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水疱性角膜症
栗原 大智

監修医師
栗原 大智(医師)

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2017年、横浜市立大学医学部卒業。済生会横浜市南部病院にて初期研修修了。2019年、横浜市立大学眼科学教室に入局。日々の診察の傍らライターとしても活動しており、m3や日経メディカルなどでも連載中。「視界の質=Quality of vision(QOV)」を下げないため、診察はもちろん、SNSなどを通じて眼科関連の情報発信の重要性を感じ、日々情報発信にも努めている。日本眼科学会専門医。

水疱性角膜症の概要

水疱性角膜症とは、目の角膜(目の透明な前面部分)が腫れて水ぶくれ(医学用語で「水疱」)ができる病気です。この腫れは、角膜の一番内側にある「内皮細胞層」が損傷することで起こります。内皮細胞層は角膜を透明に保つために水分の調節を行っていますが、この機能が低下すると角膜に余分な水分が溜まり、視界が曇ったり見えにくくなります。角膜は、眼球の先端中央にあり、ちょうど黒目を覆うようにドーム状に盛り上がった部分です。角膜の後ろには前房水という水分が溜まっていて、その後ろに水晶体があります。角膜は透明な5層構造になっており、いちばん内側が内皮細胞層です。この角膜内皮細胞は、角膜全体の水分調節などを通じて角膜の透明性を保つ重要な細胞です。角膜内皮細胞は再生しない細胞で、1mm2あたり2500〜3000個が正常とされています。さまざまな理由で損傷すると細胞数は減っていきます。

角膜内皮細胞が1mm2あたり500個以下になると角膜が混濁しはじめ、水疱性角膜症を発症します。この病気は徐々に進行することがあり、遺伝的な要因や過去の眼科手術、外傷などが原因となる場合があります。症状は軽い違和感から、角膜の腫れや水疱の形成が進むにつれて視力障害が著しくなる場合までさまざまです。早期に症状を理解し、適切な治療を受けることが大切です。

水疱性角膜症の原因

水疱性角膜症は、主に角膜内皮細胞の損傷によって引き起こされます。以下の要因が主な原因として挙げられます。

  • 緑内障手術の影響
    緑内障の治療として行われるレーザー虹彩切開術が内皮細胞にダメージを与え、水疱性角膜症を引き起こす場合があります。
  • 眼科手術による損傷
    特に白内障手術のような眼科手術中に内皮細胞が損傷を受けることがあります。この損傷が原因で角膜に水分が溜まります。
  • フックス角膜内皮ジストロフィー
    遺伝的な病気で、内皮細胞が徐々に減少する疾患です。この病気を持つ人は内皮細胞の数が減り、水疱性角膜症を発症しやすくなります。
  • コンタクトレンズの長期使用
    酸素透過率が低いコンタクトレンズや、推奨された時間を超えて装用を続けると、角膜への酸素供給が不足して角膜内皮細胞が損傷することがあります。
  • 外傷やけが
    目に外傷を受けると、内皮細胞が損傷し水疱性角膜症につながることがあります。
  • 炎症
    目の中や周辺の炎症によって内皮細胞の働きが妨げられ、水分が溜まりやすくなる場合があります。
  • ウイルス感染やその他の角膜疾患
    例えば、単純ヘルペスウイルスが角膜に感染すると、内皮細胞が影響を受けることがあります。
  • 加齢
    年齢を重ねると内皮細胞の数が自然に減少するため、高齢者は水疱性角膜症を発症しやすい傾向があります。

水疱性角膜症の前兆や初期症状について

水疱性角膜症は通常ゆっくり進行します。初期症状を認識したら、眼科を受診して検査を受けることで適切な対応が可能になります。以下が一般的な症状です。

  • 視界がぼやける
    角膜の腫れにより視界が曇って見えるようになります。
  • 光に対する敏感さ(羞明しゅうめい)
    明るい光に過剰に反応するようになり、屋外や明るい場所で不快感を感じることがあります。
  • 異物感
    目にゴミや砂が入ったような感覚が生じることがあり、これは腫れや水疱による刺激が原因です。
  • 痛みや不快感
    水疱が形成され、それが破れると痛みが生じることがあります。痛みは一時的な場合もありますが、ひどくなることもあります。
  • 光の周りにハローが見える
    夜間に光の周りに輪のようなものが見えることがあり、視界にさらなる影響を与える場合があります。
  • 朝方に症状が悪化する
    目を閉じている間に水分が溜まりやすくなるため、朝起きた時に症状が悪化することがあります。
  • 水疱が破裂する
    水疱が破れると強い痛みが生じ、視界がさらに悪化することがあります。

