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角膜ヘルペス
柳 靖雄

監修医師
柳 靖雄(医師)

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東京大学医学部卒業。その後、東京大学大学院修了、東京大学医学部眼科学教室講師、デューク・シンガポール国立大学医学部准教授、旭川医科大学眼科学教室教授を務める。現在は横浜市立大学視覚再生外科学教室客員教授、東京都葛飾区に位置する「お花茶屋眼科」院長、「DeepEyeVision株式会社」取締役。医学博士、日本眼科学会専門医。

角膜ヘルペスの概要

角膜ヘルペスは、単純ヘルペスウイルス(HSV)による角膜の感染症です。

HSVには1型(HSV-1)2型(HSV-2)があり、角膜ヘルペスの多くは1型で起こります。
1型は、口唇ヘルペスを引き起こすウイルスと同じものです。

角膜ヘルペスの症状は、眼の異物感や痛み、充血、羞明(まぶしさ)などで、物がかすんで見えたり、視力が低下することもあります。

角膜ヘルペスは、はじめてHSVに感染したときは無症状なケースがほとんどです。
しかし、数年の時間がたった後に免疫力が低下したり、ストレスを受けたときに症状がでることがあります。

種類は角膜にHSVが増殖する部位から、上皮型と実質型、内皮型の3つにわかれます。
どの病態でも、角膜知覚が低下する特徴がありますが、それぞれ所見や重症度が異なります。

上皮型角膜ヘルペス

上皮型角膜ヘルペスは、角膜表面の上皮層にHSVが増殖して欠損が起こる病気です。
上皮層の欠損の広がりによって、樹枝状角膜炎と地図状結膜炎にわかれます。樹枝状角膜炎の所見は上皮層の欠損が木の枝のような状態で、地図状結膜炎の所見はそこからさらに広がって地図のように見える状態です。
上皮型角膜ヘルペスの再発が繰り返し起こると、実質型角膜ヘルペスに移行するケースもあります。

実質型角膜ヘルペス

実質型角膜ヘルペスは、角膜の中間にある実質層の細胞にウイルスが増殖する病気で、円板状角膜炎と壊死性角膜炎にわけられます。
円板状角膜炎の主な所見は角膜の浮腫やシワ、付着物、混濁などです。
円板状角膜炎の状態から再発を繰り返すと、角膜に血管が侵入したり、脂肪が沈着したりして壊死性角膜炎に移行します。
症状が悪化すると、栄養障害性角膜潰瘍や角膜脂肪変性などの二次性病変が起こる可能性もあります。

内皮型角膜ヘルペス

内皮型角膜ヘルペスは、角膜の最も内側にある内皮層にウイルスが感染して起こる病気ですが、病態は明確ではありません。
特徴的な所見として、角膜内皮細胞の数の減少や、角膜と結膜の境界部分の炎症を伴う眼圧上昇などが起きているケースがあります。

角膜ヘルペスの原因

角膜ヘルペスの原因は、主に幼児期におけるHSVの感染です。

ほとんどの人は幼児期において口腔や上気道、眼の一部でHSVに感染します。
侵入したHSVは脳神経のひとつである三叉神経をわたって体内に潜伏します。

感染時は何もないことがほとんどですが、数年たった成人期ごろに過労やストレス、風邪などの免疫低下を引き起こすと、それが原因となって再活性し、症状が出現します。

角膜ヘルペスの前兆や初期症状について

角膜ヘルペスの初期症状は、眼のかすみや異物感、充血、無意識に涙がでるなどです。

角膜ヘルペスは早期治療が重要なので、初期症状がでた段階で医療機関に受診することが望ましいです。

角膜ヘルペスの検査・診断

角膜ヘルペスが疑われる場合は、細隙灯顕微鏡検査で角膜の状態を確認した後、分離培養同定や蛍光抗体法でHSVの有無を調べて確定診断となります。
補助診断として、PCR法や角膜知覚検査が用いられることもあります。

