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監修医師:
栗原 大智(医師)
目次 -INDEX-
黄斑ジストロフィーの概要
黄斑ジストロフィー(おうはんじすとろふぃー)は、目の奥にある網膜の中心部にある黄斑部に影響を与える遺伝性眼疾患の総称です。
黄斑は視力の中心を担う重要な部分であり、色を識別したり細かい形を見分けるために必要不可欠です。逆に、視野の端の部分(周辺視野)は大きな影響を受けません。
この病気は通常は進行性であり、視力が徐々に低下して読書や運転、人の顔を見分けることなどが次第に難しくなってゆく特徴があります。厚生労働省は黄斑ジストロフィーを難病に指定しています。
黄斑ジストロフィーにはいくつかの異なるタイプがありますが、主に遺伝子の異常によって引き起こされます。これにより、黄斑部の機能や構造が障害され、視力に影響を及ぼします。代表的な疾患として、卵黄状黄斑ジストロフィー(ベスト病)、スタルガルト病、オカルト黄斑ジストロフィー(三宅病)などがあります。それぞれの疾患は異なる遺伝子変異によって引き起こされるため、症状や進行具合も異なります。なお、高齢者に多い加齢黄斑変性症(AMD)は黄斑ジストロフィーではありません。
黄斑ジストロフィーの原因
黄斑ジストロフィーの主な原因は、網膜の構造や機能に影響を与える遺伝子の変異です。これらの変異によって、網膜の働きが正常でなくなり、徐々に黄斑の細胞が損なわれていきます。
代表的な疾患と遺伝パターン
1. スタルガルト病
スタルガート病は、ABCA4という遺伝子の変異が原因となり発症します。この遺伝子は網膜内でビタミンAを運ぶ役割を果たしているため、変異により網膜に毒性のある物質がたまって細胞が傷んでしまいます。スタルガート病の遺伝パターンは常染色体潜性(劣性)遺伝で、両親から受け継いだABCA4遺伝子が二つとも変異がある場合にのみ症状が出ます。
2. ベスト病
ベスト病はBEST1という遺伝子の変異が原因で、通常は子どもや若年期に発症します。黄斑に黄色い病変ができ、それが進行して視力が低下することがあります。
ベスト病の遺伝パターンは常染色体顕性(優性)遺伝で、両親から受け継いだBEST1遺伝子のどちらか一方に変異があれば症状が現れます。
3. オカルト黄斑ジストロフィー(三宅病)
オカルト黄斑ジストロフィー(三宅病)は、RP1L1遺伝子の異常により両目の視力低下と羞明(まぶしさ)が極めてゆっくり低下する特徴がある病気です。自覚症状の出現時期は10才頃から60才以上までと非常に幅があります。三宅病の遺伝パターンは常染色体顕性(優性)遺伝で、両親から受け継いだRP1L1遺伝子のどちらか一方に変異があれば症状が現れます。
4. 錐体ジストロフィーおよび錐体-杆体ジストロフィー
錐体ジストロフィーおよび錐体-杆体ジストロフィーは、黄斑ジストロフィーの代表疾患であり患者数も最多ですが、30種類以上の遺伝子変異が原因として知られています。遺伝形式も常染色体顕性(優性)遺伝、常染色体潜性(劣性)遺伝、X連鎖性潜性(劣性)遺伝と多様です。
家族に黄斑ジストロフィーがある方は、遺伝カウンセリングを受けることで、将来的なリスクについて理解を深めることができます。
黄斑ジストロフィーの前兆や初期症状について
黄斑ジストロフィーの症状は病気の種類や進行状況によってさまざまです。以下は、病気が進行するにつれて多くの方に見られる共通の症状です。このような症状に気付いたら、眼科を受診しましょう。
初期の症状
1. 視界がぼやける、ゆがむ
中心部分がぼやけたり、細かい文字や物の形がはっきり見えにくくなったりします。
2. 色の見分けが難しくなる
色の識別がしにくくなることがあります。
3. 中心部分に暗い部分が見える
進行するにつれて、中心視野に暗い点や見えない空白部分が現れることがあります。
4. 視力が低下する
特に理由がないのに、視力が落ちていきます。
症状が進行した場合
症状が進行すると、以下のような症状が現れやすくなります。
