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雪眼炎
栗原 大智

監修医師
栗原 大智(医師)

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2017年、横浜市立大学医学部卒業。済生会横浜市南部病院にて初期研修修了。2019年、横浜市立大学眼科学教室に入局。日々の診察の傍らライターとしても活動しており、m3や日経メディカルなどでも連載中。「視界の質=Quality of vision(QOV)」を下げないため、診察はもちろん、SNSなどを通じて眼科関連の情報発信の重要性を感じ、日々情報発信にも努めている。日本眼科学会専門医。

雪眼炎の概要

雪眼炎(せつがんえん)とは、紫外線による急性の眼障害です。紫外線にさらされることで目の痛みや充血などが現れる紫外線角膜炎の一種であり、雪目(ゆきめ)とも呼ばれます。 晴れた雪上で起きがちなために雪眼炎という名前がついていますが、多量の紫外線を目に浴びれば季節を問わず発症の可能性があります。目の日焼け、と考えるとイメージしやすいでしょう。

眼障害を起こす紫外線の種類

紫外線は、波長が短い順にUV-C、UV-B、UV-Aに分類されます。太陽から地上に届く光のなかでは、UV-Bが最も波長が短く、目や皮膚に急性のダメージを与えます。雪眼炎の原因となるのもUV-Bです。

UV-AはUV-B程有害ではありません。しかし地上に届く量が多いため、長時間にわたって浴び続けたときに影響が出る可能性が指摘されています。

UV-Cはオゾン層で吸収されるため、太陽の光には含まれません。一方で電気溶接の光や殺菌灯といった人工の強い光には含まれており、紫外線角膜炎の原因となります。こうした人工光源による角膜炎は電気性眼炎と呼び、自然光による雪眼炎よりも発症までの時間が短かったり、症状が強かったりする場合があります。

雪眼炎の経過

雪眼炎の症状は、紫外線に当たってすぐには現れず、6時間〜12時間程で目の痛みなどが始まるのが一般的です。 ときに痛みが数日残るケースもありますが、ほとんどの場合、1日〜2日で自然に治ります。しかし、繰り返すと慢性の眼障害につながる可能性もあります。必要以上の紫外線を日々浴び続けるだけでも、眼障害のリスクは上がっていくため、適切に目を守ることが大切です。

雪眼炎の原因

雪眼炎の原因は、太陽からの紫外線です。主にUV-Bが原因となります。 瞳孔を通って眼球内まで入る紫外線はわずかで、大部分は黒目の表面を覆う角膜で吸収されます。過剰な紫外線によって角膜の上皮細胞が障害され、細胞が壊死することで、痛みや異物感が現れます。

紫外線は反射により影響が強くなる

太陽光の照り返しがまぶしくて目を開けていられない、といった経験は誰にでもあるでしょう。紫外線も同じように、太陽から直接届くだけでなく、反射によっても目に入ります。地面からの紫外線の反射率は、芝生や土なら10%以下ですが、砂浜では10〜20%に増加し、真っ白な新雪の上では80%にもなります。このため海水浴やスキーでは特に、反射した紫外線がいろいろな方向から目に入ってきて、雪眼炎のリスクを上げる要因となります。

雪眼炎の前兆や初期症状について

雪眼炎を発症すると、目に以下のような症状が現れます。

  • 強い痛み
  • 異物感(ザラザラして感じるなど)
  • まぶしく感じる
  • 大量の涙が出る
  • 結膜(白目、まぶたの裏側)の充血・腫れ
  • まぶたの腫れ
  • 黒目の周囲の充血
痛みで目が開けられないこともよくあります。また、昼間に浴びた紫外線の影響が、夜間や翌朝に現れるのが特徴的です。通常は両目ともに症状が出ます。 1日〜2日で自然に治ることが多いため、自宅で様子を見ることも選択肢です。コンタクトレンズを着けていれば、刺激となるため外しましょう。目をこすらないよう注意し、安静に保ってください。 症状が強い場合や長引く場合は、眼科を受診しましょう。時間外であれば救急外来も利用可能です。

