監修医師:
柳 靖雄(医師)
鼻涙管閉塞の概要
鼻涙管閉塞(びるいかんへいそく)は、涙が眼から鼻腔へ流れる経路である「鼻涙管」が閉塞または狭窄することで、涙の排出がさまたげられる疾患です。
正常な状態では、涙は涙腺で産生され、眼の表面を潤した後、涙点から涙小管を通って涙嚢(るいのう)に集められ、鼻涙管を経て鼻腔へと排出されます。
しかし、鼻涙管閉塞が起こると排出経路が遮断されて涙が涙嚢にたまり、涙嚢炎が起きて目やにや涙目、涙嚢の腫れ、眼の感染症などが現れます。
鼻涙管閉塞は、先天性と後天性の2つに大別されます。
先天性鼻涙管閉塞は、鼻涙管の発達不全によって引き起こされ、新生児の6〜20%に認められる症状です。
乳児の涙道疾患のなかで最も頻度が高いとされています。
先天性の場合、多くは経過とともに鼻涙管が自然に開通することがあり、生後12ヶ月までに約96%が自然治癒すると報告されています。
(出典:日本涙道・涙液学会「先天鼻涙管閉塞診療ガイドライン」)
後天性鼻涙管閉塞は主に成人や高齢者に見られ、鼻涙管周囲の炎症や腫瘍、外傷、手術などによって鼻涙管が狭窄することで発症します。
原因となる疾患の治療で改善しない場合は、閉塞部位を切開してシリコンチューブを留置したり、涙嚢と鼻腔の間に通り道を形成したりする手術をおこなうこともあります。
鼻涙管閉塞の原因
先天性の鼻涙管閉塞は、発達の過程で鼻涙管が鼻腔へ開口する部位に薄い膜が残り、完全に開通しないことで起こります。
鼻涙管に薄い膜が残る原因ははっきりとわかっていません。
後天性の鼻涙管閉塞は加齢や感染症、サルコイドーシス、多発血管線性肉芽腫、上顎洞などの悪性リンパ腫、鼻骨骨折や顔面骨折の手術の既往、化粧品のつまりなどが原因で起こります。
鼻涙管閉塞の前兆や初期症状について
鼻涙管閉塞の初期症状は、涙目や起床時のめやにです。
先天性の場合は、生後1ヶ月以内で初期症状が目立つようになります。
違和感により無意識に眼をこすることで、眼瞼炎や結膜炎を合併することもあります。
涙嚢にたまった涙が細菌感染すると涙嚢炎が起こり、長引くと涙嚢周囲炎や眼窩蜂窩織炎(がんかほうかしきえん)へ重症化する可能性があります。
鼻涙管閉塞の検査・診断
先天性の場合、診断は蛍光色素試験や涙管通水検査でおこなわれることが一般的ですが、必要に応じて内視鏡検査が用いられることもあります。
後天性の場合、涙管通水検査やTMH検査、内視鏡検査、画像検査で診断します。
蛍光色素試験
蛍光色素試験はフルオレセインという蛍光色素を点眼し、色素が涙点から吸収されるか確認する検査です。
点眼から15分経っても残留する場合は、鼻涙管に排出障害があると診断できます。
涙管通水検査
涙管通水検査は、局所麻酔下で涙点から針を挿入し、生理食塩水を流し入れて閉塞の有無を確認する検査です。
鼻涙管閉塞が起きていると、生理食塩水が正常に通過せず逆流します。
涙嚢炎が合併している場合は、逆流した生理食塩水に膿が混じることもあります。
TMH検査
角膜とまぶたの間にたまる涙の高さを測り、眼の表面に涙の量がどの程度あるか確かめる検査です。
鼻涙管閉塞では眼にたまる涙の高さが正常値よりも高くなります。
内視鏡検査
内視鏡検査では涙道内視鏡や鼻内視鏡で、鼻涙管内や鼻腔内の状態を確認します。
状態が詳細に把握できるため、鼻涙管が閉塞している原因がわかり、腫瘍の発見につながることもあります。
しかし、鼻涙管の外側にある腫瘍は見つけられないため、他の画像検査を併用することも多いです。
画像検査
画像検査では主にCT検査とMRI検査が用いられます。
CT検査ではX線を使用することで、鼻涙管周囲の骨構造や軟部組織の詳細な観察が可能です。
MRI検査は磁場を利用して、鼻涙管周囲の腫瘍や炎症性変化の有無について評価できます。
鼻涙管閉塞の治療
先天性の場合は涙嚢マッサージや点眼薬で経過を見ることが多く、自然治癒しない場合は鼻涙管開放術の適応になります。
後天性の場合は基礎疾患の治療や鼻涙管洗浄が優先されますが、治療後も改善が見られない場合は、涙管チューブ挿入術や涙嚢鼻腔吻合術などがおこなわれます。
涙嚢マッサージ
先天性の鼻涙管閉塞では、1日に3〜4回ほど、眼の内側や鼻の付け根を人差し指で押しながらマッサージします。
涙嚢炎が起きている場合は、マッサージ後に抗菌薬で点眼します。
鼻涙管開放術
鼻涙管開放術は涙点から細い針金を鼻涙管に刺して閉塞の原因となっている膜を突き破る手術です。
1歳以上で鼻涙管開放術が適応される場合は、全身麻酔下でおこないます。
より正確に閉塞部位を判断するために、涙道内視鏡を用いておこなうこともあります。
鼻涙管洗浄
鼻涙管洗浄は生理食塩水で鼻涙管を洗浄してつまりを取り除く方法です。
鼻涙管の開口部に管を挿入して洗浄液を流し込み、異物が流れれば、鼻から水がでてくるのを確かめられます。
涙管チューブ挿入術
涙管チューブ挿入術は局所麻酔で鼻涙管の閉塞部分を切開し、シリコンチューブを留置して閉塞を防ぐ手術です。
シリコンチューブは2〜3ヶ月後に抜去する必要があるため、その後再閉塞が起こることもあります。
涙嚢鼻腔吻合術
涙嚢鼻腔吻合術(るいのうびくうふんごうじゅつ)は、全身麻酔によって涙嚢と鼻腔の間に別の通り道を形成する手術で、他の治療法で改善が得られない場合に選択されることが多いです。
鼻の中から治療する鼻内法と、鼻の外側から皮膚を切開する鼻外法の2種類があり、どちらの方法を選択するかは患者の状態や閉塞の程度によって判断されます。
鼻涙管閉塞になりやすい人・予防の方法
鼻涙管閉塞は特定の人がなりやすいわけではありませんが、予防策を心がけることで発症リスクを抑えられる可能性があります。
特に化粧をする人は、ファンデーションなどの化粧品が鼻涙管につまることで閉塞が起こる場合があるため、化粧品の使用と洗顔には十分に注意しましょう。
健康管理も大切で、規則正しい食事や十分な睡眠、手洗いやうがいを習慣化して、感染症を予防することが鼻涙管閉塞の予防にもつながります。
先天性の鼻涙管閉塞が見られる乳児の場合は、症状の悪化を防ぐために適切な涙嚢マッサージをおこなうことが推奨されています。
関連する病気
- 涙嚢炎
- 先天涙嚢瘤
- 涙嚢周囲炎
- 眼科蜂窩織炎
- 涙点閉鎖
- 涙小管欠損
- 新生児結膜炎
参考文献