急性出血性結膜炎
栗原 大智

監修医師
栗原 大智(医師)

プロフィールをもっと見る
2017年、横浜市立大学医学部卒業。済生会横浜市南部病院にて初期研修修了。2019年、横浜市立大学眼科学教室に入局。日々の診察の傍らライターとしても活動しており、m3や日経メディカルなどでも連載中。「視界の質=Quality of vision(QOV)」を下げないため、診察はもちろん、SNSなどを通じて眼科関連の情報発信の重要性を感じ、日々情報発信にも努めている。日本眼科学会専門医。

急性出血性結膜炎の概要

急性出血性結膜炎(Acute Hemorrhagic Conjunctivitis, AHC)は、特定のウイルスによる感染が引き起こす急性の結膜炎の一種です。結膜とは、白目とまぶたの裏側を覆う薄い膜のことです。このウイルスに感染すると急速に症状が現れ、目が激しく赤くなったり腫れたり、結膜に出血が生じます。目の痛みや視力の低下を引き起こすこともあります。感染の原因はエンテロウイルス70型コクサッキーウイルスA24型など特定のウイルスです。急性出血性結膜炎は感染力が大変強く、特に子供や若年層に多く見られますが、全ての年齢層で発症する可能性があります。感染は手や物を介して広がることが多く、家庭や学校などで集団感染が発生することもあります。感染力が高いため短期間で広がりやすく、公衆衛生上の問題としても注目されています。熱帯地域で発生しやすいものの、アウトブレイク(集団発生)は世界中で報告されています。初めて確認されたのは1960年代後半のガーナで、その後、中国、インド、アメリカなど多くの国で記録されています。急性出血性結膜の発症は突然で、重症化することもありますが、多くの場合、1週間ほどで自然に治ります。原因や症状、診断方法、治療方法を理解することが、適切な対処と予防に役立ちます。

急性出血性結膜炎の原因

急性出血性結膜炎を引き起こす主なウイルスは以下のとおりです。

エンテロウイルスEV70
消化管に感染することで知られるウイルスですが、エンテロウイルスEV70と呼ばれるタイプは33〜34℃で増殖する特徴があり、眼球結膜に付着すると強烈な症状を引き起こします。
コクサッキーウイルスCA24v
コクサッキーウイルスCA24vもエンテロウイルスEV70と同様の特徴があり、直接接触により感染して重症の結膜炎を引き起こします。この2つのウイルスによる出血性結膜炎は臨床的にはほとんど区別できませんが、潜伏期は一般的にエンテロウイルス70型が約24時間、コクサッキーウイルスA24型が約2〜3日とされています。
アデノウイルス11型
通常は呼吸器感染症の原因となるウイルスですが、結膜炎も引き起こすことがあります。

これらのウイルスは以下の経路で感染が広がります。
直接接触
感染者の目や分泌物に触れるとウイルスが移ります。タオルや化粧品などの個人用品を共有することでも感染することがあります。
接触感染
手を洗わずに目に触れることで、ウイルスが目に入ります。特に衛生環境が整っていない場所では注意が必要です。学校やジム、共同生活施設など人が多く集まる環境では感染のリスクが高くなるため、衛生対策が重要です。

急性出血性結膜炎の前兆や初期症状について

急性出血性結膜炎の症状は、ウイルスに感染してから1〜2日以内に急速に現れることが多いです。主な初期症状は以下のとおりです。

異物感
目にゴミが入っているような不快感が出る場合があります。
涙目
刺激によって涙が多く出ることがあります。
まぶたの腫れ
炎症によりまぶたが腫れることがあります。
結膜浮腫(けつまくふしゅ)
目の表面に水ぶくれのような腫れが見られることがあります。
結膜下出血
結膜の小さな血管が破れて出血し、目が赤く見えることがあります。
光に対する過敏症(羞明)
光をまぶしく感じることがあります。
視界のぼやけ
目の腫れや分泌物の影響で視界がかすむことがあります。
全身症状
全身症状として発熱や頭痛、場合によっては呼吸器症状が出現することもあります。また、約1週間ほどで治癒することが多いものの、エンテロウイルス70型に感染した一部の患者さんでは、6〜12ヶ月後に四肢に運動麻痺が生じることがあります。

