目次 -INDEX-

急性間欠性ポルフィリン症
五藤 良将

監修医師
五藤 良将(医師)

プロフィールをもっと見る
防衛医科大学校医学部卒業。その後、自衛隊中央病院、防衛医科大学校病院、千葉中央メディカルセンターなどに勤務。2019年より「竹内内科小児科医院」の院長。専門領域は呼吸器外科、呼吸器内科。日本美容内科学会評議員、日本抗加齢医学会専門医、日本内科学会認定医、日本旅行医学会認定医。

急性間欠性ポルフィリン症の概要

急性間欠性ポルフィリン症(Acute Intermittent Porphyria:AIP)は、肝臓でのヘム(血液中の赤い色素成分)合成に関わる酵素の活性低下を引き起こす疾患です。まれな疾患で、日本では難病に指定されています。

急性肝性ポルフィリン症(Acute Hepatic Porphyrias: AHP )の一種で常染色体優性遺伝形式を取ります。症状の発生には薬剤やホルモン変動などが関わっています。

急性間欠性ポルフィリン症は、ほかのポルフィリン症で見られる皮膚症状を伴わず、急性の消化器症状や神経症状が主な症状です。診断には尿検査が有用で、特定の値が高値を示します。

治療は薬剤の点滴管理や注射が中心となり、病状の長期管理には誘因となる薬剤の回避や規則正しい食事などの生活指導が重要です。

急性間欠性ポルフィリン症の原因

急性間欠性ポルフィリン症は、肝臓のヘム合成に関わる酵素である「ポルフォビリノーゲン脱アミナーゼ」の活性低下を引き起こす遺伝子変異が原因です。 遺伝子の変異によってヘム合成が低下するとヘムができる前の形である「δ-アミノレブリン酸(ALA)」や「ポルフォビリノーゲン(PBG)」が体内に溜まります。溜まったこれらの物質が神経系に毒性を及ぼしてさまざまな症状を引き起こします。

急性間欠性ポルフィリン症の遺伝形式は常染色体優性遺伝であるため、遺伝子の変異を一つ持つだけで発症する可能性があります。しかし、遺伝子の変異があっても必ず発症するわけではなく、特定の誘因により急性発作が誘発されます。

主な誘因には、特定の薬剤(睡眠薬、抗けいれん薬、エストロゲン製剤、抗生物質など)、ホルモン変動(生理前や妊娠)、喫煙、過度の飲酒、感染症、飢餓、強いストレスなどがあります。これらによって肝臓でのヘム需要が高まり、ヘム合成経路の障害が目立つことで発作が起こると考えられています。

急性間欠性ポルフィリン症の前兆や初期症状について

急性間欠性ポルフィリン症は肝臓でのヘム合成が障害されることで、段階的に症状が進行します。ヘムは酸素運搬やエネルギー産生、解毒に必要な成分で、不足すると体のさまざまな部分で不調を引き起こします。

典型的な症状は腹痛、神経障害、精神症状の3つです。

初期には不安感や不眠などの前兆症状が現れ、その後急激に激しい腹痛が出現します。痛みはおへその周りから腹部全体にあり、発作性の差し込むような痛みとして感じられます。

腹痛に伴い、悪心や嘔吐、便秘などの消化器症状や、脈拍増加、血圧上昇といった自律神経症状も現れます。症状が進行すると、末梢神経や中枢神経が侵され、四肢の脱力・しびれ、麻痺、けいれん発作、精神的混乱や幻覚などの神経症状が出現します。

発作時には尿が赤茶色(ポートワイン様)に変色することがあります。ほかのポルフィリン症にみられるような皮膚の光線過敏症は通常認められません。

急性間欠性ポルフィリン症の検査・診断

急性間欠性ポルフィリン症は腹痛や神経症状があっても、CT検査や内視鏡検査などの画像検査では明らかな異常が見つからないことが多いです。原因不明の腹痛と神経症状の組み合わせから本疾患が疑われ、尿検査や遺伝子検査が行われます。