細隙灯顕微鏡検査

細隙灯(さいげきとう)顕微鏡検査は、フルオレセインという黄色の薬品で眼を染色し、専用の拡大鏡で眼の表面を確認する検査法です。
フルオレセインによって細胞が傷ついた部位に色がつくため、角膜の欠損状態が観察しやすくなります。
上皮層の欠損状態を観察することで、樹枝状角膜炎や地図状結膜炎の所見がわかります。

分離培養同定

分離培養同定は、眼の表面を綿棒でこすって採取したウイルスを、分離させて培養する検査です。
培養して詳しく調べることで、角膜に付着しているウイルスの有無や量、種類を特定できます。

蛍光抗体法

蛍光抗体法では、角膜から採取したウイルスに蛍光色素で標識された抗体を添付して、反応がでるか確かめます。
採取したウイルスがHSVだと抗体が反応して結合し、光を放出するため、顕微鏡で観察できる仕組みになっています。

PCR法

PCR法は点眼で麻酔をした後に角膜からウイルスを採取し、専用の機械でウイルスの遺伝子を調べる検査です。
角膜ヘルペスの場合は、体内に潜伏していて病気の原因になっていないHSVを検出させないために、リアルタイムPCR法が有用とされています。

角膜知覚検査

角膜知覚検査はConchet -Bonnet 角膜知覚計という知覚計を用いて検査します。
知覚計の先端に付着しているナイロン糸を角膜の中央に垂直に当てたときの感じ方や、反応を確かめます。
知覚計はナイロン糸が短いほど圧迫力が強い仕組みになっているため、ナイロン糸が40mm未満でも反応がない場合や、左右差が大きい場合は角膜の知覚低下と判断します。

角膜ヘルペスの治療

角膜ヘルペスの治療では、主にアシクロビル眼軟膏やステロイド点眼を使用し、重症例の場合ではバラシクロビルの内服や、角膜移植術をすることもあります。

アシクロビル眼軟膏

アシクロビル眼軟膏は、角膜のHSVの増殖を防ぐ軟膏です。
1日に5回の投与が原則で、症状が完全に治るまで2週間ほど使用します。
使用開始してから1週間ほどたっても効果が見られない場合は他の原因が疑われます。

ステロイド点眼

ステロイド点眼とは炎症を抑える点眼薬で、実質型角膜ヘルペスの治療ではアシクロビル眼軟膏と併用することが多いです。
特に上皮型角膜ヘルペスと実質型角膜ヘルペスが併発している場合は、投与を中止すると再発しやすいため、終了時期は医師の指示に従うことが大切です。

バラシクロビル内服薬

バラシクロビルは、HSVの増殖を抑える抗ウイルス薬です。
角膜ぶどう膜炎や壊死性角膜炎がある重症例で内服することがあります。

角膜移植術

角膜移植術は、全身麻酔をした後に病気の角膜を切除して、提供眼からの角膜をナイロン糸で縫い付ける手術です。
薬物療法で効果がない場合や、強い瘢痕性の角膜混濁があるケースで適応になります。

角膜ヘルペスになりやすい人・予防の方法

角膜ヘルペスは、免疫力が低下していると発症しやすくなります。

予防には、規則正しい食事と十分な睡眠をとって過労やストレスをためないようにすることが大切です。

一度発症すると再発しやすい病気なので、自己判断で軟膏や点眼薬をやめないことも重要です。


関連する病気

  • 上皮型角膜ヘルペス
  • 実質型角膜ヘルペス
  • 内皮型角膜ヘルペス
  • 感染症角膜炎
  • 遷延性角膜上皮欠損(せんえんせい角膜上皮欠損)
  • 栄養障害性角膜潰瘍
  • 角膜脂肪変性
  • 角膜融解(かくまくゆうかい)
  • 角膜穿孔(かくまくせんこう)

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