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緑内障
柳 靖雄

監修医師
柳 靖雄(医師)

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東京大学医学部卒業。その後、東京大学大学院修了、東京大学医学部眼科学教室講師、デューク・シンガポール国立大学医学部准教授、旭川医科大学眼科学教室教授を務める。現在は横浜市立大学視覚再生外科学教室客員教授、東京都葛飾区に位置する「お花茶屋眼科」院長、「DeepEyeVision株式会社」取締役。医学博士、日本眼科学会専門医。

緑内障の概要

緑内障は、進行性の視神経損傷を特徴とする眼疾患で、視力に不可逆的な障害を引き起こす可能性があります。日本での失明原因の1位は、緑内障といわれています。緑内障は年齢を問わず発生しますが、60歳以上では発症リスクが約6倍に増加します。
眼球内は房水と呼ばれる液体で満たされています。房水は毛様体で産生され、線維柱帯やシュレム管などの流出路を通って排出されていますが、房水の流出が阻害されると眼圧が上昇し、視神経にダメージを与えます。視神経が障害されると、視力は低下します。眼圧は房水の分泌と排出のバランスで決まり、流出路の狭窄や閉塞が眼圧上昇の主要因となります。
しかし、眼圧の上昇は高眼圧症を伴わないケースもあり、正常眼圧緑内障の例もあります。視神経の血流減少や内部の損傷感受性も、緑内障の発症に関わると考えられています。

緑内障の原因

緑内障の発症原因は明確にはわかっていないものの、眼圧が高い状態が続くと発症リスクが高まるとされています。眼圧の正常範囲は10〜20mmHgですが、これを超えると視神経への負担が増し、緑内障のリスクが高まります。なお、正常範囲内の眼圧でも視神経が障害される正常眼圧緑内障もあり、個人差があります。

緑内障の発症には、眼圧以外にも加齢や遺伝、生活習慣、糖尿病、環境、近視、薬の影響など多様な要因が関与しています。遺伝的要因として、いくつかの原因遺伝子が判明しており、血縁者に緑内障の方がいる場合、発症リスクが高くなります。また、染色体異常や結合組織異常に関連した先天性緑内障や糖尿病網膜症による緑内障も存在します。

ストレスも発症に関与すると考えられており、自律神経のバランスを乱して血流を悪化させることで、眼圧上昇や視神経への負担が増加する可能性があります。

目の酷使自体が直接的な発症原因とはなりませんが、軽い視野障害がある状態で目を酷使すると、眼精疲労や頭痛が増加し、症状悪化につながることがあります。特に長時間のスマートフォン使用などが問題となります。

生活習慣も緑内障のリスクを高める要因です。睡眠時無呼吸症候群も視神経に悪影響を与えます。さらに、下を向いた姿勢を長時間続けるデスクワークや喫煙も血流を悪化させ、眼圧を上げる要因となります。

緑内障の前兆や初期症状について

緑内障は、開放隅角緑内障閉塞隅角緑内障があり、さらに原発性と続発性に分類されます。その病型によって症状や徴候が異なりますが、共通して見られるのは視神経の障害と視野欠損です。視神経乳頭の異常が典型的な特徴であり、視神経に損傷が生じることで、視野が徐々に狭くなっていきます。緑内障の初期段階では自覚症状がほとんどないといわれているため、知らないうちに病気が進行していることも少なくありません。視野の変化も緩やかで、異常を感じにくいのが特徴です。視野欠損は、初期には見えにくい部分がわずかに広がる程度であり、日常生活に支障を感じないことがほとんどですが、進行すると視野が狭くなり、見え方に顕著な変化が現れます。

一方、急性緑内障発作が発生すると、眼圧が急激に上昇し、目の痛みや頭痛、吐き気、嘔吐などの激しい症状が現れます。この急性閉塞隅角緑内障は時間が経つ程、治療が難しくなるため、早急な対処が必要です。発作の前兆は、目の痛み、頭痛、霞がかった視界(霧視)などがあり、これらの初期症状はほかの病気と混同されやすいため注意が必要です。緑内障の前兆や症状は多様であり、速やかに眼科へ受診して早期発見と適切な治療を受けることが重要です。