これらの症状が現れたら眼科を受診しましょう。

急性出血性結膜炎の検査・診断

診断は通常、眼科の医師が行います。具体的な診断方法は以下のとおりです。

問診
最近の感染者との接触や、症状、過去の目の病歴について質問します。
視覚検査
スリットランプという目を観察する特殊な顕微鏡を使って、炎症や腫れ、出血の有無を確認します。
サンプル採取
場合によっては綿棒で結膜からサンプルを採取し、どのウイルスが感染の原因かを調べることがあります。多くの場合、目の赤みや分泌物といった見た目の症状だけで診断が可能ですが、まれに合併症の疑いがある場合は追加の検査を行うこともあります。

急性出血性結膜炎の治療

現在、急性出血性結膜炎に対して特定の抗ウイルス薬は存在せず、主に症状緩和を目的とした対症療法が行われます。以下の方法が一般的です。
冷たいタオルを当てる
目の周りに冷たいタオルを当てると、腫れが軽減され、痛みが和らぎます。
人工涙液
市販の目薬で目を洗い、刺激を和らげることができます。
痛み止め
市販の鎮痛薬(例:イブプロフェン)で炎症に伴う痛みを軽減することが可能です。

医師の指示なくステロイド点眼薬を使用すると、二次感染や角膜潰瘍といった合併症のリスクがあるため、避けるようにしましょう。多くの場合、急性出血性結膜炎は5~7日以内に自然に治りますが、症状が悪化する、または改善が見られない場合は、再度医師に相談することをおすすめします。また、前述の通り、エンテロウイルスEV70による急性出血性結膜炎では、一部の患者さんで感染から6〜12ヶ月に手足の運動麻痺が起こることがあるため、注意が必要です。

急性出血性結膜炎になりやすい人・予防の方法

急性出血性結膜炎になりやすい人

以下の人々は急性出血性結膜炎にかかりやすいとされています。

子供
学校や遊び場などで頻繁に接触するため、感染しやすいです。
人が集まる環境にいる人
寮や軍隊の施設など、衛生状態が十分でない場所では感染リスクが高まります。
免疫力が低下している人
基礎疾患がある人は重症化するリスクがあります。

予防の方法

予防方法として、次の対策が推奨されます。

衛生を保つ

  • こまめに石鹸で手を洗うようにしましょう。
  • 手を洗わずに目や顔を触らないように注意してください。

個人の持ち物を共有しない

  • タオルや化粧道具、目薬を他人と共有しないようにしましょう。
  • エンテロウイルスやコクサッキーウイルスは乾燥した環境表面で数日間生存できますが、熱水消毒(80℃10分間)や消毒用エタノールにより失活させることができます。

共用エリアの消毒

  • ドアノブやジムの器具など、よく触れる場所を定期的に消毒することが大切です。
  • エンテロウイルスやコクサッキーウイルスは乾燥した環境表面で数日間生存できますが、消毒用エタノールにより失活させることができます。

体調不良時は外出を控える
体調不良時は外出を控え、特に他人との接触を避けるよう心掛けましょう。
早めの医師の診断
症状が出たり、感染者に接触した場合は、早めに医師の診断を受けることが望ましいです。

これらの予防策を守り、初期症状を認識することで、急性出血性結膜炎のリスクを大幅に減らすことができます。
以上のように、急性出血性結膜炎は、適切な衛生管理と予防策を講じることで感染を防ぐことができ、症状が出た場合も早期の対処が有効です。


関連する病気

  • アデノウイルス感染症
  • ヘルペスウイルス感染症

この記事の監修医師

S