監修医師:
柳 靖雄(医師)
斜視の概要
斜視とは、両眼の視線が正しく目標に合致せず、外見的に眼の位置(眼位)がずれている(右眼と左眼の視線が違う場所に向かっている)状態です。
ちなみに斜位とは、通常は両眼とも同じ場所を見ていますが、片眼ずつ調べると視線がずれている状態です。
斜視の原因としては、先天素因、解剖学的異常、筋・脳神経麻痺、屈折・調節障害などが知られており、早期発見・早期治療が重要とされています。
治療法は、斜視の種類や年齢によって異なりますが、視力の改善、眼位の矯正、両眼視機能の獲得を目標としています。
斜視の原因
斜視には、乳児性(先天性と記載しないのは出生時の真性斜視の存在はまれであり、生後6ヶ月以内に発症するものも含まれるため)と後天性(生後6ヶ月を過ぎてから発症するもの)があります。
乳児性斜視は遺伝疾患(ダウン症候群およびCrouzon症候群)や低出生体重、脳性麻痺、頭蓋顔面部および筋骨格系の眼異常があります。
後天性斜視には以下があります。
1) 神経疾患(第3脳神経、第4脳神経、第6脳神経麻痺)
2) 腫瘍(網膜芽細胞腫など)
3) 頭部外傷
4) 屈折異常(強度の遠視や近視)
5) ウイルス感染(脳炎や髄膜炎)
6) 甲状腺眼症
スマートフォン(スマホ)の長時間使用による弊害
特に若年層を中心に斜視の発症リスクを高めています。
スマホを長時間見続けることで、ピントを近くに合わせる調節作用が十分に弛緩せずに固定してしまいます。
調節作用と連動して、眼球を内側に向ける「内直筋」の作用力が強い状態で続くと、片側の目が寄り目のまま戻らなくなり、スマホ急性内斜視が発症します。
これは、ある日突然発症し、自覚しにくいため発見が遅れがちとなります。
斜視の前兆や初期症状について
複視(物体が二重に見える)や混乱視(物体が重なって見える)、目の疲れ、立体感や奥行き感覚の低下、頭痛や目の痛み、急激な視力低下などの症状が現れます。
両眼の焦点が合わなくなり、物体が二重に見えるため、勉強や仕事に支障をきたします。
また頭位異常(首をかしげる、顔を曲げる、顎を上げるなど)や片眼つぶりなどの代償症状も認められます。
斜視の種
眼位ずれの方向によって、内斜視、外斜視、上下斜視、回旋斜視に分類されますが、水平と上下、回旋斜視が合併することもあります。
常に斜視になっているものを恒常性斜視、斜視のときと斜視でないときがあるものを間歇性斜視といいます。
恒常性斜視(斜視の症状が常に起こる)は両眼視機能の発達が損なわれます。
小児によくみられるのは乳児内斜視、調節性内斜視、間歇性外斜視、先天上斜筋麻痺などです。
斜視の前兆や初期症状が見られた場合に受診すべき診療科は、眼科です。
斜視は眼の位置異常であり、眼科で診断と治療が行われています。
斜視の検査・診断
視力の発達途中で物体が明瞭に見えない状態が続くと弱視になるリスクがあるため、早期発見・早期治療が重要です。
よって、乳幼児期から定期的な検査を行うことが推奨されています。
乳幼児期は、生後6ヶ月から1秒で両眼同時に屈折や眼位の異常を検出する機器を使用して検査を行います。
3歳頃になると、視力検査表を使用した視力検査が可能となります。学童期以降は以下にあげた検査を行えるようになります。
1) 医師による評価
眼球や網膜に異常がないかを確認します。
2) 視力検査
乳幼児の弱視、強度の近視や乱視が原因となる場合があるため視力の低下の有無を確認します。
3) 屈折検査
近視、遠視、乱視の度数を調べます。
*強度の遠視が原因の調節性内斜視など
4) 遮蔽試験
片眼を遮蔽して、もう一方の眼球の動きを観察する試験です。斜視眼が中心窩に像を結ばない場合、眼球が動く復位運動が見られます。
5) 赤緑ガラス試験
赤と緑のフィルターを使い、両眼に異なる像を投影します。
正常な両眼視機能があれば2色が重なった像を結びますが、斜視があると像が2つに分離します。
