監修医師:
柿崎 寛子(医師)
霰粒腫の概要
霰粒腫はまぶたの内側に生じた固い小さな腫瘤のことで、いわゆる「ものもらい」の一種です。
腫瘤は1センチ未満のものであることが多く、発症率に性差はないと考えられています。
小児から高齢者まであらゆる年齢に生じる可能性がありますが、30〜50歳の成人期に発症する人が多い傾向にあります。
同じく「ものもらい」である麦粒腫と並んで身近な目の病気と言えるでしょう。
霰粒腫は麦粒腫とよく似ていますが、霰粒腫は細菌感染を伴わない無菌性の炎症によって生じます。
また、霰粒腫は麦粒腫よりもまぶたのより深いところに生じる傾向にあります。
一般的な霰粒腫に痛みはありませんが、細菌感染を起こすと発赤と痛みが伴う場合もあります。
大抵は数週間程度で自然に消失しますが、しばらく経過観察しても残存する場合は医療機関で適切な治療が必要となります。
霰粒腫と似た症状の病気
霰粒腫との鑑別が必要になる病気として、
- 麦粒腫
- 涙嚢炎
- 涙小管炎
- 眼窩蜂窩織炎
- 悪性腫瘍
などが挙げられます。
特に、眼窩蜂窩織炎や悪性腫瘍の場合は症状が進行する可能性があり、早めの対処が必要なこともあります。
同じような症状を伴う眼の病気の場合は、霰粒腫との鑑別が重要です。
また、霰粒腫と似た症状も呈する別の病気を示唆する症状として、
- 急な視覚の変化
- 発熱
- 目の動かしにくさ
- 広範囲に渡るまぶたや顔面の腫脹
などがあります。
霰粒腫の原因
マイボーム腺(瞼板腺)と呼ばれる皮脂腺の出口が詰まり、まぶたの内部に粥状の分泌物が溜まって肉芽腫性炎症反応が起こります。
通常、感染は起こっていません。
マイボーム腺のほかツァイス腺と呼ばれる腺の出口が詰まって発症することもあり、マイボーム腺の閉塞による霰粒腫を深部霰粒腫、ツァイス腺の閉塞による霰粒腫を表在性霰粒腫と呼ぶことがあります。
マイボーム腺は皮膚と粘膜の間にあるまぶたの縁に存在し、脂成分を分泌して目を乾燥から保護する働きを持っています。
上まぶたに約30〜40 ヶ所、下眼瞼に約20〜30ヶ所あると言われており、いずれかの場所が閉塞し、詰まってできるのが霰粒腫です。
上まぶたに発生することが多いと言われています。
同じような場所に発症する麦粒腫は、まつ毛の毛根などに細菌感染する外麦粒腫、マイボーム腺に細菌感染する内麦粒腫の3種類です。
内麦粒腫が慢性化すると霰粒腫となる可能性もあります。
また、さまざまな原因でびまん性のマイボーム腺機能低下により慢性的な目の不快感を覚える「マイボーム機能不全」という病気があります。
霰粒腫は局所的なマイボーム腺の異常であり、マイボーム機能不全には当てはまらないものの、似ている疾患と考えられています。
霰粒腫の前兆や初期症状について
まぶたの腫れや腫瘤が主な症状ですが、初期は腫瘤が目立たずにはっきりしない場合があります。
細菌感染を起こすと疼痛や発赤を伴うことがありますが、珍しい症状です。
炎症を伴う霰粒腫は、麦粒腫と似た症状が出ることがあり「急性霰粒腫」と呼ばれます。
霰粒腫の主な症状として、
- まぶたの腫瘤
- まぶたの腫脹
- 発赤
- 疼痛
などが挙げられます。
まれに、霰粒腫が角膜を圧迫する位置にできた場合は乱視を誘発して視界がぼやける可能性があるほか、大きな霰粒腫は機械的眼瞼下垂の原因になる場合があります。
霰粒腫の前兆や初期症状が見られた場合に受診すべき診療科は、眼科です。
霰粒腫は眼瞼にできる炎症性の腫瘤であり、眼科で診断と治療が行われています。
霰粒腫の検査・診断
霰粒腫の場合、特別な検査は必要なく、まぶたの状態や自覚症状などの問診や視診によって診断されます。
麦粒腫との鑑別は、痛みの有無で行われる場合が多い傾向です。
高齢者や特定の部位に再発した人に対しては、悪性腫瘍との鑑別が必要になるため病理検査を行うことがあります。
腫瘤を摘出し、組織を調べて良悪性を判定します。
霰粒腫の治療
視力低下などの問題がなく、特に治療をしなくても内容物が自然に排出、吸収されることもあります。
経過観察を行っても良いですが、数週間〜数ヶ月と長期間に渡る可能性、そのまま残存する可能性があります。
治療せずに放置した場合、まぶたの変形につながる眼窩隔膜前蜂窩織炎の発症リスクが高まります。
また、小児でサイズの大きな霰粒腫が生じた場合、放置すると弱視のリスクがあります。早めに医療機関を受診しましょう。
温罨法
霰粒腫があまり大きくなく、発生してから時間が経過していない場合に行われることがあります。
蒸しタオルなどでまぶたを覆い、皮脂腺の詰まりを温めて内容物の排出や吸収を促す保存的療法です。
温湿布を1日2〜4回、15分間当てます。
場合によっては、まぶたにベビーシャンプーを使うのも効果的だと言われており、1ヶ月ほどで改善しなければ医療機関で治療が推奨されます。
薬の投与
早期の霰粒腫は、霰粒腫内に直接炎症副腎皮質ステロイド薬を注入して治療できる場合があります。
サイズが大きい場合、一度注入してから再注入が必要となる可能性もあります。
炎症が起きている急性霰粒腫に対しては、炎症を抑えるために抗生物質などを投与します。
抗生物質は10日間ほど投与されるのが一般的です。
手術
最も効果的な治療法です。霰粒腫が大きい場合、発生してから時間が経っている場合は、患部を切開または切除して貯留している内容物を霰粒腫の袋ごと取り出します。
腫瘤は複数個に分れていることもあります。また、止血は圧迫のみで行うため、手術後にまぶたの皮下出血が広範囲に生じることがあります。
炎症が起きている場合は、ある程度落ち着いてから手術が行われます。
再発した霰粒腫は、悪性腫瘍を否定するために生検し、組織を病理検査する必要があります。
その他
まだ実験段階ですが、CO2レーザー、ボツリヌス注射、超鋭利ループ使用の外科手術といった治療法が検討されています。
霰粒腫になりやすい人・予防の方法
霰粒腫になりやすい人として、現在のところ明確なエビデンスを持って挙げられている条件はありません。霰粒腫の原因を考えると、霰粒腫になりやすい人は、マイボーム腺が詰まりやすい人と言えるでしょう。
メイクをきちんと落としきれていない、目の周りが汚れやすい方はマイボーム腺が詰まりやすく、霰粒腫ができやすいと考えられます。
一方で、成人の霰粒腫再発のリスク因子としてデモデックスダニ(毛包虫)という種類のダニが特定されています。
また、霰粒腫に特別な予防法はありません。
しかし、まぶたを定期的に洗って清潔にすること、温めることによってある程度予防効果が得られると考えられています。
参考文献