監修医師:
柳 靖雄(医師)
ドライアイ(乾性角結膜炎、涙液減少症)の概要
ドライアイの定義と診断基準は、1995年にドライアイ研究会により確立され、2006年と2016年に改訂されました。2006年改訂の定義では、自覚症状・涙液異常・角膜上皮障害の3つの項目が揃った場合にドライアイと診断されていました。しかし、2016年改訂では涙液層の不安定疾患であり、眼の不快感や視機能異常が生じる眼表面の障害を伴うことがあるとされています。
ドライアイの診断基準は、BUT(フルオレセイン染色による検査)が5秒以下であり、自覚症状が伴うことです。シルマーテストが5秒以下でもBUTが5秒を超えた場合には、ドライアイの症状があっても確定診断に至りません。ドライアイの病態は涙液層の不安定性だけではなく、角膜知覚異常のメカニズムが働いているとの考えもあり、ドライアイの症状の不明点はいまだ議論されています。
涙液が異常をきたす原因は、マイボーム腺※不全による油層成分の分泌量低下や、シェーグレン症候群による涙液分泌量の低下・分泌型ムチンの低下などです。そして、角結膜上皮表面にある膜結合型ムチンが上皮表面の乾燥に関与していることも考えられますが、いずれにしても涙液を安定させることが重要です。
※瞼の皮脂腺の一部
ドライアイ(乾性角結膜炎、涙液減少症)の原因
涙液は主に油層と液層の2層で構成されています。
ドライアイは涙液の不足や涙液の質の低下で眼表面に涙が均一に行き渡らなくなる病気です。ドライアイには涙の分泌量が減少する量的異常と涙の成分の異常という2つのタイプがあります。
量的異常
ドライアイは涙液が減少して目が乾燥状態になる病気です。加齢・ストレス・空気の乾燥(冷暖房の空調)などは、涙液の蒸発を促すため目が乾燥した状態が長く続いて涙液量が減少します。夜型の生活・運動不足・食生活の変化などの生活環境もドライアイの要因です。パソコン・スマートフォン・テレビなどは現代社会では欠かせないものですが、画面を長時間見続けると瞬きが少なくなり目の潤いが減少します。涙の分泌量はリラックスした状態では増加し、ストレスや緊張で交感神経が優位になると涙液は減少し、安定した分泌量を維持できなくなります。
成分異常
成分異常とは脂質成分・たんぱく質成分の減少や角結膜上皮の異常が原因で眼表面に涙が留まらないため、5秒以内に表面が乾いてしまう状態のことです。アイメイクやコンタクトレンズの使用で目の表面が傷つく場合があります。角膜の手術や内科的疾患(シェーグレン症候群・スティーブンスジョンソン症候群など)がある人は、薬の副作用などで涙液の成分が変化してドライアイになることがあります。シェーグレン症候群は自己免疫疾患ですが、涙腺や唾液腺に乾燥症状を起こすためドライアイの原因疾患として取り上げられることが少なくありません。そして、スティーブンスジョンソン症候群は涙腺が破壊され涙がでなくなる原因となる疾患です。
ドライアイ(乾性角結膜炎、涙液減少症)の前兆や初期症状について
ドライアイはさまざまな自覚症状がでます。目が乾く病気ですが、乾く感覚を自覚する人はあまりいません。
症状
以下がドライアイの症状です。
- 目が疲れやすい
- 重い
- ゴロゴロする
- ヒリヒリと痛い
- 不快感
- 痒み
- 目やに
- 充血
- 目のかすみ
- 光に敏感
- 朝目が開けにくい
- 悲しくても涙がでない
症状には個人差がありますが、症状が5項目以上ある場合は、ドライアイの可能性があります。また、ドライアイで視力が低下する場合もあります。
ドライアイ(乾性角結膜炎、涙液減少症)の検査・診断
角結膜の障害は、ムチン(粘液の主成分)の分泌障害が起き涙の粘膜が不安定になり、さらに角結膜障害が進行するようになります。
ドライアイの検査では涙液の異常や眼表面の傷の有無を検査します。
シルマーテスト
シルマーテストは、涙液の量を測定する検査です。シルマーテストには3つの方法があります。第1法は、角膜に触れないで耳側下瞼に試験紙を挿入します。第1法変法は、点滴麻酔科で第1法と同じ測定を行う方法です。第2法は、鼻腔粘膜を綿棒で刺激して反射性の涙液分泌機能を測定します。
ドライアイ研究会では、自然瞬目状態で第1法を行う測定方法を推奨しています。しかし、自然瞬目状態では角結膜が受ける刺激で再現性や信頼性が低下するおそれも捨てきれません。
