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神宮 隆臣

監修医師
神宮 隆臣(医師)

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熊本大学医学部卒業。熊本赤十字病院脳神経内科医員、熊本大学病院脳神経内科特任助教などを歴任後、2023年より済生会熊本病院脳神経内科医長。脳卒中診療を中心とした神経救急疾患をメインに診療。脳神経内科疾患の正しい理解を広げるべく活動中。診療科目は脳神経内科、整形外科、一般内科。日本内科学会認定内科医、日本神経学会専門医、日本脳卒中学会専門医、日本脳血管内治療学会専門医、臨床研修指導医の資格を有す

眼瞼けいれんの概要

眼瞼けいれんは目を開閉する筋肉(眼輪筋)の不随意収縮により、目の開閉が自分の意思とは関係なく起こってしまう状態です。
まばたきの制御に問題が起きていると考えられています。
眼瞼けいれんには明確な原因がわからない本態性のほかに、薬物の副作用やほかの病気が原因となる二次性とに分類されます。
この筋肉の不随意収縮には、間欠的なものと持続的なものの2種類があります。間欠的な収縮ではまばたきのような眼を閉じては開くような不随意運動が起こります。
一方、持続的な収縮では、目がしばらくの間閉じたままになる状態です。

場合によっては目の周りの筋肉だけでなく、顔面にもけいれんの症状が広がって顔面けいれんになる、メージュ症候群と呼ばれる状態になります。

眼瞼けいれんの原因

日本には少なくとも30〜50万人以上の眼瞼けいれんの患者さんがいると推定されています。
眼瞼けいれんが発症する機序は明らかにされていません。
40〜50歳以上で多く発症し、女性は男性の2〜2.5倍もかかりやすいです。

原因が特定できない本態性の眼瞼けいれんはほかに、薬剤性、症候性があります。薬剤性の場合、原因と考えられる薬物の内服を中止で改善することもあります。

薬剤性の眼瞼けいれんの例としては抗精神病薬や抗不安薬、睡眠剤などがあります。しかし、元々の疾患が悪化する可能性があるため、自己中断は絶対にしてはいけません。内服薬については主治医とよく相談しましょう。

眼瞼けいれんの前兆や初期症状について

眼瞼けいれんが生じるときには、ドライアイや眼精疲労が合併していることがあります。
眼瞼けいれんの前兆には「目が乾く」「ゴロゴロする」といったドライアイ様の症状があります。

しかし、ドライアイや眼精疲労に対する治療でも改善しない場合は眼瞼けいれんが隠れているかもしれません。

  • 眉毛が下がる
  • 眉間・鼻根部のしわが深くなる
  • まばたきの回数が増える
  • 眼を開けているのがつらい
  • まぶしく感じる

ストレスや日光、風、騒音などが誘因となり、眼を開けているのがつらい症状が生じます。
そのため歩行中に眼を閉じてしまい、人やものとぶつかる可能性があるため注意が必要です。

なお、眼瞼けいれんの治療を放置してしまうと、自力で眼を開けることが困難となる重症な眼瞼けいれんの例もあります。

眼瞼けいれんの症状が生じたときの受診科は以下のとおりです。

  • 眼科
  • 脳神経内科
  • ボツリヌス外来

眼瞼けいれん様の症状がある場合でも、稀なケースで脳に腫瘍ができている場合があります。
眼瞼けいれんを疑う症状がある場合は早めに専門科を受診してください。

眼瞼けいれんの検査・診断

眼瞼けいれんが疑われるときには、視診による検査、そして瞬目テストとよばれる「まばたき検査」を行います。

視診
開瞼困難、瞬目増多、顔面皺の多発、眉毛の下降、ほかの顔面筋の不随意の攣縮がないかを調べます。

速瞬テスト
速瞬テストはできるだけ速く(10秒間に30回以上)、連続してリズミカルにまばたきを促します。眼瞼けいれんであれば、まばたきが速くできず、リズミカルにもできず、だんだん開瞼できないという症状が生じます。

軽瞬テスト
軽いまばたきを規則的に促します。眼瞼けいれんであれば、眉毛も動く強いまばたき、けいれん様のまばたき、まばたきそのものができません。
強瞬テスト
眼瞼を強く閉じさせ、その後開く動作を繰り返すよう促します。眼瞼けいれんであれば、動作の反復中に瞼を開けなくなったり、強い顔面筋のれん縮がみられます。

医師は上記のテストをもとに、眼瞼けいれんの評価や重症度を評価し診断します。

眼瞼けいれんの治療

本態性の眼瞼けいれん治療では、ボツリヌス療法と呼ばれる「ボツリヌス毒素製剤」の眼瞼周囲注射が治療の第一選択です。3〜4ヶ月程度の効果は持続します。
症状が再発したときには再投与しますが、3ヶ月以内の再投与は避けます。
副作用として、低用量であっても軽度の閉瞼不全が一時的ではありますが、ほぼ全例でみられるので、その際は保湿などで保護する必要があります。

「ボツリヌス毒素製剤」のほかには以下のような治療方法があります。

内服治療

眼瞼けいれんに対して、医師の判断により以下の内服薬を症状の軽減を目的で使う場合があります。

  • 抗てんかん薬
  • 抗コリン薬
  • 抗不安薬
  • 抗けい縮薬
  • 選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)

眼瞼けいれんの症状に、ボツリヌス療法と組み合わせて患者さんに合うと考える内服薬を医師が選択します。

しかし、内服薬の種類によっては、以下のような副作用が出現する可能性もあるので注意が必要です。

内服薬の種類は医師の判断により選択されるので、医師の指示のもと内服する必要があります。

なお、内服治療による副作用が出現してしまい、自己判断で急に中断すると、眼瞼けいれんやもともとの病気が悪化してしまう可能性があります。副作用が出現したときは、自己判断で中断せず医師に相談しましょう。

誘因となる刺激を避ける

本態性の眼瞼けいれんは原因不明の疾患であるため、個別の症状に対しての対症療法になります。
以下の2種類は誘因となる刺激を避けるための方法です。

遮光眼鏡
一般的なサングラスとは異なり、目に入る光の一部を遮ることで、まぶしさを抑え、けいれんを生じにくくすることが可能です。
クラッチ眼鏡
クラッチと呼ばれる押し上げ棒のついた眼鏡で目を開きやすくします。眼瞼けいれんの患者さんで見られる、眉の近くを軽く押さえると目が開けやすくなる現象(感覚トリック)を利用しています。

外科的治療

眼瞼けいれんの外科的治療には以下の方法があります。

  • 眼瞼皮膚切除術
  • 眼輪筋切除術など

上記の治療は治療の第一選択であるボツリヌス療法を行っても改善しないような、重症で治療困難な眼瞼けいれんに対する外科的治療です。

眼瞼けいれんになりやすい人・予防の方法

本態性の眼瞼けいれんは原因が不明であり、残念ながら効果的な予防の方法はありません。
しかし、眼瞼けいれんになりやすい人の特徴から、休息や睡眠をとることで改善する例があります。眼瞼けいれんの症状が生じている場合、普段の生活では無理をせず、ストレスをためすぎないよう注意しましょう。

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