼疾患(ぶどう膜炎など)と症状が似ているため、専門的な検査が必要です。診断を確定するための国際的な診断基準は確率されていませんが、以下のように診断されます。

まず、問診と基本的な眼科検査が行われます。視力検査、眼底検査、OCT(光干渉断層計)を用いて、網膜や硝子体の異常を確認します。眼底に炎症や異常な細胞が確認される場合、さらに詳しい検査が必要と判断されます。

硝子体の混濁が認められた場合、硝子体液の採取(硝子体生検)が診断の鍵となります。目の中から採取した硝子体液を用いて、細胞診や病理組織診陽性を基本とした以下のような検査による証拠に基づいて総合的に判断されます。

・細胞診でクラス3(異形細胞を認めるが悪性と断定できない)
・IL-10/IL-6(>1)
・IgH遺伝子再構成(陽性)
・フローサイトメトリーでB細胞系リンパ腫の表現形(陽性)を認める

さらに、中枢神経系への転移の可能性も考慮する必要があるので、画像検査も重要となります。磁気共鳴画像(MRI)やCTスキャン、骨髄生検により脳や脊髄への転移や異常を確認します。一度検査を行い異常が無い場合でも、中枢神経系に新たな病変が無いか定期的にMRIや血液検査でチェックしていく必要があります。

眼内悪性リンパ腫の治療

眼内悪性リンパ腫の標準治療は確立されていません。また、病気の進行度や患者さんの全身状態、中枢神経系(CNS)への病変の有無によって異なります。治療の目的は体調を悪化させず、眼内の寛解と視力を改善することです。眼内悪性リンパ腫に対する主に用いられる治療法は以下の通りです。

放射線療法

目に限局した病変に対しては、患部に放射線(35-40Gy)を照射することで腫瘍細胞を破壊することが目的で、初発眼内悪性リンパ腫に対して高い完解率(87%)が得られています。この方法は、比較的副作用が少なく、視力の維持が期待できます。他病変がある場合には効果が限定的です。また、2年無病再発生存率は50%程度であり、再発率が高い傾向にあります。

眼内注射

化学療法ではメトトレキサートという代謝拮抗薬を眼内に注射することで腫瘍細胞を抑制します。この局所療法は全身への影響を最小限に抑えながら、目の病変に集中して効果を発揮します。眼内悪性リンパ腫には高い有効性が認められますが、中枢神経への転移抑制はできない可能性があります。

治療の組み合わせ

多くの場合、放射線療法と化学療法を組み合わせた治療が行われます。この併用療法により腫瘍をより効果的に制御することが可能です。患者さんの状態や病変の進行具合に応じて治療法が選択され、適切な方法で治療が進められます。

再発・難治性の場合

再発や難治性の眼内悪性リンパ腫に対する治療として、抗がん剤の硝子体内注射、放射線療法、化学療法、自己造血幹細胞移植(ASCT)などが検討されます。自家移植が可能な年齢の場合はASCTを検討し、本邦において中枢神経系悪性リンパ腫に対するブスルファン及びチオテパの前処置による自家移植のレジメンが保険承認されています。化学療法としてはレナリドミド(リツキシマブとの併用)、イブルチニブ(単剤)が有望な結果を示していますが、これらの抗悪性腫瘍薬は「眼内悪性リンパ腫」の適応はありません。適応外使用となるため研究に基づいた治療法選択が重要となります。

新しい治療法の研究が進んでおり、将来的にさらに効果的で負担の少ない治療法が期待されます。

眼内悪性リンパ腫になりやすい人・予防の方法

眼内悪性リンパ腫になりやすい人

眼内悪性リンパ腫は比較的稀な病気であり、特定のリスク要因が存在します。以下の人々が特に注意すべきとされています。

中高年
眼内悪性リンパ腫は30~80歳の中高年に発症し、診断時の中央値は63歳と高齢者に多くみられます。

遺伝子変異を認める方
眼内悪性リンパ腫の方においてMYD88、L256PおよびCD79BのITAM領域のY196付近の遺伝子変異が高頻度に確認されており、関連が示唆されています。

中枢神経系悪性リンパ腫の既往がある方
この病気は中枢神経系リンパ腫と関連が深いため、既に脳や脊髄に腫瘍がある場合、眼内への転移が発生することがあります

予防の方法

眼内悪性リンパ腫の発症を完全に防ぐ方法は現時点で確立されていませんが、早期発見がリスクを下げる可能性があります。

定期的な健康診断
特に免疫力が低下している人や中枢神経系に病変がある人は、定期的に眼科や内科での検診を受け、早期の異常発見に努めることが重要です。
早期受診
視力低下や霧視、充血などの症状がある場合は、すぐに眼科を受診しましょう。

関連する病気

  • 慢性炎症性疾患
  • 免疫抑制状態
  • エイズ(HIV/AIDS)
  • 自己免疫疾患

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