

監修医師:
佐伯 信一朗(医師)
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先天性副腎皮質過形成の概要
先天性副腎皮質過形成は、生まれつき副腎の働きに異常をきたす病気です。副腎は腎臓の上にある小さな臓器で、体内で重要なホルモンを作っています。この病気では、副腎皮質が特定のホルモンを作る過程に異常があり、必要なホルモンが不足したり、逆に余分なホルモンが過剰に作られたりします。最も多いのは21-水酸化酵素という酵素の働きが弱くなるタイプで、全体の90%以上を占めます。この酵素がうまく働かないことで、副腎皮質ホルモンであるコルチゾールやアルドステロンが不足し、一方で男性ホルモンに似たアンドロゲンが過剰に作られてしまいます。症状の重さは幅広く、命にかかわる重症型から軽度で症状が少ない型までさまざまです。
先天性副腎皮質過形成の原因
この病気は遺伝子の異常によって起こります。両親からそれぞれ異常な遺伝子を受け継ぐことで発症します。21-水酸化酵素の遺伝子異常があると、コルチゾールやアルドステロンを作る過程が妨げられます。その結果、体はホルモン不足を補おうと副腎刺激ホルモンを大量に分泌しますが、肝心の酵素が働かないため、代わりにアンドロゲンが過剰に作られてしまいます。まれに、別の酵素(11-水酸化酵素、17-水酸化酵素など)の異常で起こるタイプもあります。
先天性副腎皮質過形成の前兆や初期症状について
症状は重症度によって異なります。最も重症の「塩喪失型」では、生後1〜2週目から体内の塩分や水分が不足し、脱水、嘔吐、体重減少、食欲不振、元気消失などの症状が現れます。放置すると命にかかわる危険があります。男児では外見上の異常が目立たないこともあり、診断が遅れることがあります。
一方、アンドロゲンの過剰により、女児では出生時から外陰部の男性化がみられることがあります。陰核が肥大したり、小陰唇が癒合して陰嚢のように見えることもありますが、内性器(子宮・卵巣)は正常に存在します。軽症の「単純男性化型」や「非古典型型」では、出生後しばらくは症状が目立たず、思春期早発、身長の急激な伸びと早い成長板閉鎖、にきび、多毛、無月経、不妊といった症状で後に発見されることもあります。また、成人期に入ってから不妊や月経異常で診断されるケースもあります。
先天性副腎皮質過形成の検査・診断
新生児マススクリーニング検査が普及しており、生後早期に疑いが持たれるケースが増えています。この検査では血液中の17-ヒドロキシプロゲステロンという物質の濃度を測定し、基準値を超えていればさらに詳しい検査を行います。血液検査では、電解質の異常(低ナトリウム血症、高カリウム血症)、低血糖、ホルモン値の測定が重要です。
性分化に異常がある場合は、超音波検査で子宮や卵巣の有無を確認します。遺伝子検査では、21-水酸化酵素遺伝子の変異を特定することができます。特に両親が保因者であることが分かっている場合、出生前診断も可能となる場合があります。これらの検査を総合して診断が確定します。出生前診断は、妊娠初期の母体血検査や羊水検査により行われることがあります。診断が早期につけば、出生直後から適切な治療を開始できます。
先天性副腎皮質過形成の治療
治療の基本は、不足しているホルモンを補充することです。コルチゾールの補充には副腎皮質ホルモン剤が用いられ、体内のホルモンバランスを整えます。塩喪失型ではアルドステロンの補充と塩分の補給も必要です。これにより脱水や電解質異常を防ぎます。
アンドロゲンの過剰を抑えるためにも適切なホルモン補充が重要です。成長期のホルモンコントロールは、骨年齢の進行を抑え、最終身長を確保する上でも大切です。女児で外陰部の形態異常が重度な場合は、専門の形成手術が検討されることもありますが、本人や家族とよく相談し、慎重に決定されます。最近では形成手術の時期や適応についても国際的に議論が続いています。
日常生活では、ストレスや病気時に必要量が増加するため、その都度薬の量を調整する必要があります。重症感染症や手術時など急激なストレスがかかる場合には、ステロイドを一時的に増量投与します。ホルモン補充が適切に行われていれば、多くの患者さんは健康な日常生活を送り、就学・就労・妊娠・出産も可能です。思春期以降も定期的なフォローが必要であり、特に生殖機能や骨代謝、心血管リスクなどへの配慮が重要です。
先天性副腎皮質過形成になりやすい人・予防の方法
この病気は遺伝性疾患であり、両親がともに保因者である場合、子どもに発症する可能性があります。両親とも保因者であれば、子どもが発症する確率は25%です。家族歴がある場合は、出生前カウンセリングや遺伝子検査が役立ちます。予防そのものは難しいですが、妊娠前のカウンセリングや妊娠中の適切な管理によって、早期診断・早期治療につなげることが重要です。
最近では、妊娠初期からのホルモン補充によって胎児の性分化異常を予防する研究も行われていますが、安全性と倫理面から慎重な議論が続いています。根治治療はありませんが、早期診断と適切な治療により、長期的な予後は大幅に改善しています。新しい治療薬の開発も進んでおり、将来的にはより安定したホルモン管理が可能になることが期待されています。
参考文献
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