6)眼位写真撮影検査
眼球の位置を写真に記録し、斜視角度を定量的に測定します。
7)角膜反射試験
両眼をペンライトなどの光源に当て、角膜の反射位置が両眼で一致するかを観察します。
斜視があれば反射位置が異なります。
8)注視眼球運動検査
注視点を動かして眼球運動を観察し、外眼筋障害の有無を確認します。
動眼神経や外転神経、滑車神経障害による斜視の診断に有用です。
9)点眼薬を使った検査
必要に応じて行います。
以上の検査結果から、斜視のタイプ・性質・原因などを総合的に判断します。
斜視の鑑別診断
1) 偽斜視との鑑別
偽斜視は両眼の視力が正常で、鼻梁が広いまたは内眼角贅皮(ぜいひ)または蒙古襞が大きいために、側面から見ると内斜視のように見える状態です。
角膜反射試験や遮蔽試験が正常であれば、偽斜視と診断が可能です。
2) 麻痺性斜視との鑑別
麻痺性斜視は、突然の複視を自覚することが特徴です。
原因として、脳動脈瘤や脳腫瘍、脳梗塞、脱髄疾患などの可能性があるため、早急に脳CTやMRI検査などで原因を特定する必要があります。
動眼神経麻痺の場合は、麻痺側の眼球運動障害や眼瞼下垂、瞳孔異常(瞳孔散大)などの特徴的な症状が見られます。
3) 全身疾患に伴う斜視との鑑別
甲状腺眼症や重症筋無力症などの全身疾患が原因で後天性に斜視が生じる場合があります。
以上のように、斜視の鑑別には詳細な眼所見と全身状態の評価が重要であり、必要に応じて画像検査や眼科以外の他科との連携が求められます。
斜視の治療
1) 眼鏡やコンタクトレンズによる治療
遠視や近視、乱視などの屈折異常がある場合は、眼鏡やコンタクトレンズで矯正します。
特に、小児の近視は視力の発達を阻害し内斜視の原因となるため、遠視を完全に矯正する眼鏡が必要です。
2) 遮閉法
斜視でない方の眼を眼帯やアイパッチで覆い、斜視眼だけで使用することで斜視眼の神経を刺激します。
また、大型弱視鏡などの器具を使って眼そのものの機能を強化して斜視を治療する両眼視機能訓練もあります。
3) 手術による治療
眼球に付いている筋肉(外眼筋)を後方にずらす「後転法」や前方へずらす「前転法」があります。
*乳幼児や小学生は全身麻酔下で、大人は局所麻酔下で行うことが多いようです
4)調節麻痺薬による治療
アトロピン点眼薬を使い調節力を抑制し、遠視を矯正します。
5) ボツリヌス療法
外眼筋にボツリヌス毒素を注射することで、外眼筋の収縮力を一時的に弱めて、位置を調節するが、効果は3〜4ヶ月ほどで一過性です。
治療法は斜視の種類や年齢により異なります。
早期発見・早期治療が重要で、乳幼児から定期的な検査を行うことが推奨されます。
異常が見られた場合は早めに眼科を受診し、適切な治療を受けることが大切です。
斜視になりやすい人・予防の方法
斜視になりやすい人
1) 乳児性斜視の危険因子のある人
- 家族歴(第1度または第2度近親者)
- 遺伝性疾患(ダウン症やCrouzon症候群)
- 出生前の薬物暴露(アルコールなど)
- 未熟性または低出生体重
- 先天性の眼異常:出生児からの眼の欠損や変形、不完全な発育など
- 脳性麻痺
2) 遠視の人:調節性内斜視になりやすい
3) デジタル機器の長時間使用者:スマホやゲーム機器の使いすぎで目の疲労が蓄積する
4) 外傷や手術歴のある人:眼窩骨折や眼筋損傷で両眼視ができず、視力の低下した側の眼が斜視になる
5) 眼疾患や全身疾患のある人:脳腫瘍や脳梗塞、甲状腺眼症などで麻痺性斜視になる
予防方法
- スマホは目から30cm以上離し、視線に対して垂直の位置に保つようにする
- 20〜30分に1回はスマホから視線を外し、20秒以上遠くの景色を見る
- 異変を感じたら早めに眼科を受診し、適切な治療を受ける
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