

監修医師:
伊藤 規絵(医師)
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旭川医科大学医学部卒業。その後、札幌医科大学附属病院、市立室蘭総合病院、市立釧路総合病院、市立芦別病院などで研鑽を積む。2007年札幌医科大学大学院医学研究科卒業。現在は札幌西円山病院神経内科総合医療センターに勤務。2023年Medica出版社から「ねころんで読める歩行障害」を上梓。2024年4月から、FMラジオ番組で「ドクター伊藤の健康百彩」のパーソナリティーを務める。またYou tube番組でも脳神経内科や医療・介護に関してわかりやすい発信を行っている。診療科目は神経内科(脳神経内科)、老年内科、皮膚科、一般内科。医学博士。日本神経学会認定専門医・指導医、日本内科学会認定内科医・総合内科専門医・指導医、日本老年医学会専門医・指導医・評議員、国際頭痛学会(Headache master)、A型ボツリヌス毒素製剤ユーザ、北海道難病指定医、身体障害者福祉法指定医。
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眼瞼下垂症の概要
眼瞼下垂は上眼瞼(上のまぶた)が下がってくる状態のことです。この状態は、視野の狭窄や視覚障害を引き起こし、患者さんの日常生活に支障をきたす可能性があります。 主な症状は、眠そうな外見による整容的な問題やまぶたが重く感じる、視界が狭くなる(特に上方視野)、また眼瞼下垂の代償的動作として眉毛を挙上したり、頸部後屈による頭痛や肩こりなどが挙げられます。 原因は、先天性眼瞼下垂(生まれつき眼瞼挙筋の機能不全や欠損がある)や後天性の退行性(加齢性)眼瞼下垂(腱膜性眼瞼下垂・上眼瞼皮膚弛緩症が混在)、その他の原因(神経障害、筋疾患、腫瘍など、さまざまな要因が関与)などに分類されます。 治療は主に外科的療法です。代表的な手術方法には「挙筋腱膜前転法・挙筋短縮術」や「重瞼部・眉毛下皮膚切除術」、「筋膜吊り上げ術」があります。手術後は、内出血や腫れ、左右差などの合併症に注意が必要です。また、ドライアイなどの眼科的問題が生じる可能性もあるため、術後の経過観察が重要となります。眼瞼下垂は適切な診断と治療により、視機能と整容面の改善が期待できる疾患です。眼瞼下垂症の原因
(1)先天性眼瞼下垂
主に上眼瞼挙筋の先天的な機能不全によって引き起こされます。これは出生直後から観察され、片側性が多く見られます。(2)後天性眼瞼下垂
1. 加齢性変化 最も一般的な原因で、まぶたの皮膚にたるみが生じる上眼瞼皮膚弛緩症や上眼瞼挙筋の腱の伸展(挙筋腱膜とミュラー筋のゆるみ)によって生じる腱膜性眼瞼下垂があります。 2. コンタクトレンズ長期装用 特にハードコンタクトレンズの長期使用により、上眼瞼挙筋の腱の伸展が起こり発生することがあります。 3. 神経障害 脳動脈瘤や糖尿病による動眼神経麻痺、肺癌に伴う交感神経の麻痺(ホルネル症候群)などが原因となります。 4. 筋疾患 重症筋無力症(Myasthenia Gravis:MG)などの神経筋接合部の障害によって引き起こされることがあります。 5. 外傷 眼周囲の外傷により発生する場合があります。 6. その他 脳梗塞、脳腫瘍なども原因となることがあります。 眼瞼下垂の原因は多岐にわたるため、適切な診断と治療のためには、専門医による詳細な検査が必要です。また、一見眼瞼下垂に見える眼瞼皮膚弛緩症や甲状腺眼症との鑑別も重要です。眼瞼下垂症の前兆や初期症状について
多くの場合、緩徐に進行するため、患者さん自身が気づきにくいことが特徴です。視覚的変化として、上眼瞼が通常より若干低い位置にあったり、二重幅(ふたえはば)が広がる傾向があります。自覚症状として、上方視野がわずかに狭くなる感覚やまぶたに軽い重さを感じる、目を開けるのにやや努力を要するなどが挙げられます。また代償性変化としては、無意識のうちに前頭筋を使用し、眉毛(まゆげ)が通常より高い位置にあったり、額(おでこ)にわずかなしわが形成されます。その他には、軽度の眼精疲労や頭痛、肩こりの頻度が増加する傾向があります。これらの症状は、日常生活に大きな支障をきたすほどではありませんが、徐々に進行する可能性があります。眼瞼下垂の初期段階では、瞼縁角膜反射距離(Marginal Reflex Distance-1 :MRD-1)と呼ばれる、上眼瞼縁から角膜反射(瞳孔中央)の中心との距離が2.7mm以下になることが診断の目安となります。 早期発見と適切な管理が重要であり、これらの症状が持続する場合は、眼科医による専門的な診断を受けることが推奨されます。眼瞼下垂の病院探し