水疱性角膜症の検査・診断

水疱性角膜症は眼科医による詳しい検査で診断できます。主な診断手順は以下の通りです。

  • 問診
    過去の眼科手術や目の病気などの病歴を詳しく聞かれます。
  • 視力検査
    視力の低下具合を測定します。
  • スリットランプ検査
    特殊な顕微鏡を使って角膜の腫れや水疱を詳しく観察します。
  • 角膜の厚さ測定(角膜形態測定)
    超音波などを用いて角膜の厚さを測定します。厚さが増している場合、角膜に水分が溜まっている可能性があります。
  • 内皮細胞の検査(スペキュラーマイクロスコピー)
    内皮細胞の数や形を調べる検査で、細胞の減少や異常を確認します。

水疱性角膜症の治療

水疱性角膜症の治療は、症状の重さや原因に応じて異なります。主に以下の2つのアプローチがあります。

保存的治療(手術を行わない治療)

  • 高浸透圧点眼液
    塩分濃度が高い目薬を使用して、角膜の余分な水分を外に引き出し、腫れを軽減します。
  • 痛みの緩和
    痛みがある場合、鎮痛剤を投与します。
  • 治療用ソフトコンタクトレンズ
    角膜の表面を保護し、痛みを和らげるために特別なコンタクトレンズを使用する場合があります。

手術治療

保存的治療で改善しない場合や、視力低下が深刻な場合は手術が検討されます。術後の経過観察も重要で、回復を確認しながら必要に応じて追加治療の必要性を検討します。

  • 角膜移植
    ダメージを受けた角膜の一部または全体を健康なドナーの角膜で置き換える手術です。これにより、視力を回復させることが可能です。
  • 内皮移植
    角膜の内皮細胞層だけを置き換える手術で、回復が比較的早いのが特徴です。
  • 原因の手術的対応
    緑内障手術などが原因で水疱性角膜症が起きた場合は、その原因に対する追加手術が行われる場合もあります。

水疱性角膜症になりやすい人・予防の方法

水疱性角膜症の発症リスクが高い人や予防策について知っておくと役立ちます。

  • 長期コンタクトレンズの使用者
    酸素透過率が低いコンタクトレンズや、推奨された時間を超えた長期装用を続けると、角膜への酸素供給が不足して角膜内皮細胞が損傷することがあります。コンタクトレンズ検診をしていなければ、症状がなくても角膜内皮細胞の状態を確認することをおすすめします。

  • フックス角膜内皮ジストロフィーの家族歴がある人
    遺伝的要因がある場合、早めの定期検査が重要です。

  • 眼科手術歴のある人
    特に白内障や緑内障の手術を受けた人は、内皮細胞へのダメージが原因となる可能性があります。

  • 高齢者
    加齢により内皮細胞が減少するため、高齢者は注意が必要です。

予防策

  • 定期検査
    目の手術を受けた方やコンタクトレンズを使っている方は、定期的に眼科で検査を受けることで早期発見と予防が可能です。
  • 目の病気を適切に管理する
    緑内障などの病気は、医師の指導のもとで適切に治療を行うことで合併症を防ぐことができます。
  • 目を保護する
    外傷を防ぐために、スポーツや危険な作業時には保護用メガネを使用することが推奨されます。
  • 健康的な生活習慣
    栄養バランスの取れた食事や禁煙は、目の健康を保つために重要です。

このように、水疱性角膜症は適切な知識と管理によって、症状の進行を遅らせたり視力を守ることが可能です。目の健康に不安を感じたら、早めに専門医に相談することを心がけましょう。

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