

監修医師:
栗原 大智(医師)
プロフィールをもっと見る
2017年、横浜市立大学医学部卒業。済生会横浜市南部病院にて初期研修修了。2019年、横浜市立大学眼科学教室に入局。日々の診察の傍らライターとしても活動しており、m3や日経メディカルなどでも連載中。「視界の質=Quality of vision(QOV)」を下げないため、診察はもちろん、SNSなどを通じて眼科関連の情報発信の重要性を感じ、日々情報発信にも努めている。日本眼科学会専門医。
目次 -INDEX-
網膜振盪症の概要
眼球の中の奥の壁には、網膜という組織があります。網膜は、約0.3mm程度の薄い膜ですが、10層構造になっており、目に入った光を像として結んで脳に伝える役割を担っています。眼球はカメラに例えられることが多いのですが、カメラでいうとフィルムに相当する部分です。そして、眼球打撲などによる衝撃が加わり、網膜が乳白色に混濁する病態を網膜振盪症といいます。衝撃が加わる部位や程度によって、網膜振盪症が一部に限局するか、全体に広がるかが変わります。そして、周辺の網膜が傷害されても視力予後は良好ですが、中心の網膜(黄斑)が傷害されると、視力低下をきたす場合があります。この網膜振盪症は病院で治療を受ける眼外傷全体の約30%に見られるとされています。網膜振盪症の原因
網膜振盪症は眼球を打撲すると起こるとされています。特に、下記のような眼球打撲後は注意が必要です。- 衝撃が強いスポーツ(特にボールを使用するスポーツ)
- 顔面を殴打する行為あるいはスポーツ
- 交通事故
- 顔面や眼窩へ鈍的外傷を伴うその他の活動
網膜振盪症の前兆や初期症状について
網膜振盪症には前兆となる所見はありませんし、基本的には症状がなく自然治癒していくことが多いです。眼球に対して外傷を受けた後、初期症状として視力の低下や視野欠損を感じる場合があります。これは強い衝撃を受けた際に、網膜振盪症よりも重症な網膜打撲壊死という状態の恐れがあります。網膜打撲壊死の状態になると、元の状態に戻らない恐れがあります。また、網膜剥離は網膜打撲壊死の症状と似ている部分もあるため、両者の鑑別は重要です。眼球に対して外傷を受けたら、できるだけ早めに眼科を受診するようにしましょう。特に、眼球打撲後に見えにくい、視野が欠けるなどの症状があれば、緊急で受診できる眼科を受診するようにしましょう。網膜振盪症の検査・診断
網膜振盪症の診断のためには問診と細隙灯顕微鏡検査、眼底検査などの検査を行います。問診
外傷を受けた際、どの程度の強さの衝撃が加わったのか、その時の状況を確認します。視力検査
視力の測定を行い、ほかの病気との鑑別や重症度などの判断に用います。強い眼球打撲を受けると、網膜振盪症だけでなく、ほかにも黄斑円孔、虹彩離断、外傷性白内障、網膜剥離などの合併症が起こりうるため、それら疾患の併発がないかどうかの確認にも必要となります。また、網膜打撲壊死ではその影響が黄斑部近くに及べば、視力が大きく低下してしまい、不可逆的な変化になることがあります。眼圧検査
網膜振盪症で上がることはありませんが、眼球破裂など併発疾患がないかどうかの判定に有用です。眼球破裂がある場合は眼圧が下がりますし、網膜剝離では眼圧が低下するとされています。細隙灯顕微鏡検査
細隙灯顕微鏡検査で外傷に伴う合併症が起こっていないかどうかを確認します。また、細隙灯顕微鏡検査では、次の眼底検査が可能かどうか判定します。特に、前房出血などがある場合は眼底検査が困難になります。眼底検査
散瞳薬を用いて、眼内に網膜振盪症がないか、その範囲を確認します。網膜振盪症がある部位は乳白色に混濁しています。部位は限局的な場合もありますが、広範囲に及ぶことがあります。また、網膜振盪症が起こっている部位は、網膜円孔や網膜剥離が起こる恐れがあるため、その部位を確認します。光干渉断層計(OCT)
OCTでは網膜の状態が把握できます。網膜振盪症が中心付近にあれば、黄斑円孔などをきたすことがあり、それら疾患の有無を確認します。超広角眼底カメラ
超広角眼底カメラでは、通常の眼底カメラよりもより広い範囲で、眼底撮像が可能となります。受傷後の網膜振盪症の範囲を記録する際にも有用です。また、狭隅角で眼底写真が行えない場合も、超広角眼底カメラであれば周辺部まで観察できます。視野検査
網膜振盪症か網膜打撲壊死かどうかの判定に用いられます。外傷後すぐは視力低下もみられることがあるため、経過が安定してきたら視野検査の測定を行います。網膜振盪症であれば視野に異常は見られませんが、網膜打撲壊死の状態であればその部位に一致して視野欠損を認めます。また、網膜打撲壊死の場合の視野欠損は不可逆性です。超音波検査
眼球打撲後は眼球内に出血(前房出血や硝子体出血など)をきたすため、眼内の評価が難しい場合があります。その際は超音波検査を用いて、網膜剥離がないかどうかを確認します。網膜振盪症の治療
網膜振盪症は自然経過で改善することがありますので、基本的には経過観察のみを行います。そのため、基本的には治療を行いません。ただし、網膜打撲壊死の状態になることがあるため、網膜振盪症の所見が改善するまでは、眼科で経過観察を行うようにします。レーザー治療
網膜振盪症の部位に網膜裂孔という裂け目ができることがあります。この裂け目をきっかけとなり、網膜剝離に移行することがあります。放置していても網膜剝離に進行しない場合もありますが、網膜剝離になると失明するリスクもあります。そのため、網膜裂孔に対して、進行を予防するために、レーザー治療を行います。ただし、レーザー治療を行った場所は見えにくさを訴える場合があるため、治療前に視野が欠ける可能性については説明が必要です。強膜バックリング術or硝子体手術
網膜振盪症の起きた部分から、網膜剥離が生じることがあります。網膜剥離の発症年齢や部位、程度にもよりますが、網膜剝離に対しては強膜バックリング術あるいは硝子体手術を行います。強膜バックリング術は、眼の周りにシリコン製のスポンジ(バックル)を縫い付けて、眼を内側にへこませることで、網膜裂孔を閉じる方法です。一方、硝子体手術は眼内に器械を入れ、直接レーザーを当てたりすることで網膜裂孔を閉じます。網膜剝離以外にも、黄斑部に衝撃が伝われば、外傷性黄斑円孔を生じることがあります。外傷性黄斑円孔では硝子体手術を行い、黄斑部に開いた穴を塞ぎます。網膜振盪症になりやすい人・予防の方法
網膜振盪症になりやすい人は以下の行為などを行う人です。- 衝撃が強いスポーツ(特にボールを使用するスポーツ)
- 顔面を殴打する行為あるいはスポーツ
- 交通事故
- 顔面や眼窩へ鈍的外傷を伴うその他の活動