そのため、閉瞼状態で試験紙を下瞼に挟んで5分間の涙の量を調べる方法が一般的になっています。10mm以上濡れている場合は正常値で、5mm以下の場合はドライアイと診断されます。
BUT検査
BUT検査は、涙液層の破壊時間を測定して涙の質を検査する方法です。染色液を点眼後10秒間瞬きを我慢して目を開き、目を開いてから涙の層が乱れるまでの時間を測定します。
顕微鏡検査
顕微鏡検査は、染色液を点眼して浸透度をスリットランプで確認する検査です。フルオレセイン染色液を用いた検査は、染色液を少量点眼し、顕微鏡で角膜の傷を確認します。マイボーム腺検査は、赤外光を用いた脂腺の機能を調べる検査です。
診断
ドライアイの診断は、2016年に改訂された日本のドライアイの定義と診断基準(ドライアイ研究会)にしたがって行います。フルオレセイン染色による測定でカットオフ値が5秒以下は陽性と判断され、BUT検査や涙液層の破壊パターンの評価などと自覚症状が診断の基準になります。なお、ドライアイに起因するシェーグレン症候群の診断は、1999年のシェーグレン症候群改訂診断基準に基づき行われるのが一般的です。
症状があった場合には、眼科を受診しましょう。
ドライアイ(乾性角結膜炎、涙液減少症)の治療
ドライアイの治療は、眼表面の涙液と眼表面の上皮を層別に治療するTFOT(Tear Film Oriented Therapy)の考えのもとで行われます。
眼鏡やゴーグルの装着は、涙液の蒸発を抑制する簡便な方法で、点眼液や涙点プラグは装着の煩わしさをなくして涙液を留めることが可能です。
薬物療法
基本的な治療法は点眼液です。人工涙液をこまめに点眼して眼表面の涙液を増加させる方法で、頻回に点眼する場合は防腐剤の入っていないものを選びます。人工の涙液は塩化ナトリウムと塩化カリウムが主成分です。ヒアルロン酸ナトリウム点眼液は、涙液の安定化と角膜上皮の創傷治療作用に効果があります。保湿作用や表面の乾燥を長時間防止する効果が期待されるため、ドライアイ治療薬として頻繁に使用されています。ジクアホソルナトリウム点眼およびレパミピド点眼なども開発され、模結合型ムチンを正常に戻し涙液を安定させる分泌型ムチンを結膜胚細胞から放出させることが可能です。なお、ジクアホソルナトリウム点眼液は結膜上皮細胞から直接水分を放出できるため、乾燥が強いドライアイの人の治療には欠かせません。ドライアイの病態によっては、抗炎症系点眼液(免疫抑制剤・ステロイド剤など)を併用します。
涙点プラグ
涙液の排出口にシリコーン製の特殊なプラグで栓をして、涙点を塞ぐことで涙を眼表面に長時間留めるものです。涙点プラグは、涙液の貯瘤を劇的に改善する効果が期待できます。またコラーゲン製の涙点プラグも開発されシリコーン製より閉鎖効果はやや劣りますが、閉鎖後の異物感や肉芽を形成する心配がありません。
外科的治療
ドライアイの症状が重い場合は、涙点を焼却して閉鎖させる涙点閉鎖術がありますが、これは涙点プラグが対応不可だった場合の外科的治療法です。
ドライアイ(乾性角結膜炎、涙液減少症)になりやすい人・予防の方法
ドライアイを発症している人は2,200万人といわれています。加齢や環境が大きく影響していると考えられますが、ドライアイは内科的疾患がある人や角膜移植の手術の副作用で起こる場合もあるので、要因を1つに特定することはできません。
長時間冷暖房完備の乾燥した部屋にいる人・運転で連続して目を使う人・コンタクトレンズを装着している人は、涙液が蒸発しドライアイを発症しやすくなります。また、パソコンやスマートフォンで画面を何時間も見続ける人は、瞬きが減り目が乾燥するためドライアイを発症するリスクが高くなります。
予防方法
ドライアイは生活習慣病ともいわれているため、環境を整えることがドライアイの予防になるのです。空調が直接目にあたらないようにしたりパソコンやテレビは低い位置に置いたりして、こまめに目薬をさすことで涙液の蒸発を減らせます。ドライアイの傾向がある人は、コンタクトレンズの使用時間は短めにして眼鏡に変えるとリスクを減らすことになります。瞬きの回数が少ない人はドライアイになりやすいため、瞬きの回数を意識的に増やすと目の乾燥を軽減できるのでドライアイの予防に有効です。さらに目の疲労を感じたら休憩を取り、目を温めることで眼精疲労を回復する効果があります。