緑内障の検査・診断

緑内障の診断は、視神経の特徴的な変化と視野欠損を確認し、ほかの原因の除外が重要です。緑内障が疑われる場合には、いくつかの検査が行われます。

眼圧検査は緑内障の診断で重要です。眼圧の測定方法には、目の表面に直接器具を当てる方法と、空気を吹きかけて測定する方法があります。眼圧が20mmHgを超える場合は眼圧が高いと判断します。しかし、眼圧が正常範囲内でも緑内障が進行していることがあります。
眼底検査では視神経乳頭の状態を観察し、視神経の損傷を評価します。緑内障の場合、視神経乳頭の陥凹が変形していることが特徴的です。
視野検査も重要で、視野の欠損の有無や範囲を確認します。視野の欠損は緑内障の進行度を示す指標となります。視野欠損が見られる場合、病気の進行状況の定期的なモニタリングが重要です。
その他、中心角膜厚の測定、視神経および網膜神経線維層の画像検査(光干渉断層撮影)、隅角鏡検査などの詳細な検査も行われます。これらの検査により、視神経乳頭の三次元的な構造や、隅角の状態が詳細に把握されます。

緑内障の治療

緑内障の治療の主な目標は眼圧を低くコントロールし、病気の進行を抑えることです。治療法には、薬物療法、レーザー手術、観血的手術の3つがあります。

薬物療法

薬物療法は、眼圧を下げるために主に点眼薬を使用します。薬は房水の産生を減少させたり、房水の流出を助けたりする作用があります。治療は1種類の点眼薬から始め、効果が不十分な場合には2〜3種類の薬を併用します。点眼薬が効果を示さない場合、内服薬が追加されることもあります。

点眼薬の使用にはいくつかの注意点があります。1回1滴で十分な量を守り、点眼後は目頭を軽く押さえて薬の吸収を助けます。また、複数の点眼薬を使用する場合は、5分程度の間隔をあけての点眼が推奨されます。

レーザー手術

レーザー手術では、線維柱帯形成術などが行われ、既存の房水排出経路を改善します。この方法は非侵襲的であり、患者さんにとっての負担が少ないのが特徴です。

観血的手術

観血的手術には、濾過手術(線維柱帯切除術)緑内障インプラント手術(緑内障チューブシャント手術)などがあります。これらの手術は、前房から結膜下腔への新たな排出経路を形成し、眼圧を低下させます。新しい手術技術では、全層の瘻孔を作らずに房水の排出を促す方法もあります。

治療の選択

眼圧が30mmHgを超える患者さんは、視野が正常で視神経乳頭に異常が見られなくても治療が推奨されます。継続的な治療と定期的な検査が、緑内障の進行を管理するために重要です。

緑内障になりやすい人・予防の方法

緑内障になりやすい方の特徴として、家族に緑内障の方がいる場合や、糖尿病、強度近視、ステロイドホルモン剤の使用歴がある人、目に外傷を受けたことがある方が挙げられます。その他、高齢(60歳以上)、高血圧、貧血、片頭痛の既往歴がある人、痩せている方も注意が必要です。さらに、レーシックなどの屈折手術を受けたことがある方は、角膜が薄いため眼圧が低く測定されやすく、緑内障が見逃されるリスクがあります。閉塞隅角緑内障は、特に遠視の方に多く発症する傾向があります。

緑内障の原因は明確ではなく、遺伝や生活習慣、服薬などが複雑に絡み合っています。そのため、緑内障予防で重要なことは、定期的な眼科検診です。40代以上の方は半年から1年に一度の検診、若年層でも血縁者に緑内障の方がいる場合や強度近視の場合は検査を受けましょう。今まで眼科を受診したことがない人も、リスクを認識し、定期的に検診を受けることが重要です。
また、糖尿病や高血圧などの生活習慣病を予防し、良質な睡眠、バランスの取れた食事、適度な運動を心がけることが大切です。喫煙は若年層の緑内障リスクを高めるため、禁煙が推奨されます。ストレスを溜めない健康的な生活を送ることが、病気の予防につながります。加えて、長時間のスマートフォンやパソコン使用時には、1時間ごとに目を休め、まばたきを意識的に増やしたり、ホットタオルで目を温めたりして眼圧上昇を抑えます。これらの対策を講じることで、目の健康を保ち、緑内障のリスクを減らしましょう。


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