尿検査

尿中のALAやPBGを測定し、これらが著しく高値を示せば急性ポルフィリン症を強く示唆します。発作が治まっている時期でも、尿中にポルフィリン体に関連する排泄物が持続的に認められることが多く、診断の手掛かりになります。

酵素活性検査と遺伝子検査

赤血球の酵素活性検査でヘム合成酵素の低下を確認することで診断を補助できます。確定診断や分類のために遺伝子検査も有用で、急性間欠性ポルフィリン症ではHMBS遺伝子(ヘムを合成する酵素の産生に必要な遺伝子)の変異が検出されます。遺伝子検査により家族内の保因者(遺伝子変異はあるが無症状の状態)のスクリーニングも可能になり、発症予防につながります。

急性間欠性ポルフィリン症の治療

急性間欠性ポルフィリン症の治療は点滴や注射による対応や、生活習慣の見直しが大切です。重症例では肝移植がおこなわれることもあります。

ブドウ糖点滴

急性発作時には、高濃度ブドウ糖の点滴を早期に開始します。ブドウ糖の点滴によって肝臓でのヘム合成が抑制され、ヘム合成過程で生じるALAやPBGといった物質の産生が減少します。体内に貯まったALAやPBGが減少すれば、発作の症状を緩和できます。

ヘムアルブミン製剤の注射

ヘムアルブミン製剤の静脈投与により体内で不足しているヘムを補充し、肝臓のALA合成酵素を抑制します。腹痛や麻痺などの症状改善が期待できます。

鎮痛薬の投与

発作時の強い痛みには麻薬系鎮痛薬(オピオイド)を使用します。ただし、バルビツール酸系鎮静薬(脳の神経を落ち着かせる物質の働きを強める薬)は禁忌です。

生活指導

発作後の長期管理では、再発予防のための生活指導が重要です。誘因となる薬剤の回避、規則正しい食事、過度なストレスや飢餓状態の回避などが含まれます。月経が誘因となる女性患者には、ホルモン療法が有効な場合もあります。

肝移植

重症でほかの治療ではコントロールが難しい難治例に対しては、肝移植も選択肢となります。肝移植により不足した酵素が正常化し、ALAやPBGの過剰産生が起こらなくなり、症状の治癒につながります。

急性間欠性ポルフィリン症になりやすい人・予防の方法

急性間欠性ポルフィリン症は、両親のどちらかが遺伝子の変異を保有している場合に発症する可能性があります。また、20〜40代の女性に症状が現れやすい傾向があります。これは女性ホルモンの周期的変動、妊娠・出産、経口避妊薬などが誘因となるためです。

予防法として、誘因となる要因をできる限り避けることが重要です。特にバルビツール酸系睡眠薬、一部の抗てんかん薬、スルファ剤系抗生物質(細菌の葉酸合成を阻害する抗生物質)、エストロゲン含有薬(ホルモン調整の薬)などは禁忌薬として知られています。アルコール摂取や極端な低カロリー食・断食も発作を誘発する可能性があるため避けましょう。

日常生活では規則正しい食事を心がけ、過度な疲労や精神的ストレスもできるだけ避けることが望ましいです。家族に発症者がいる場合、症状がない親族でも遺伝子検査で変異の有無を調べることで、発症予防につながる可能性があります。

関連する病気

  • 急性肝性ポルフィリン症
  • δ-アミノレブリン酸脱水酵素欠損性ポルフィリン症(ALAD欠損性ポルフィリア)
  • 遺伝性コプロポルフィリン症
  • 異型ポルフィリン症(バリエガートポルフィリア)
  • 先天性骨髄性ポルフィリン症(グンター病)
  • 赤芽球性(骨髄性)プロトポルフィリン症
  • X連鎖性(優性)プロトポルフィリン症
  • 晩発性皮膚ポルフィリン症
  • 肝性骨髄性ポルフィリン症

この記事の監修医師