監修医師:
柳 靖雄(医師)
目次 -INDEX-
視神経炎の概要
視神経炎とは、目に入る光を脳に伝える視神経に炎症が起こる疾患です。視神経は眼球の後ろに位置し、目に入る光を電気信号に変えて脳に伝える重要な役割を持ちます。
視神経炎では「副鼻腔炎」や「多発硬化症」「髄膜炎」などのさまざまな疾患や、本来体を守るはずの免疫が誤って視神経を攻撃してしまう「自己抗体」などが原因となり、視神経に炎症をきたします。その結果、目がかすんで見えたり視野が欠けたりするほか、視力の低下、眼球の痛みなどの症状が生じることがあります。
1995年の疫学情報によると、視神経炎は10万人に約2人の確率で発症し、そのうち全体の66%を14歳〜55歳までの人が占めると報告されています。
視神経炎治療では、原因となる疾患を治療するほか、副腎皮質ステロイドや免疫抑制薬を用いた薬物療法、血液中の不要な物質を除去する「血漿浄化療法」などが行われます。
出典:難治性疾患等政策研究事業(難治性疾患政策研究事業)難病情報センター「視神経炎」
視神経炎の原因
視神経炎は、抗MOG抗体や抗アクアポリン4抗体による自己抗体の攻撃や、動脈硬化、多発性硬化症、鼻性視神経炎などによって発症します。
しかし、特別な原因なく発症するケース(特発性視神経炎)が最も多いです。
視神経炎の前兆や初期症状について
視神経炎では、急激な視力の低下や視野の欠損が起こるほか、目を動かすときに痛みを感じたり、瞳の大きさが変化したりすることがあります。赤や緑などの特定の色があせて見えることもあります。
視神経炎は片目に発症するケースが多いですが、両目に発症するケースもあります。
視神経炎の検査・診断
視神経炎が疑われる場合は、一般的な視力検査や視野検査に加え、眼底検査や蛍光眼底造影検査、中心フリッカー検査、光干渉断層計(OCT)などの眼科検査や、血液検査、MRI検査、造影CT検査、髄液検査、側頭動脈生検などの全身検査が行われます。
眼底検査
眼底を観察して視神経や網膜、血管などの状態を調べる検査です。散瞳薬を点眼して瞳孔を広げ、眼底部を観察します。眼底カメラと呼ばれる特殊なカメラを使用して記録する事もあります。
蛍光眼底造影検査
「フルオレセイン」と呼ばれる色素を含む造影剤を注射して、眼底の状態を詳しく調べる検査です。注射した造影剤は心臓を通って視神経にたどり着くため、その経過をカメラで追って確認します。
中心フリッカー検査
視神経の機能を調べる検査です。点滅する光に対する感度を調べることができます。
光干渉断層計(OCT)
近赤外線を利用して目の奥にあたる眼底部の輪切り画像(断層像)を調べる検査です。視神経線維の厚さなどを調べることができます。
血液検査
全身の状態を調べるために行います。感染症や体内の炎症反応の有無、視神経に対する自己抗体の有無などを調べます。
MRI検査
強力な磁気を利用して体内の組織の断面図を調べる検査です。視神経の炎症の程度や脳の疾患の有無を調べるために行います。
造影CT検査
造影剤を投与して体内の組織の断層像を確認する検査です。通常のCT検査では確認できない細かい病変も確認できます。
髄液検査
脳や脊髄に存在する髄液を採取する検査です。背中に針を刺して脊髄の周りの空間に流れる髄液を採取し、その中に含まれるタンパク質などの状態を顕微鏡で確認します。
側頭動脈生検
側頭動脈と呼ばれる血管を一部採取し、顕微鏡で詳しく調べる検査です。検査は脳神経外科で全身麻酔によって行われます。
視神経炎の治療
視神経炎の原因となる疾患の治療に加え、状態に応じてステロイドパルス療法や免疫グロブリン大量療法、血漿浄化療法などが行われます。最近では、分子標的薬が使われる事もあります。
ステロイドパルス療法
炎症を抑える作用のある副腎皮質ステロイド薬を点滴で大量に投与する治療法です。一般的に、3日間の点滴と4日間の休薬を1クールとして1〜3回程度行います。
免疫グロブリン大量療法
血液中のタンパク質である免疫グロブリンを投与する治療法です。免疫グロブリンには、免疫機能を調整する役割があります。入院のうえ、5日間連続して投与します。
血漿浄化療法
血液中に含まれる自己抗体や炎症物質を取り除く治療法です。人工透析の機械を使用して血液を取り出し、不要な物質を取り除いて体内へ戻します。患者さんの状態に合わせて隔日もしくは週に2〜3回の頻度で行います。
視神経炎になりやすい人・予防の方法
視神経炎では慢性副鼻腔炎や動脈硬化、多発性硬化症などのさまざまな疾患が原因になります。何らかの疾患を発症している場合には、適切な治療を受け症状のコントロールと再発防止に努めることが、視神経炎の発症予防にもつながります。
身体に不調を感じている場合は、放置せず速やかに医療機関を受診して適切な治療を受けることが大切です。