監修医師：
栗原 大智（医師）
後発白内障の概要
後発白内障は、白内障手術を受けて数ヶ月から数年の後に発生することがある合併症の一つです。医学的には「後嚢混濁」と呼ばれ、手術で取り除かれた水晶体の袋（後嚢）が再び濁ることによって視力が低下する状態を指します。
後発白内障と呼ばれますが白内障が再発したわけではなく、手術後に残った水晶体上皮細胞が増殖して後嚢を濁らせることで発生します。発症率は、手術後1年で約10%、3年で約20%、5年で約30%とされており、比較的一般的な合併症です。
後発白内障の原因
後発白内障の主な原因は、白内障手術時に水晶体嚢内に残った水晶体上皮細胞の増殖です。具体的には、以下のようなメカニズムで発生します。
1. 水晶体嚢の残存細胞
白内障手術では、濁った水晶体を取り除く際に水晶体嚢の前面を切開し、その中に眼内レンズを挿入します。このとき嚢の内部、特に後ろ側（後嚢）に水晶体上皮細胞が残ります。
2. 細胞の増殖
残った水晶体上皮細胞が時間とともに増殖し、後嚢に広がってゆきます。この増殖によって後嚢が濁り、視力が低下する原因となります。
3. 高齢や糖尿病
高齢者や糖尿病患者さんは細胞の代謝が低下しやすく、後発白内障のリスクが高まります。
4. 眼内炎症
手術後の眼内炎症が強い場合、細胞の増殖が促進されることがあります。
これらの要因が組み合わさることで、後発白内障が発症します。
後発白内障の前兆や初期症状について
後発白内障の初期症状は、通常の白内障と似ていて、以下のような特徴があります。
視力の低下
物がかすんで見えたり、ぼやけて見えることがあります。特に明るい場所での視力が悪化することが多いです。
光のまぶしさ
光を眩しく感じることがあり、特に夜間の運転時に影響が出ることがあります。
視野の変化
視野が狭く感じることがあり、物の輪郭がはっきりしなくなることがあります。
色の変化
色の見え方が変わることがあり、特に白や青の色が鈍く感じられることがあります。
これらの症状は、手術後数週間から数年の間に徐々に現れることが多く、初期段階ではあまり自覚されないこともあります。症状が現れたら眼科を受診しましょう。
後発白内障の検査・診断
後発白内障の診断は、主に以下の方法で行われます。
1. 問診
患者さんの症状や病歴、白内障手術の時期について詳しく聞き取ります。
2. 視力検査
視力の低下があるかどうかを確認します。
3. 眼科検査
細隙灯顕微鏡を用いて、眼の状態を詳しく観察します。この検査により、後嚢の濁りを確認することができます。
4. 散瞳検査
散瞳剤を使用して瞳孔を広げ、より詳細な検査を行います。これにより、後発白内障の診断精度が向上します。
これらの検査を通じて、後発白内障の診断が確定されます。特に、細隙灯顕微鏡検査は後発白内障の診断に不可欠で、後嚢の濁りの程度や範囲を評価することができます。また、散瞳検査を行うことで、後嚢の詳細な観察が可能となり、診断の精度が高まります。
後発白内障の治療
後発白内障の治療は、主に以下の方法が用いられます。
1. YAGレーザー治療
後発白内障の最も一般的な治療法は、YAGレーザーを用いた手術です。この治療では、レーザーを使って後嚢に小さな孔を開け、濁りを取り除きます。治療は外来で行われ、通常は数分で完了します。痛みはほとんどなく、術後の回復も早いです。レーザー照射によって飛び散った後嚢の破片が一時的な飛蚊症を起こすことはありますが、自然に改善します。
2. 定期的な検査
治療後も定期的に眼科での検査を受けることが重要です。視力の変化や眼の健康状態を確認し、必要に応じて追加の治療を行います。レーザー治療を行うと、濁りを起こした後嚢が消失するため後発白内障が再発することはありません。
3. 点眼薬の使用
一部のケースでは、点眼薬を使用して炎症を抑える必要がある場合もありますが、これは後発白内障の根本的な治療ではありません。
後発白内障は、YAGレーザー治療で速やかに視力を回復できるため、視力低下がある方には治療が勧められます。
後発白内障になりやすい人、予防の方法
後発白内障は、以下のような人々に多く見られます。
白内障手術を受けた人
すべての白内障手術を受けた患者さんに発生する可能性がありますが、発症時期は個人差があります。
高齢者
年齢が上がるにつれて、細胞の代謝が低下し、後発白内障のリスクが高まります。
糖尿病患者
糖尿病は、目の健康に悪影響を与えるため、後発白内障のリスクが増加します。
眼内炎症のある人
手術後に炎症が強い場合、後発白内障が発生しやすくなります。
白内障手術を受けた患者さんは、誰もが後発白内障を発症する可能性があります。ただし、発症率には個人差があり、高齢者や糖尿病患者、手術後の眼内炎症が強い人では、リスクが高くなる傾向にあります。
予防の方法
後発白内障を完全に予防することは難しいですが、以下の方法でリスクを減少させることができます。
- バランスの取れた食事や適度な運動を心がけ、全体的な健康を維持することが大切です。特に、抗酸化物質を含む食品（例：緑黄色野菜、果物）を摂取することが推奨されます。
- サングラスを使用して紫外線から目を保護することが、白内障の進行を遅らせる効果があるとされています。
- 糖尿病患者さんは、血糖値を適切に管理することで、後発白内障のリスクを減少させることができます。