雪眼炎の検査・診断

雪眼炎の診断には、問診・診察と検査を行います。

問診・診察

問診では、目への紫外線曝露歴を確認します。ゴーグルをつけずにスキーをした、サングラスなしで砂浜に滞在した、などの心当たりがあれば医師に伝えてください。 屋外にいた時間帯も伝えましょう。紫外線に当たってから発症までの時間も、雪眼炎かどうか判断する手がかりになります。診察では、目を開けられるかどうかや充血の程度などを確認します。痛みで目を開けるのが難しければ、そのように伝えてください。

目の検査

細隙灯顕微鏡(さいげきとうけんびきょう)という眼科用の顕微鏡で角膜を拡大し、傷の状態を観察します。検査の際は、傷ついた部分が見えやすいように、色素を含む点眼薬を使用します。痛みで目が開けられない場合は、点眼麻酔薬で痛みを取ってから検査します。 角膜炎は紫外線のほかにも乾燥や感染症、化学物質、コンタクトレンズの刺激など、さまざまな原因で起きます。角膜にできた傷の位置によって、ある程度原因の推定が可能です。雪眼炎の場合は、傷は角膜全体に散在します。重症では角膜がただれていることもあります。

雪眼炎の治療

雪眼炎の治療は点眼薬が中心です。自然治癒を助け、症状を和らげるために使います。

点眼薬

雪眼炎でよく使用する点眼薬は、以下の2種類です。
  • 角膜保護点眼:傷ついた角膜を守ります。
  • 抗生物質点眼・眼軟膏:感染予防のために使います。
なお、点眼麻酔薬を使うと痛みが取れるため、処方を受けたいと思う方もいるかもしれません。しかし、点眼麻酔薬を連用すると角膜の再生を妨げるため、使えるのは検査で必要なときだけとなっています。

点眼薬以外の対処

痛みが強い場合は、痛み止めの内服薬を使用することもあります。また、圧迫眼帯でも痛みを軽減可能です。 一方で、体を温めすぎると炎症が悪化する可能性があるため、入浴や飲酒は控えるのが望ましいでしょう。

雪眼炎になりやすい人・予防の方法

雪眼炎のリスクが高いのは、屋外でレジャーや仕事を行う人です。帽子やサングラス、ゴーグルで目を保護しない場合にリスクが高まります。 紫外線は、日本では春から初秋にかけて強くなります。月でいうと4〜9月に、1年間のおよそ70〜80%が降り注ぎます。1日のなかでは正午頃が最も強く、10時〜14時の間に1日の70〜85%の紫外線が降り注いでいます。これらの時期・時間帯には特に、目を守る行動をとりましょう。

雪眼炎の予防:帽子の装着

帽子は太陽からの紫外線を遮るために有用です。帽子だけでも、目に入る紫外線を20%程減らす効果があります。つばが大きめのものを選びましょう。7cm以上が目安です。 ただし、帽子だけでは環境からの反射光を防ぐことができません。特に砂浜や雪上では反射光が多くなるため、サングラスやゴーグルも併用するのが大切です。

雪眼炎の予防:サングラスやゴーグルの装着

UVカット機能のあるサングラスやゴーグルを適切に装着すれば、目に入る紫外線を最大90%も減らすことが可能です。目を守るために適したサングラスは、レンズが大きめで顔にフィットするものです。ツルが太いデザインであれば、横から入り込む紫外線を遮る効果が期待できます。

サングラス選びの注意点は2点あります。

まず、UVカット機能をきちんと確かめることです。ガラスのレンズであれば、通常UV-Bを遮ってくれますが、昨今は軽くて衝撃に強いプラスチックレンズが主流です。プラスチックレンズは加工しないと紫外線を通してしまうため、UVカットが明記されているものを選びましょう。

次に、レンズの色が濃すぎないサングラスを選びましょう。通常、強い光を感じると自然に瞳孔が小さくなり、眼球内へ入る光を絞るべく調節が働きます。ところがサングラスの色が濃すぎると、瞳孔があまり小さくならず、内側の水晶体に達する紫外線の量が増えてしまいます。すると将来的に白内障のリスクが上がる可能性があります。 サングラスのレンズの色は、レンズ越しに目が見える程度の、濃すぎない色を選ぶのがおすすめです。

関連する病気

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  • 光過敏症
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  • 網膜炎
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  • 瞼裂斑
  • 高地浮腫性角膜症

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