1. 視力の大幅な低下
中心視野がさらに見えにくくなり、生活に大きな支障をきたすことがあります。
2. 暗い場所での見えにくさ
暗い場所での視力が低下し、夕方や夜間などに特に見えにくくなります。
3. まぶしさへの敏感さ
光に対する敏感さが増し、強い光に不快感を覚えることがあります。
4. 中心視野の喪失
進行が進むと、中心視野がほとんど見えなくなります。視野の周辺は障害されにくいとされています。
こうした症状を早い段階で把握することが、早期の対処や治療につながります。
黄斑ジストロフィーの検査・診断
黄斑ジストロフィーを診断するには、いくつかの検査が行われます。
1. 医療歴の確認
眼科医が、家族の眼の病気の有無や自覚症状がいつから始まったかなど、詳しい医療歴を確認します。
2. 総合的な眼科検査
次のような基本的な検査が行われます。
視力検査
全般的な視力を確認するため、文字や数字を読んでもらいます。
散瞳検査
目薬で瞳孔を広げ、網膜や黄斑を詳しく観察します。
眼底写真撮影
眼底(網膜や黄斑など)の写真を撮り、異常の進行を確認します。
蛍光眼底造影
腕に造影剤を注射して、それが目に届く時点で網膜を撮影すると、動脈や静脈、出血などの情報が詳細に観察できます。
3. 専門的な画像検査
より詳しい評価には、以下のような画像検査が行われます。
網膜光干渉断層撮影(OCT)
眼底へ近赤外光を照射して反射光を捉えることで、網膜の断面を撮影できます。
網膜電図(ERG)
光に反応する網膜の働きを電気的に測定し、正常に機能しているかを確認します。
遺伝子検査
遺伝性の黄斑ジストロフィーが疑われる場合、特定の遺伝子変異を調べることがあります。
黄斑ジストロフィーの治療
現在のところ、黄斑ジストロフィーに対する特効薬はありませんが、症状を和らげたり生活の質を向上させるための方法があります。
1. ロービジョン
視力が低下している方のための支援方法として、以下のような方法が行われます。
視力補助器具
拡大鏡や特殊なレンズなど、視力を補うための器具が提供されます。
オリエンテーションと移動訓練
視覚障害のある方が安全に日常生活を送れるよう、移動や物の確認方法などの指導が行われます。
2. 栄養サポート
病気そのものを治す食事はありませんが、栄養を整えることで網膜の健康を保つことを期待してアドバイスします。
抗酸化物質
ビタミンCやビタミンEなど抗酸化物質を多く含む食品が、網膜の細胞を酸化ストレスから守る助けになります。
オメガ3脂肪酸
サケやアマニ種子に含まれるオメガ3脂肪酸は、目の健康をサポートする働きがあります。
3. 新しい治療法の研究
治療方法の研究も進んでおり、将来の治療に期待が寄せられています。
幹細胞治療
幹細胞を使って網膜の細胞を再生する試みが研究されています。
遺伝子治療
特定の遺伝子変異を修復することで黄斑ジストロフィーの進行を止める方法が模索されています。
黄斑ジストロフィーになりやすい人・予防の方法
黄斑ジストロフィーになりやすい人
黄斑ジストロフィーになりやすい人には以下のような特徴があります。
家族歴
家族内に同様の疾患を持つ人がいる場合、そのリスクが高まります。
年齢
あらゆる年代で発症しますが、症状が若年から始まる場合もあります。
特定遺伝子変異保有者
特定の遺伝子変異を持つ人々もリスク要因となります。
これらは直接的な予防策ではありませんが、自身と家族の健康管理として重要です。
予防の方法
予防の方法としては以下を考慮すると良いでしょう。
定期的な眼科検診
早期発見と早期対策につながります。特に家族歴がある場合には定期的な検査が推奨されます。
健康的な生活習慣
バランスの取れた食事や適度な運動で全身状態を良好に保つことも重要です。また、紫外線から目を守るために紫外線カット率の高いサングラスやメガネなども活用しましょう。
禁煙
喫煙は目に悪影響を及ぼすため、禁煙することでほかの目の病気の予防につながります。
関連する病気
- 加齢黄斑変性(AMD)
- 網膜色素変性症(RP)
- 進行性網膜萎縮症(PRA)