眼科や脳神経内科(または神経内科)の診療科がある病院やクリニックを受診して頂きます。眼瞼下垂症の検査・診断
(1)視診と問診
患者さんの目の状態を視診し、症状の発症時期や進行状況、日内変動の有無などを詳細に問診します。これにより、先天性か後天性か、また原因疾患の可能性を推測します。(2)定量的評価
1)MRD-1 MRD-1は、角膜反射(瞳孔中央)から上眼瞼の縁(まつ毛の生えている部分)までの距離を測定します。正常値は2.7〜5.5mmで、1.5〜2.7mmを軽度下垂、-0.5〜1.5mmを中等度下垂、-0.5mm以下を重度下垂と判定します。 2)瞼裂高 角膜の最下端から上眼瞼縁までの距離を測定します。通常10mm以上が正常で、6〜9mmを中等度〜軽度下垂、5mm以下を重度下垂と判定します。(3)機能検査
1)挙筋機能検査 眉毛を固定した状態で、最大下方視から最大上方視までの上眼瞼の移動距離を測定します。8mm以上が正常、4〜7mmが中等度〜軽度下垂、3mm以下が重度下垂と判定されます。 2)プジー検査 細い金属棒(プジー)を上眼瞼に当て、皮膚のたるみ、挙筋の筋力、ヘリング現象の有無などを確認します。ヘリング現象とは
片方の眼瞼下垂がある場合に、症状の重い方の眼を治療すると、治療した眼とは逆の眼の開きが悪くなる現象を指します。この現象は、眼瞼挙筋とミュラー筋の相互作用に関連しています。眼瞼下垂の鑑別診断
眼瞼下垂の原因が特定の疾患による可能性がある場合、以下の検査を行うことがあります。 MG 抗アセチルコリン受容体抗体検査、塩酸エドロホニウム(テンシロン)試験、反復刺激試験、アイスパック試験など 脳梗塞・脳動脈瘤 CT、MRI検査 糖尿病性神経障害 血糖値検査、神経伝導検査、眼底検査 これらの検査結果を総合的に評価し、眼瞼下垂の程度や原因を診断します。適切な診断は、効果的な治療法の選択につながるため重要です。眼瞼下垂症の治療
原因や重症度に応じて適切な方法が選択されます。(1)保存的治療
軽度の眼瞼下垂や一時的な症状の場合、経過観察や原因疾患の治療が行われます。例えば、MGや脳動脈瘤による眼瞼下垂は、原疾患の治療により6〜12ヶ月程度で自然回復することがあります。(2)外科的治療
多くの場合、手術による治療が必要となります。主な術式は以下の通りです。 1. 挙筋短縮術 上眼瞼挙筋の機能が保たれている場合に適用されます。眼瞼挙筋自体を短縮することで、まぶたの挙上力を強化します。 2. 挙筋腱膜前転術 腱膜性眼瞼下垂に対して行われる術式です。眼瞼挙筋の腱膜を前方に移動させ、まぶたの挙上力を回復させます。 3. ミュラー筋タッキング 軽度から中等度の眼瞼下垂に適しています。ミュラー筋を短縮し、腱膜を強化する方法です。 4. 前頭筋吊り上げ術 上眼瞼挙筋の機能が著しく低下している場合に選択されます。前頭筋の力を利用してまぶたを挙上します。人工材料や自家組織を用いて、前頭筋とまぶたを連結します。 手術は通常、局所麻酔下で行われ、症例によっては日帰り手術も可能です。小児の場合は全身麻酔下で実施されることが多くなります。術後は、一定期間の経過観察が必要です。通常、翌日と1週間後に診察が行われ、1週間後に抜糸となります。その後も定期的な通院で経過を確認し、必要に応じてケアを行います。眼瞼下垂の治療は、視機能の改善だけでなく、審美的な側面も考慮して行われます。適切な治療法の選択と熟練した技術により、自然な外観と機能の回復が期待できます。眼瞼下垂の対処法
MGによる眼瞼下垂は厚生労働省の特定疾患(指定難病)に指定されており、治療費の助成を受けることができます。眼瞼下垂症になりやすい人・予防の方法
加齢による筋力低下が進行している高齢者やコンタクトレンズの長期使用者、頻繁に目をこする習慣がある人(アレルギー性結膜炎患者さんなど)、などがなりやすい傾向にあります。 予防方法には、まず目の負担軽減が挙げられます。適切な睡眠と休息を取る、長時間のデジタル機器使用を避ける、定期的に目を休ませるなどです。 また、眼瞼挙筋のトレーニングも有用です。まゆげを固定しながら、まぶたを意識的に開閉する運動を行います。 生活習慣の改善として、目をこすらない、アイメイクは薄めにし、優しく落とす、コンタクトレンズの使用時間を制限するなどが挙げられます。 さらに、定期的な眼科検診は早期発見・早期治療につながります。 これらの予防法を日常生活に取り入れることで、眼瞼下垂のリスクを軽減できる可能性があります。ただし、先天性や神経疾患による眼瞼下垂は予防が困難なため、専門医の診断と適切な治療が必要です。参考文献




